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15話『ドルセンびっくり』


「ば、馬鹿な……確かにこれは、金糸雀の花だ……!」


 教習所に戻った俺は、廊下を歩いていたドルセンさんに金糸雀の花を渡した。

 するとドルセンさんは、目を見開いて俺が渡した薬草に注目した。


「では失礼します。まだ昼食をとっていないので」


「ま、待て!」


 何故か呼び止められる。

 振り返ると、ドルセンさんは顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいた。


「貴様、どんな手を使った!? 金糸雀の花は、『刻々大帝の砂岩宮』の二十三層以降でないと入手できない筈だ!」


「いや……だから、そこまで行ってきたんですけど」


「嘘をつくな! あそこはC級ダンジョンだぞ! 優れた探索者がチームを組み、綿密な計画を立てて辿り着くならともかく……たった一人で、何の準備もせずに辿り着くなど有り得ん! 大体、こんな昼休みにふらっと行って帰れるわけがないだろう!」


 そんなことを言われても……じゃあどう答えればいいのか。

 厄介なことに、提示できる証拠もない。


「というか! その手に持っているものは何だ!?」


「城下町で買ってきたホットドッグです」


「C級ダンジョンだぞ!? 一線級の探索者ですら、気を抜けば命を落としてしまうような場所だ! そんな場所に行っておきながら、暢気に飯など食えるわけがないだろう!」


 食えるのだから仕方ない。

 とは言え、ドルセンさんの言いたいこともなんとなく分かる。確かに『刻々大帝の砂岩宮』は難易度が高いダンジョンだ。その二十層以降まで探索するとなると、普通は日帰りが難しいかもしれない。


「しかし、昼休み中に帰れないと思っていたなら、どうして俺に金糸雀の花を採って来いなんて頼んだんですか?」


「ぬぐ……! そ、それは……っ!!」


 途端にドルセンさんは脂汗を吹き出し、焦燥した。


「お、おっと、いかん。そろそろ授業の準備をせねばならんな。……今回はこのくらいで勘弁してやろう」


 そう言ってドルセンさんが踵を返す。

 急いで立ち去ったドルセンさんの背中を見届けてから、俺は職員室へ戻った。




 ◆




 夕焼けが街を照らし、教習所が放課後を迎えた頃。

 俺は教習所を出て、職員寮へ向かおうとした。


「……あっという間に、一日が終わったな」


 今後は少しずつ授業も増えてくる。厳しくなるのはこれからだろう。

 初日はどうには無事に終えることができた。まだ慣れないことも多いが、少しずつ勉強して適応しなければならない。


「あ、レクト教官」


 グラウンドを横切っていると、声を掛けられる。


「アリスか」


 金髪碧眼の美しい少女がそこにいた。

 確かアリスは寮で暮らしていた筈だが、その足は異なる方角へ向いている。


「これから外出か?」


「はい。クラスメイトたちと一緒に探索者協会へ赴いて、来週の実習について色々とお話をお伺いするつもりです」


「実習?」


 聞き慣れない単語に首を傾げると、アリスは目を丸くした。


「私たち教習所の生徒は、定期的に実習という体裁でダンジョンを探索するんです。そこで活躍することが、卒業条件のひとつに含まれます」


「そうなのか。……俺がいた頃にはなかった制度だな」


 最近の生徒たちは基礎能力が高いらしいから、試験内容も本格化しているようだ。


「今からそのための対策をするのか。……勤勉だな」


「えへへ、ありがとうございます!」


 成る程、どうりでクラスメイトたちから慕われるわけだ。

 公爵家の令嬢というのだから、てっきり取っつきにくい感じを予想していたが、アリスは非常に親しみやすい性格をしていた。素直で、努力家で、応援したくなる少女だ。


 協力してやりたいのは山々だが、協会を抜けた俺は、最近のダンジョンの情報を仕入れる手段を失ってしまった。話せることは幾つかあるが、この点に関しては協会に頼った方が確実だろう。


「……協会に行くなら、少し伝言を頼んでもいいか?」


「伝言ですか?」


「ああ。今から言うことを、ミーシャという人物に伝えて欲しい」


 俺はここ数日、ダンジョンで感じた違和感についてアリスに説明した。

 C級ダンジョン『刻々大帝の砂岩宮』で、クリスタルゴーレムがいつもより浅い層にいたこと。D級ダンジョン『渦巻く深淵』に、本来なら出現しない筈のミノタウロスがいたこと。それらを簡潔にアリスへ伝える。


「……分かりました。お伝えしておきます」


「よろしく頼む。多分、俺の名前を出せば伝わる筈だ」


 真剣な面持ちでアリスが頷く。


「そう言えば、私が『渦巻く深淵』を探索した時も、モンスターがいつもより多かった気がします」


「……それについて訊きたかったんだが」


 俺はアリスに質問した。


「どうして、一人であのダンジョンに潜ったんだ? あそこは見習いにはまだ早いだろう」


「そ、それは、その……」


 どこか言いにくそうにアリスは答える。


「……実戦経験を積めば、成長できると思ったんです」


 きっとその考えは浅はかだったと自分でも反省しているのだろう。

 アリスは落ち込んだ様子で目を伏せた。


 ――劣等感があるのか。


 今日の実技の授業でも、アリスは他の生徒と比べて術式を上手く発動できていなかった。


 昼休み、職員室で昼食をとりながら資料を見たことを思い出す。

 確かアリスの元素レベルは、このような内容だった筈だ。



**********************************


●アリス=フィリハレート

【属性レベル】

 総合:10

  火:14

  水:10

  土:13

  風:13

  雷:14

  光:3

  闇:3


**********************************



 全体的に、レベルが低い。

 しかも得意な属性が存在せず、バラバラに伸ばしてしまっている。


「アリスは、元素レベルが殆ど同じ値だったな。得意な属性を作ろうとは思わなかったのか?」


「いえ、最初はそう思っていたんですが……その、どの属性を伸ばそうとしても、しっくりこなくて……」


 訥々と、アリスは語った。


「言い訳なのは承知しているんですが……違和感があるんです。火や水の元素を使っても、途中で手応えを遮られるというか……まるで、何かに邪魔される(・・・・・・・・)ような感触があって」


 その説明を聞いて、俺は顎に指を添える。


「……違和感か」


 実技の授業でアリスの体内元素を見た時、俺も違和感を覚えた。

 もしかすると、アリスが元素を上手く操作できないのは、何か理由があるのかもしれない。


 改めて調べてみるか。

 そう思ったが、遠くでアリスのことを待っている生徒たちの姿を見つけた。


 協会に寄るなら、日が暮れる前に行った方がいい。

 アリスの違和感とやらは気になるが、また今度でいいだろう。


「とにかく、無謀な真似はしないでくれ。……俺はまだ教官になったばかりだからな。いきなり生徒が怪我でもしたら、落ち込んでしまう」


 冗談交じりに告げると、アリスは小さく笑みを浮かべた。


「はい。気をつけますね、教官」






 光属性と闇属性は、そもそも該当するモンスターが少ないので、中々レベルを上げにくいという事情があります。



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