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透明人間徘徊冒険譚  作者: あ
1/6

初日 朝

透明人間になった。


朝目を覚まし、顔を洗おうと鏡の前に立った時気づいたのだ。

透明人間になっていると。


そこからは正直何も考えられず、とりあえず歯を磨き、

パンを焼いて食べたのだが、

特に歓喜したり絶望したりということは無かった。


自分は友人もおらず、一人暮らしで親とは少しメールでやり取りする程度で、

仕送りをもらって死んだように生きている、

所謂ニートと呼ばれる人間だからだ。


30分ほど時間がたち、頭が回るようになったとき、

あぁ別に今までも透明人間みたいなものだったな、誰も自分のことなど覚えていないだろうし、

自分も他人にそれほど興味など抱かなかった。


今更透明になったところで、以前と変わることなど一人カラオケに行けなくなるくらいかな

と考えていた。


いや違うな、できなくなったことはそれくらいだが、できることは大きく増えるだろう。


例えば自分は外出が大の苦手だし、映画館やカラオケぐらいにしか行かなかったが、

散歩というものもできるじゃないか、

銭湯に入ってみるというのもいいかもな、自分はあれが大の嫌いだったが、

それは人の視線を浴びてしまうからだ。


昔から人に見られるということが嫌いだったから、

少しでも注目される可能性があるのならば

そういったところには行かないようにしていたのだが、

今は透明人間になっているのだ。

そういったこともいいのかもしれない。


だがそうか、透明になっているのは自分の身体だけであって、

身に着けているものはそのままだ。


とはいえ裸、とくに素足で外に出るというのは苦痛でしかない。

潔癖症というわけではないが、道の汚れも気になるし、

何より靴を履かなければ足が痛いだろう。


うんうんと悩んでいたが、外に出たい好奇心と比べればその程度わけなかった。

ガチャリと玄関を開け裸で一歩を踏み出す。

危なかった。

玄関のすぐ前には蟻がいた。


蟻は別に苦手というわけではないがさすがに素足で踏むほど好きでもない。

ひょいとよけて今度こそ一歩を踏み出す。

そこからはすたすたと二歩目三歩目。

とても楽しい。


裸で外を出歩くというのはなんと開放感があるのか。

自分は家では服を着ていたが、服を脱いで裸で過ごす人がいる理由も確かに理解できる。

しかし、車や歩行者はこちらを見えていないので、こちらから避けなければいけない。

少し面倒だが、なかなか面白い。


少し歩くと駅まで来た。改札はひょいと通り抜けて、

椅子に座っている高校生のスマホを覗き見る。

何気ない会話を友達としているようだが、覗き見ているという背徳感故だろうか

すごく興奮する。


その興奮は性欲にも繋がり

透明になったからには下からパンツを覗き見るなどしてみようかと考えたが、

こちらを見えていない分相手の行動が読み辛く、

ぶつかったりするわけにはいかないと慎重になりすぎて、うまくいかない。

そうこうしているうちに、こんな下劣な行動をしている自分が情けなくなって

すたすたと駅から退散した。


これからどうしよう。

先にも言ったが、透明人間になったことにさほど歓喜も絶望もない。


いや、それは嘘だ。いまとてもわくわくしている。

全能感が身体を支配していると感じる。

今なら何でもできる。完全犯罪だってできる。

自分は消えたのだ。

考えるだけでも楽しい。


しかし腹が減った。

さすがに外食などはできないし、

盗みなどは物が浮遊しているように見えるだろうから無理だろう。

いったん家に帰ろう。


これからの人生に希望を感じる。

こんなにも楽しいと思ったのはいつ以来だろうか。

何をしようか。

スキップでもしながら帰ろうか。

楽しみだ。あぁ

楽しみだ。



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