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36話『本当の決着』


「お、おぉ……信じられん。逆探知には気づいていたが、どうやって、一瞬でここに……?」


「さぁな。知人によると、俺は常識の外側に生きているらしいぞ」


 普通に走っただけと伝えると、余計混乱されそうなので誤魔化すことにした。

 とはいえ久々に全力で走った。地面が滅茶苦茶になるので普段はここまで力を出さない。


 巨人回しは既に観念しているらしく、落ち着いている。やはり高位の術者なのだろう。彼我の差を瞬時に察し、抵抗はかえって自分の首を絞めることに繋がるとよく理解している。


「巨人回し! これはどういうことだ! アリス=フィリハレートの暗殺はどうなった!?」


 一方、恰幅がいい男は取り乱していた。


「失敗です。いやぁ、これはもう……無理ですな」


「な、む、無理だと……!? き、貴様、何を開き直って……!!」


「ここまで非常識な相手が敵に回っているとなれば、抵抗する気も起きません。公爵殿、ともに冷たい牢で余生を謳歌いたしましょう」


 そう言って、巨人回しは俺を見つめる


「はは……この目で見ても信じられない元素の量だ。有り得ん……まるでS級ダンジョンが、意思を持って動いているかのようだ……」


 その表現はあながち間違いない。

 なにせ俺の身体には、七つのS級ダンジョンの力が宿っているのだから。


「……降参だ。好きにしてくれ」


 巨人回しの方は潔く降参した。

 俺はすぐに、尻餅をついたままでいるもう一人の男を見る。


「そっちのお前は、フラマク公爵家の人間だな。拘束させてもらうぞ」


「ふ、ふざけるな! 誰が貴様の言うことなど――」


 全身から混沌元素を発した。

 黒々とした波動が部屋を満たし、視界を埋め尽くす。

 元素の放出を止め、再び公爵を見ると――その顔は恐怖に青白く染まっていた。


「提案ではなく、命令だ」


 公爵はゆっくりと視線を下げ、抵抗の意思をなくした。

 これにて一件落着と言いたいところだが……ひとつだけ、この男には訊きたいことがある。


「どうして、アリスが天賦元素を宿していると知っていた」


「……なんだ、そんなことか」


 弱々しい笑みを浮かべ、公爵は語り出した。


「ふ、ふはは……っ! おかしいと思わないのか? 公爵家の次女が、家職も継がず、暢気に教習所へ通っているなんて。……探索者としての才能が見込めないなら尚更だ。あれほどの美貌なら、政略結婚の駒にでも使った方がよほど家のためになるだろう。……そうしなかったことには理由がある」


 公爵は続ける。


「フィリハレート公爵家の人間は、ずっと待っていたのだ。あの小娘が天賦元素に覚醒する時を。だから敢えて、小娘を自由にしていた」


 その言葉を聞いて、俺は目を丸くした。


「……アリスの家族は、天賦元素について知っていたのか」


「ああ。天賦元素を宿す者は、生まれた瞬間に大量の元素を発する。そのため、あの小娘の出産に立ち会った者は全員、その存在に気づくことができた。……私はその情報を、産婆から買い取っただけだ」


 これで全てのタネは解けた。

 ほんの少しだけ安堵する。アリスは別に、家族から見捨てられているわけではなかったらしい。


「聞きたいことは以上だ。王都まで来てもらうぞ」


 この二人の身柄は然るべき組織に引き渡す。

 それで、俺の役割は終わりだ。


「貴様は一体、何者なんだ……?」


 公爵が最後に訊いた。

 俺は少し考えてから、その問いに答える。


「ただの教官だ」



次話がエピローグです。

本日の正午に投稿します。



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[気になる点] ・心配してくれるのはありがたいが、実を言うとそこまで困っているわけじゃないんだ。協会から追放といっても、あくまでこの国に限った話だし……他の国に行けば、また探索者として活動できる」 …
[一言] アリスの家族(公爵家)は産婆に『口止め』しなかったのか… または、わざとアリスを危険にさらし覚醒を促したか…
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