初日 夜
早く自分の部屋へ帰ろう。
ひとりでに玄関が開いたと思われるといけないので、
誰もいないのをしっかり確認し、
交通ルールを学んだばかりの小学生のように何度も周りを確認し
玄関をあけ部屋へと入った。
まずトイレへと向かい、
その後すぐに風呂へと向かい身体を洗う。
色々なことがあった。
ササっと飯でも食べて寝よう。
自炊などもちろんしないので、
冷凍のチャーハンを電子レンジに入れる。
なかなか気に入ってるのだ。
その後軽く食べた後は眠りについた。
しかし、疲れているハズだがあまり寝付けず
今日あったことを振り返っていたために目が覚めてきて
深夜徘徊をしようと決めた。
さっきは何も考えず玄関を開けたが、
よく考えれば人がいるとまずいので、
のぞき窓からじーっと外を観察し
ようやくのそのそと外へ出る。
意外と素足にも慣れたものだ。
夜で歩くのは透明人間になる前から好きで、
夜風にあたりながらぼけーっと歩くことは多かった。
しかし透明人間になってからの深夜徘徊はとても新鮮だった。
以前までの自分は暗いとは言っても危険なところなどはいかず
誰かがやってきてもすぐに逃げられる場所
例えばコンビニ付近をそろそろと回ることが多かった。
しかし、この身体ではそんな恐怖を感じる必要もないので
少したむろしている人間の周りに近寄ってみたり、
カップルが公園でたたずんでいるところに砂を投げてみたり
色々なことができた。
愉快愉快と満足して帰ろうとしていると
塾帰りのような少年が、
カバンを持っていて、近くの塾方向から来たから
そう判断しただけで実際は違うのかもしれないが
複数人のガラの悪い人たちに絡まれていた。
気の弱そうな少年は今にも泣きそうでなにか謝罪しているが
男たちはまったく聞き入れようとしない
何が起こったのかとかは全く知らないが
自分はポイ捨てなどを見ると注意はできないが、
拾ってゴミ箱に入れに行く程度には正義感というか強迫性があるので、
それを見過ごすことができず
状況を全く知らないのに独善的かなとは思いながらも
公衆電話で警察に場所だけ伝え
近くにあったゴミ袋 中身は結構入っている
もので殴り掛かった。
不意の衝撃だったのでかなりバランスを崩して
周りの人間も少年でさえも何が起こっているのかわからずとまどっていたが
ガラの悪い人間が怒りをそちらに向けたおかげで
少年は解放された。
心臓の鼓動はとてもはやく、
手先は震えているが、
とても気分がよかった。
それは別にいいことをしたからとかではなく
少年がなぜ詰められたのかを知らないからいいことも何もわからないのだが、
絶対に反撃をされない立場で、
自分が嫌悪感を抱いた人間に暴力をふるえたというのが
とてつもなく興奮し、気持ちがよかった。
自分はいじめられっ子が力を手に入れた瞬間
気が大きくなって調子に乗るようなものは嫌いだったのだが
同族嫌悪だったのかなと感じた。
そのまま気を付けて玄関を開け、
また風呂に入り、
そのあと寝床につくと、
今までの生涯において一番の寝つきであった。




