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4話 武器と戯れる者

 俺は『ガラント洞窟』の前でダンジョンでの出来事を思い返しながら空を眺める。

 空を見上げているとギルド職員がやってきた。

「では皆月さん、クリア後とはいえお気をつけください」

 ギルド職員と軽く言葉を交わしダンジョンへと1人で潜って行く。


 ギルド職員は恭しく頭を下げダンジョンに向かう俺を見送ってくれる。


「ありがとうございます。行ってきます!!」


 クリアというのはボスモンスターを倒してダンジョンの活動が一時的に止まることを言う。

 その上、このダンジョンは他のモンスターも一掃されているため、もぬけの空となっている。

 ギルドと交渉をして不知火の捜索が打ち切られたダンジョンを一人で潜って不知火を探すことにした。


 しかし、探せど探せど一切見つかる気配がない。それもそのはずか今探しているのはいわゆる、正規ルートを使って地下10階まで降りてきている。

 しかしこのダンジョンはゴブリンが抜け穴や部屋を掘って作っている。

 そこに僅かな希望をかけて捜索するがやはり見つからなかった。

 最後は俺の落ちた抜け穴から探していく。

 腐臭漂うゴブリンたちの死体置き場も探すが不知火の姿はない、そして倉庫のような部屋も探す。

 やはりいない……


 自分でここまで探して見つからずにようやく諦めがついた。

 別に不知火とは仲が良かったというわけではない。それでも助けを求めるあの眼が忘れられなかった。


 辺りにある武器やアイテムになんとも言えない感情をぶつける、ボロボロの剣や盾を壁に投げつける。

「ハァ、ハァ、ハァ」

 一頻り暴れて壁に背をつけて座り込む。

 冒険者にとって弱さは罪だ。敵を倒すこともできないし、仲間を守ることもできない。

 不知火は才能もあった。生きていればそれなりに有名になっていたはずだ。

 もうとっくに忘れていた感情が蘇ってくる。

 強くなりたい、いつからか自分には無理だと諦めていた。


 倉庫にある武器やアイテムをとりあえず片っ端からアイテムバッグに詰め込んでいく。

 一般的に冒険者の持つアイテムバッグには空間を拡張する魔法がかけられていて、ただの背負いバッグに見えてもかなりの量を収納することができる。

 俺の持っているものはそれほど品質が良くないため、ゴブリン2、3匹程度の死体しか入らない。

 この程度の容量では到底、部屋のアイテム全てを入れることはできない。

 仕方ないので入らない分は手で持って帰るしかない。

 ダンジョンを出ると辺りは真っ暗で人もほとんどいない。目立ちたくなかったし丁度良かった。


 ギルドで不知火は見つからなかったと報告をして回収した武器やアイテムを見せる。

 基本的にダンジョン内で所有権を失った持ちものは持ち帰った人物に所有権がある。

 その全てが俺のものになったが、初級ダンジョンで大したものなんて多くはないだろう。

 ついでにスキル鑑定をしていきたかったが受付がいっぱいで受けれそうになかったため、帰宅してからアイテムの整理を軽く行い眠りについた。



§



武器(ぶき)(たわむ)れる(もの)』……


 人生で最も死に近づいたあの日の経験によって手に入れた固有能力だが、聞いたこともないし、どんな能力か全く想像できない。

 俺の自己鑑定では能力名しか分からず効果が分からない。ギルドで鑑定を受けるしかなかった。

 正直なところ、ギルドでの鑑定はあまり気乗りがしない。

 なぜなら冒険者成り立ての頃、ステータスが上がらないのはおかしいと思い、ダンジョンから帰るたびにギルドで鑑定をしていた。その度にGランクと突きつけられ、周りに笑われ続けられた苦い思い出があるためだ。


 しかし、今回は前とは違う。

 皆目見当もつかないスキルだが、新たなスキルが追加されたのは間違いないんだ。

 もしかしたら、そのままランク昇格できるかもしれない。俺は色々な思いを胸にギルドへと足を運んだ。


 冒険者ギルドには連日多くの冒険者が足を運び、ギルドは今日も賑わっている。

 中にはケンカが好きだからとか、稼ぎが良くて自由に仕事をできるという理由で冒険者になるモノも多く、荒くれ者も少なくない。

 そのため、ギルドではしょっちゅう揉め事が起きる。


「おぉい、どこ見てんだよ!!」

「あぁ、そっちからぶつかってきだろうが」

「そっちがその気ならやってやるよ」

「面白い、やってみろよ!!」


 見るからに乱暴そうな男2人が言い争って、今にも戦闘を始めそうな勢いだ。

 周りの冒険者も面白がって煽っている。


 2人は持っていた剣に手をかける……

「そこまでですよ。ギルド内での戦闘行為は禁止されています。それ以上やるのならこちらもそれ相応の対応を致します」

 奥の部屋からギルド職員であろう眼鏡をした細い男が出てきて2人を制止しようとする。


「うるせぇー、邪魔すんじゃねぇ」

 1人がギルド職員の制止を無視して剣を抜いた!!


