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6話 武器契約

 出現するモンスターは低級の上、数も少なく氾濫の可能性がない。危険性は皆無でダンジョンに潜るメリットも少ないためどこにも管理されていないダンジョンのことを野良ダンジョンという。

 俺が今潜っているダンジョンも野良ダンジョンの一つだ。

 親方のおかげで『武器と戯れる者』について色々と分かったとはいえ実践でどうなるかは分からない。

 ここなら人もいないし比較的危険も少なく、能力を試すのに丁度良い!!


 ぴょんぴょんと跳ねるスライムを相手に剣を投げ捨て、武器を入れ替えながら斬りつける。

 能力の発動時間は10分間で1度切れると30分のクールタイムが必要になる。


 カウントは100まで溜まり、カウント1つにつき武器の練度を上げることができる。練度が上がれば武器を使用した際の反動を軽減したり、その武器の特性を引き出せたりする。


 カウントを溜めるには武器の使用が必要で一つの武器につきカウントは1しか溜まらない。10分間の間に100種類の武器を使用すればカウントが100まで溜まり、100以上は溜まらない。


 武器といっても、投げナイフや矢のような消耗品ではカウントは溜まらない。

 しかし、これには抜け穴がある。普通の武器を投げると使用したと判断されカウントが溜まるのだ。ただ、適当に投げたらいいというわけではなく、きちんと一定以上の速度で飛ばすとカウントされる。


 基本は武器を入れ替えながら戦って、少し離れた敵は武器を投げてカウントを溜めるのがいいという結論に至った。


 さて、何度も何度も斬ったはずのスライムだが元気そうな顔をしてぴょんぴょんと跳ねている。


 この能力の問題点はいくつもあるが、これもその一つだ。

 確かにスライムは物理的な攻撃に対して強いというのはあるが、それでも一般的な冒険者なら数回、もしくは一撃で倒すことができる。


 能力で武器の練度が上がったところで、元々が弱い武器では大した力にはならない上に自分自身が強化されるわけではないのでこのスライムすら倒せない始末だ。


 しかし、武器が良ければそれなりにはなる。

『炎剣』、Cランク武器で炎を剣に纏わせることができる。

 本来の俺が使用すれば、反動で右腕全体が火傷をするところだが、練度が上がった状態なら反動もなく扱える。


 スライムを炎剣で突き刺すとスライムは炎によって一撃で消滅した。


 熱っ!! 手のひらを軽く火傷している。

 今回は武器を30本しか持ってきていないため、カウントを30しか溜めれていない。これでは全ての反動をなくすことはできなかったか。


 これが二つ目の問題点、そもそも武器100本は相当な数で持ち運びが大変だ。


 他にもカウントを溜めるまでに時間がかかるところや、クールタイムがあることなどなど、問題点のオンパレード状態となっている。


 スライムを狩りながらダンジョンを進みボスを発見した。

 ここまで辿り着くのに3時間もかかっている。

 冒険者ならもっとスピーディに駆け抜けたいところだが素の俺ではスライムを倒せないため、『武器と戯れる者』を発動して進み、クールタイムが終わるのを待ってを繰り返してようやくだ。


 ボスは2メートル程の巨大スライム、動きは遅いがその体には麻痺毒と強酸性を持っている。

 スライムの体に触れると麻痺毒により体が痺れてしまう。即効性はないものの長時間触れていると触れた箇所は一定時間動かなくなる。

 後は動かなくなった獲物を強酸で溶かして終わりだ。最悪なのは意識が残ったままで、自身の体が溶かされていくのをゆっくりと感じなければいけないということ。

 恐ろしすぎる……


 このダンジョンの難易度が低いのは遭遇しても戦闘せずに逃げれば大丈夫ということで、戦闘をするというならば話は変わる。特にソロの場合はかなり苦戦を強いられることだろう。


 巨大スライムへ攻撃を繰り返し、カウントを溜めてから炎剣で巨大スライムを燃やそうとするが、さすがにボスというだけあって耐久力はなかなかのものだ。それでもお構いなく燃やし続ける。

