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7.変わり始める未来

第ニ章スタートです。

「ここは……」


 目が覚めて、最初に発した言葉はあの時と全く同じものだった。


 鼻につく独特の臭いで、ここが病院であることがわかる。


 案の定、私――俺はベッドに横になっていた。


 腹部に痛みはない。その代わりに身体のあちこちに鈍い痛みがある。


 ああ……。


 暴漢にナイフで刺された後、芽依によって病院へと運んでもらったのかもしれないと期待したのだが、その僅かな望みも失われてしまった。


 長い間、奥底で眠っていた記憶が呼び起こされ、ここは舞を庇い事故に遭って最初に目覚めた場所であると俺は理解したのだった。


 やはりあいつは、俺を過去に戻したのだ。


 確かに、あのままでは俺は死んでいたのかもしれない。だからと言って、俺はやり直したいなどとは欠片も思っていなかった。


 俺はまた芽依と結ばれたい。心の傷を癒してくれた彼女と共に人生を歩んでいきたい。


 そのためには、舞と森崎には夫婦になってもらう必要がある。


 一度は経験したことだ。舞が俺から離れていくことなど、今の俺にはそれほど苦にはならないだろう。


 前と同じように時を刻んでいけばいい。そうすれば、芽依に会えるはずだ。

 

「ショウくん!」

「え?」


 本来いない筈の舞が、ベッドの脇の椅子に腰かけていた。


「聖太!」


 そして舞の隣には、母さんがいた。


 どういうことだ?


 おかしい……。舞が見舞に来るのは、俺が意識を取り戻してから何日か経った後だ。あり得ない。


「ショウくん、ごめんね……。私、もうショウくんから離れないから」


 何!?


「あらあら、二人きりの方が良かったかしら? オバさんは先生のところに行ってくるから。ごゆっくり~」 

「ちょっと待って! 母さん!」


 母さんとしては気を使ったつもりなのだろう。そそくさと病室から出ていってしまった。


 俺としては母さんに居てほしかった。頭の整理が追い付いていないこの状況で、舞の話を聞いてはいけない気がした。


「ショウくん……。好き!」


 既に俺の知っている未来から、遠ざかり始めていた。嫌な予感がする……。


 あのねショウくん。私、ずっと黙ってたことがあるの。


 ショウくんに迷惑かけたくないって、最近私ショウくんのこと避けてたでしょ?


 ごめんなさい。あれは嘘なの。私ね、本当はショウくんのこと独占したかった。


 だから、ああ言えば優しいショウくんのことだから、私にもっとかまってくれるんじゃないかって思った。


 最低だよね。そのせいで、ショウくんがこんな大怪我しちゃうんだから。


 ショウくんが事故に遭った時、私考えたの。何でショウくんのこと独占したかったんだろうって。


 そこで気付いたの、私、ショウくんのことをとっても愛してるってことに。愛してる人が傍にいてくれて、幸せだったことに。


 だから私、もうショウくんから離れない


 なんなんだこれは……。


 俺は――どうすればいい。舞はあの時も俺のことを想ってくれていた。しかし、今回の舞はあの時とは真逆だ。


 あの時の俺であれば、感激のあまり号泣していただろう。自分の気持ちを伝えて、めでたくハッピーエンド。


 だが、今の俺は舞に対して懸相を抱いてなどいない。それに舞の気持ちを受け入れてしまえば、間接的に芽依の命を奪ってしまう。


 一体どうなっているのだろう。舞の心変わりはあいつが原因なのだろうか?


 だとしたら、俺の力ではどうしようもないのかもしれない。


 …………。


(ううん、ボクじゃないよ。ボクもビックリだよ。舞ちゃんがこんなに君のことを想っていたなんて)


 ふざけるな! あの時だって、お前がやったんだろうが!


(違うよ。ボクは人の考えを変えるなんてできないんだ)


 じゃあ、まだなんとかなるんだな?


(何が?)


 舞を森崎の恋人にする。そして芽依を生んでもらう。


(正気? せっかく舞ちゃんが好きだって言ってるんだから、付き合えばいいのに)


 俺は舞のことをもう人妻にしか思えないんだよ。不倫してるみたいで気分が悪い。それに俺の妻は芽依だ。彼女しかいない。


(ふーん、そっか。じゃ頑張ってね。過去に戻した時点でお詫びは済んでるから、ボクは手伝わないよ)


「うるせーよ」

「え、ショウくん?」

「あ、ごめん。なんでもない」


 心の声を実際の声にしてしまったらしい。


 あいつめ……いきなり頭に直接語りかけてきやがった。とりあえず今は――。


「舞の気持ちは嬉しい。だけど舞の気持ちには応えられない」

「うん、分かってる。私、今まで助けてもらってばっかだったもんね。今度は私が、ショウくんのことを助けられるようになるから」

「そういう意味じゃなくて……」


 結局、俺はその場で舞を突き放すことは出来なかった。


 なるべく穏便に舞とは距離を取らなければならない。強引な手段を使えば、幼馴染としての縁を切られてしまう可能性もある。


 そうなると、今度は生まれてきた芽依と接点がなくなってしまう。芽依と赤の他人となってしまうので、それは避けたかった。


 ★★★★★


 入院期間中、舞は毎日学校終わりに見舞に来てくれた。そして、授業の内容を纏めたノートを俺に渡してくる。


 俺はそこまでしてくれなくてもいいと言っても、舞は「私が勝手にやってることだから気にしないで」と聞かなかった。


 舞と俺の立場が逆転していた。俺は以前、舞に気にするなと言っていたが、ここに来てようやく舞の気持ちが少しだけ分かった気がする。


 退院後、俺は二度目の学校生活に戻った。


 未来では老朽化のため、取り壊されてしまう校舎。高校卒業以降、あまり連絡を取っていなかった友人との会話。


 懐かしかった。楽しかった。


 あの時は舞のことで頭が一杯になっていたが、よくよく考えてみれば、高校時代も悪いものではなかったのだと気付かされた。


 だが、感傷に浸ってはいられない。俺がやらなければならないのは、森崎と舞を恋人同士にすること。


 前回同様、舞の交友関係は俺が入院する前よりも広くなっていた。舞は俺以外とも普通に会話している。


 しかし、ここでも俺の知っている未来とは異なる点があった。


 舞は女子と話しをすることはあっても、男子とはほぼ話しをしなかったのだ。


 舞と森崎をくっ付けるためには、俺が一肌脱ぐ必要がありそうだ。

 

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