 気づくと剣を抜いたはずの男はいつの間にか床に仰向けで倒れていた。

 ギルド職員は仰向けになっている冒険者の腹を足で踏みつけると鈍い音と共に床が陥没する。

 もちろん冒険者は無事なはずもなく、骨を何本か折って気絶をした。

 一般人だったら死んでいてもおかしくない一撃を顔色一つ変えずに放ち、言い争っていたもう1人の男に近づいていく。


「わっ、悪かったよ。ちょっとした冗談のつもりで……」

「こっちも暇じゃないんですよ」

 ギルド職員は冒険者のお腹に軽く手を触れると、冒険者は苦悶の表情を浮かべて膝から落ちていく。

 その様子を見下ろすように眺め、目線を煽っていた冒険者達へ移す。


 さっきまではガヤガヤと騒がしかった冒険者達が嘘のように静まり返り、蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げる。ギルド職員は奥の部屋へと戻っていった。


 冒険者ギルドで働く職員はほとんどが元冒険者でそれなりの功績を納めている、エリート集団なのだ。

 一線を退いたとはいえ、そこらの冒険者が敵うはずもない。


 先程まで言い争っていた冒険者2人が注目を浴びていたが、騒動が収まると次の注目は鑑定待ちの列に並んでいた俺に向かった。


「おいっ、万年Gランクが鑑定に来てるぞ!」

「来ても意味ねぇのになぁ」

「あの人が有名な最弱の荷物持ちなんだ」


 俺はちょっとした有名人だ。もちろん悪い意味で……

 列に並んでいる間も、周りからは冷ややかな目で見られ、陰口を叩かれる。

 もう慣れていることなので耳を傾けず、受付へと進む。


「あっ、皆月さん!! こんにちは、皆月さんが鑑定に来るの久しぶりですね!! 怪我はもう大丈夫なんですか?」

「えぇ、なんとか無事です」

 このテンションが高くて、子どものようにあどけなく笑う女性は光月由香(こうづきゆか)さん。

 普段からもテンションは高いが今日は俺を励まそうと思ってくれているのか一段と激しい。

 光月さんはギルド内でも人気が高く、ファンクラブがあるほどだ。

 この人はGランクの俺に対しても丁寧で親切に対応をしてくれ、周りからの心ない言葉で落ち込んでいた時も励ましてくれた……

 この間、入院していた時もお見舞いにも来てくれて、俺にとっての恩人だ。


「今日はですね、新しいスキルを手に入れたので鑑定に来ました」

 光月さんは一瞬止まった後、涙目になりながら奇声を発した。

「えっ、えぇぇぇぇぇーーーーーーっ!! おっ、おめでとうございます。やっ…やっ…やっと皆月さんのステータスに変化が……これで昇格間違いなしですね」

「光月さん、落ち着いてください!! 昇格かどうかはまだ分かんないし、よく分からない能力なんですよ……後、涙を早く拭いてください、周りからの殺気が凄いです」

 光月さんがこれだけ喜んでくれるのは嬉しいが、ただでさえ俺が鑑定に来ただけで注目されたのに、さらに変な注目を集めてしまった。


「えっ、万年Gランクが新スキルとか言ってね!?」

「いやいや、聞き間違いでしょ、初級ダンジョンで殺されかけたって話だぞ、どんなスキルだよ」

「てかっ、光月さん……泣いてねぇか?」

「万年Gランクが光月さんに何したんだよ!!」

「お前ちょっと行ってこいよ」

「ふざけんなっ、また揉め事起こしたらあぁなるだろうが」

 視線の先には未だに悶絶している2人の冒険者の姿があった。


 嘲笑混じりの陰口と強い殺気を感じる……

「では…早速、鑑定はじめますね!!」

 光月さんの顔つきが先程までとはガラッと変わる。少し天然なところもあるが、光月さんは元冒険者だ。実力も折り紙付きでギルド職員にスカウトされたらしい。

 中でも支援系の魔法と魔道具の扱いはギルドでもTOPクラスだ。


 魔道具とは魔力を流すことで効果を発揮する道具のことで、年々新しい魔道具が開発されている。用途によってさまざまな種類があり、一般家庭で扱われるものから専門職が扱うものまで多岐にわたる。


 光月さんが取り出した魔道具は2種類。

 2種類とも鑑定の魔道具だが、一つはよく見るもので、もう一つは俺が目にするのは初めてとなる魔道具だ。

 よく見る方は汎用鑑定の魔道具でいつもステータス更新をする際に使用していた。

 扱いが簡単な魔道具だが、俺の自己鑑定よりちょっと精密なだけのものだ。


 しかし、もう一つの方は扱いは難しいが固有能力の詳細まで分かる魔道具で、新しいスキルを手に入れたときに使用される。

 噂では聞いていたが、まさか自分が使われる側になる日が来るとは……


「まずは汎用鑑定から行いますね……『武器と戯れる者』!? なんですかこれは?」

「そうなんですよ、全く分からなくてですね」

「私も初めて見ました。ギルドの情報を探しても似たスキルはヒットしませんね……さすが皆月さん!! 私の月仲間なだけありますね!!」

「…………」

 笑顔でよく分からないことを言っているが、苗字に月が入っているということで俺と光月さんは月仲間らしい。

 光月さんのちょっと残念なところだ。隣で受付をしているギルド職員も苦笑いしている……


「気を取り直して、スキルの詳細を見ますね!!」

 また光月さんの顔が真剣な顔へと切り替わった……いや、これは変な空気になったから、無かったことにしようとしてるのかな。

 光月さんにも多少は空気が読めるということが分かって良かった。

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