 気づけば巨大スライムは燃え尽きていて、自分の両手を見ると火傷で酷く爛れていた。

 やはり、カウントが30程度で武器を全力で使えばこうなるのかと改めて実感するとともに、カウントが100ならとも考えてしまう。

 何にせよ今までだったら倒すことなんてできなかったモンスターを倒すことができたことを喜ぼうと思う。

 それと同時にあることを決意した。


 『武器と戯れる者』の検証の際に悪い点ばかりが目立ったが、良い点もあった。『武器と戯れる者』のカウントを100溜めると新たな固有能力が追加されたのだ。

 しかし、今回追加された能力は割と知られている固有能力で大まかな概要は分かっている。


『武器契約』

契約した武器を収納・回収することが可能となる。

契約した武器は他者が使用することが不可能となる。


 これが一般的な武器契約なのだが、俺の武器契約は少し違う。


『武器契約』

武器と契約することができる。

契約した武器を収納・回収することが可能となる。

契約した武器は他者が使用することが不可能となる。

契約した武器を使用する際に練度を10加算する。


 一般的な武器契約は長年使い込んで武器が自身の体の一部とすることができたなら、その武器と契約ができる。

 しかし、俺の武器契約は好きな武器を選択すれば契約できてしまうのだ。

 練度10加算に関しては『武器と戯れる者』に属する能力だろう。

 炎剣が最もランクの高い武器だったため、契約しようとすると、頭の中に警告が流れてきた。


ー警告ー

この武器は契約をするのに適していない可能性があります。

契約をしてしまうと元に戻すことはできなくなります。

本当に契約をしますか?


 このような警告が出てきた時は驚いたが、タイマーやカウント・警告など俺の能力は随分とゲームに近い気がする。

 親切で分かりやすくありがたいが、正直に信用していいのかは分からない。

 他の武器でも試してみると唯一『黒紅』だけが適している可能性があると分かった。


 警告にびびって契約していなかったが、ダンジョンに潜りスライム相手に苦戦する現状を打破するための変化はこれしかないと決意していた。


ー警告ー

契約をしてしまうと元に戻すことはできなくなります。

本当に契約をしますか?


……はい


ー警告ー

『黒紅』と契約しました。

この契約は変更することができません。

武器契約にやり下記特典が付与されます。

①『黒紅』の練度が10追加されます。

②『黒紅』の一部ステータスが付与されます。


 練度10の追加は分かっていたけど、ステータスの付与は今の俺に最も必要なものだ。

 ステータスが低いといくら武器が強くても宝の持ち腐れにしかならないからだ。

 どの程度の付与なのかは分からないが、多少なりでも十分すぎる。



§ § §



 初級ダンジョン『リアク』

「炎剣!!」

 やっと能力にも慣れてきて炎剣を使っても火傷を負わずに済むようになってきた。

 黒紅と契約してから、いくつかのダンジョンに潜り研鑽を積み、今日もパーティに入れてもらってダンジョンに潜っている。それもこれも光月さんの尽力のおかげだ。


「皆月さん、最近野良のダンジョンに一人で潜ってますよね?」

「最近はパーティに入るのが難しくて……」


 元々、最弱の荷物持ちの俺がパーティに誘ってもらえるなんてことはほとんどなく、あの一件もあって皆無に等しかった。

 危険とは分かっていてもパーティに入れない以上、野良ダンジョンに潜るしかないのだ。


「分かっています。パーティはこっちで探すので無理はしないで下さい」


 そうしてパーティを組むことができたのが今のメンバーだ。

 このうちの二人は幼なじみらしく一緒に冒険者になったらしい。男の方は槍使いの光哉、活発的な性格でこのパーティのムードメーカー。ダンジョンに潜っていてもよく喋っていて緊張感など感じさせない。しかし戦闘になると慎重的で相手の動きを冷静に観察して臨機応変に対応する。

 女の子は魔法使いのあかねちゃん。光哉とは真逆のような性格で普段は温和でおっとりしているが相手を見つけるとスイッチが入ったように攻撃的になり大きな炎魔法を連発するようになる。

 そして俺と同じで一人でこのパーティに入っている男がもう一人。ただ、これといった特徴はない。

 悪い人ではないと思うけど、本当に普通なのだ。

 まだ冒険者になって日が浅いメンバーが数人集まったような即席パーティだが、いくつかの初級ダンジョンはクリアできている。


 ともかくパーティの雰囲気は悪くない……

 俺が最弱の荷物持ちなんて呼ばれているのを知らないんだろう。

 モンスターを倒す俺を見て称賛を送ってくれる。

「皆月さんやっぱ凄いですよ!!」

「ほんとほんと、これでGランクだなんて思えないですよ」

「すごいなぁ……」

 

 これも全てステータス付与によるものだ。この付与された分は鑑定では反映されてないらしく、Gランクは変わらずだったが、今の俺のステータスは一般的なGランクを優に超えEランク近い。

 このレベルのダンジョンなら苦戦することはない。

 ダンジョンをサクサクと進んでいると、モンスターが1体やってくる。2メートルを優に超えるその巨体はゆっくりと近づいてくると。遠目には人に近い見た目だが、全く異質の存在。

