33話 死は隣にある
武闘会開催が近づいてきている。冒険者たちは一層気合を入れてダンジョンへ潜ったり、修練に励んでいる。
もちろん俺も参加するからには全力を尽くす思いだ。
今は最終調整としてアマンバード敷地内にあるダンジョンの闘技場に来ていた。
そして俺に指導をしてくれるのはモンスターであるアマイなのだが、何度も顔を合わせる内に人間にしか見えなくなってきている。
前までは全身が影に包まれていて顔もはっきりと認識できなかったのだが最近は影もなく普通に顔を晒している。
言われなければモンスターとわからない程である。
「かなり使えるようになってきたな!!」
「くっ……」
アマイは喋りながら槍をついてくるが答える余裕なんかはない。全力で集中して捌かなければ一瞬で串刺しになる。
こちらも雷槍『鳴雷』で応戦をする。槍と槍が交錯するたびに『鳴雷』の雷が飛び散る。
足元への薙ぎ払いに対してアマイは地面に槍をさして受けそのまま蹴りを繰り出してくる。
それを腕で受け止めるが、衝撃が腕に響く。
「ここらで休憩を入れるか」
アマイが背を向け、向こうへ歩いていこうとした瞬間に後ろ回し蹴りが飛んでくるがこれも腕で受け止める。
「さすがに分かってきたな、休憩したら次は戦斧でやるか」
これは修練当初からよくアマイによくやられている手で油断はするなというメッセージが篭っている。
次は戦斧か……現在、俺の武器契約してる武器は5つある。『黒紅』『青江松風』『涼暮』『鳴雷』『建未』だ。
これら全てをそれなりに使えるように一つずつ集中的に練習している。
そしてアマイは手本となるように俺と同じ武器種を使ってくれている。
休憩しながら先程の動きの感想をもらう。
「シュウカ、知ってるか、槍なんてのはな突きも払いも誰でもできんだよ、つまりは基本操作が簡単な上に離れた距離から攻撃できる。ひたすらに力任せに振っときゃ相手が倒れてるってことさ、お前は小手先の技に頼りすぎだな」
「でもアマイは槍術のレパートリー多くない?」
「あんなもん後からついてくんだよ、まずは力でぶん回すことを覚えるんだな」
こんな感じでアマイの指導はかなり曖昧で雑な感じだがそれでも自分には有意義な時間だ。
次は戦斧での戦闘が始まり、大楯、弓と終わって残すは短刀のみ。
「お前、力任せに振るんじゃねえーよ、戦斧は技で振るんだろ」
戦斧は槍と逆で力任せに振ってはいけないらしい。無駄な力を抜いて流れるように扱うのがコツみたいだ。
「大楯はまぁまぁだな、見極めも悪くない」
見極めとは受け止めるのか受け流すかの判断のことでここらへんは『アイギスの盾』に教わったこともありそこそこいい評価を貰えた。
「うーん、弓はなぁ、弾幕を張れないのは微妙だが威力はそこそこある。まぁ、お前なら近づかれてもなんとか対処はできるだろうしな」
元々、弓は『武器と戯れる者』のカウントを稼ぐために使っていたために使用方法が特殊で教えるのが難しいらしい。その上、アマイも弓はほとんど使わないらしく、戦闘も弓ではなく銃を使用していた。
短刀での戦闘が始まると、激しい斬撃の応酬、常に動き続けてお互いに削り合う。
一旦距離を置こうと後方へジャンプをすると、その瞬間、短刀が飛んできた。
アマイは武器を手放したことになる。
短刀を弾くとアマイの姿が消える。
足元の影の変化で上に高くジャンプしてると気づくが襲いくるのは大剣での一撃。
黒紅で受け止めるが追い潰されそうになり、いきなり大剣が軽くなると足蹴りが腹部に入って数メートル飛ばされ、気づいた時には大鎌の刃が首元に当てられていた。
「だから油断すんなっていったろ、短刀しか使わねぇって約束したのになんでって顔してるな、殺し合いの最中にそんなこと考えてんのか、殺しに来る相手がそんな優しい奴ばっかだと思ってんのか」
刃から殺意が伝わり汗が頬を伝う。
殺意が消え、刃が首元から離される。
「短刀は悪くない、むしろいいくらいだ。だが忘れるなよ、命なんてちっぽけに消えてくぞ」
アマイはそう言い残して消えていった。
§
「お疲れ様です!!」
「お疲れ様です。珍しいですね斎藤さんがこの時間にいるのは」
闘技場から出ると斎藤さんがいた。
時間がずれていたりして、闘技場では合わなかったが斎藤さんも何度か闘技場を訪れて修練に励んでいたようだ。
「たまたま、仕事が空いたので来ました。それにしても凄いですよね。あんなに強い方たちが沢山いて、知らないことばかりあって」
「そうですね……」
「どうしたんですか? 元気がないようですけど」
「いや、ちょっと最近気が緩んでたみたいで、それに気付かされたとこです」
「あー、なるほど、私もやられましたよ」
そのあとも軽く喋って、斎藤さんに不知火が生きてることを伝えるが既に知っていたようで後藤さんに真木くんも知っているらしい。
そんなことよりもアマイの最後の攻撃が忘れられなかった。
家でベットに入っても大鎌が首元に当たる感覚は鮮明に残っている。
ゴブリンに襲われて分かったつもりでいたのに、自分が強くなって忘れていたのか死は常に隣にいることを……