 体全体が石で構成されていて、異様な存在感を放つこのモンスターがこのダンジョンのボスであるストーンゴーレム。


 特徴のない男は先手必勝とばかりに斬りかかるが、甲高い不快音が鳴り響く。

 今までのモンスターならその一撃で仕留めれるか、大きなダメージを与えられていたが、今回のモンスターは一味違うようだ。

 ほぼ無傷に近い。むしろ斬りつけた剣の方が欠けている。

「なんだ、こいつ硬すぎる!?」


 全体的に防御特化と判断したのだろう、光哉はゴーレムのヒジ、膝、首元の関節へと素早い3連突きを放つ。

 だがやはり、甲高い音とともに攻撃は弾かれる。

「くっ……」

「魔法で攻撃します!!」

 あかねによって放たれた火の玉はモンスター目掛けて飛んでいくが、何事もなかったように腕を大きく振り上げ光哉に攻撃を仕掛ける。

「おっと、危ない危ない」

「魔法効いてないみたいだよ」

「どうしようか」

 ストーンゴーレムは動きは遅いが硬く攻撃はなかなか通らない。

 無理に攻撃をしていると体力だけが消耗していく……が、今の俺なら問題ない。


「俺がやってみる」

「えっ、でも……」

「ここは皆月さんに任せよう」


 武器と戯れる者……発動。


 ダンジョン内に甲高い音が鳴り響く。

 ゴーレムの攻撃を避け攻撃するがこちらの攻撃ではびくともしない。


 何本の剣が折れただろうか、刃が潰れたろうか、それでも攻撃の手は緩めない、いや……緩めることはできない。

 頭の中でカウントが100溜まったとアナウンスが聞こえる。

 満を辞して、黒紅を握る。封印をされているとはいえ俺の持つ武器の中では炎剣に並ぶ攻撃力を誇る。純粋な物理攻撃の性能なら断然こちらが上だ。

 大丈夫だとは思うが、加減して斬ってみるか。

 ゴーレムを斬りつけると今までとは全く違う手応え、黒紅に刃こぼれなし。そして、ゴーレムには傷跡が残る。

 問題ないな、ギアを上げて一気に畳み込む。ゴーレムの攻撃は空を切る。傷跡がみるみるうちに増えていき動きが鈍くなっていく。

 特に重点的に足を攻撃しているとゴーレムが膝をついた。この隙は逃さない、首元に一線……

 首を落とすとまでとはいかなかったが、ゴーレムは動きを止め崩れ落ちた。


 ストーンゴーレムを倒したところで、呆気にとられていたパーティの一人が口を開いた。

「すっ、凄すぎる……こっこれじゃあ……」

「そうだね、皆月さんがいるおかげで倒せたけど、私たちには早かったかも……」

「急に強くなったような気がしたけど何かの魔法か? 聞いてみようぜ」

「ダメだよ、能力については詮索しないのがマナーでしょ」


 ダンジョンから帰るとパーティを解散したいと告げられた。

 これまでも何度も経験したことだが、こっちのレベルが高すぎるとの理由で解散を申し出られたのは初だな……

 雰囲気も良かったし少し寂しい気もするが、元々即席のパーティだったのだし喧嘩別れをしたという訳でもない。

 冒険者を続けていれば会う機会も少なくないし、また組む時があるかもしれない。

 またいつか……とパーティを後にした。


 それよりもあのレベルのダンジョンなら問題なく戦えると分かったのは十分な戦果と言えるだろう。

 一人だと野良ダンジョンにしか入れず困っていたところだったし。

 しかし、こうなるともう少し上のレベルのダンジョンに挑みたいが難しい問題だ……

 またパーティ探しをしないといけない。



§ § §



 店内には煙が充満し、あちらこちらに大量の酒瓶が乱雑に転がる。飲み明かしたのだろうか、幾人かは顔を赤く染め机にうつ伏せになり寝ている。幾人かは微かに意識を保ち仲間同士で会話を交わす。

 男も女も入り混じっているが、共通するのは全員が武装していることだろう。

 酒屋ではあるが一般人が入ろうとなどとは思えない異様な空気の中、リーダー格である男が奥のソファで深く腰掛け、両手に女性を侍らせる。

 その男に目もほとんど空いていない今にも眠りそうな男が愚痴混じりに声を発する。

「聞いて下さいよ、最近妙なやつが初級ダンジョンをクリアしてるらしいですよ!!」

「それってあれだろ、『最弱の荷物持ち』だろ、名前の通り大きなリュックに武器を大量に持ってダンジョンに潜ってるよ」

「パーティに寄生してるだけだろ」

「いや、どうやら『最弱の荷物持ち』がボスを倒したらしいとか」

「なんか、いい武器でも手に入れたんじゃねえの」

 あれやこれやと酔っ払い達が口論していた中、ソファに掛けていた男が静かに口を開く。

「丁度そいつに興味があるっていう高貴な人がいてなぁ、殺してもいいからそいつの担いでる武器が全て欲しいらしい」


「高貴な方ねぇ、誰なんですかい?」


「死にたくなけりゃあ、興味を持つな、それとも死にたいのか?」


「勘弁してくださいよ、冗談じゃないですかい、金さえ貰えれば誰でもいいでわ」


「成功すれば9桁以上らしい、あいつに連絡をとって段取りさせろ、ついでに小銭も稼ぐぞ」


……!?


 酒場の雰囲気は一気に重く冷たいものに変わり、全員が不適に笑みを溢していた。

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