27話 武闘会
「碓氷さん、何ですかあれは、悪魔がいますよ、冒険者が殺されそうですがどうしますか?」
2人は自称研究員を捕らえ急いで戻ってくると既に敵は全滅し今まさに皆月によって冒険者も殺されそうになっていた。
「止めるに決まってる、それに気になることがあります」
碓氷は冒険者と皆月の間に割って入り、ナイフを構える。
皆月は一瞬で背後を取り首を切りにかかるがそれに反応した碓氷はナイフで防ぐ。
数回、打ち合うと皆月はあっさりと倒れ、黒い魔力は消えていった。
「碓氷さん、さすがですね」
「いや、何もしてない、勝手に倒れただけ」
「うぅ……すみませんでした」
頭が割れるように痛い。しかも仲間に斬りかかるなんて。
「大丈ですか? とりあえずダンジョンを出ましょう」
ダンジョンから出ると他の班からの状況が入りまとめられていた。
Aランクダンジョン、Bランクダンジョン共に中に数名のテロリストがいたものの、制圧は完了。
ダンジョンの周辺に変わった様子はなし。
そして、これは大規模なテロ行為で誕生したダンジョンは人工的に作り出されたものだと結論づけられた。
しかし人口ダンジョンなんて聞いたことがない上にテロ行為だとすると未だに本当の狙いが分からず、緊張が解けることはなかった。
簡易拠点で冒険者達も待機していたがその後はこれといった音沙汰もなく、解散された。
§
テロ事件から数日が経過し、魔法対策会議では各機関のトップとも言える面々が揃っていた。
「どうなってる、こんな事態は聞いたことがないぞ」
「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ」
「天鳥さん、あの人口ダンジョンは貴殿のアマンバードカンパニーの仮想世界に酷似しているように思えるが見解を聞きたい」
「元々、仮想世界はダンジョンを参考に作ってますから、相手側も似たような魔法構築理論に辿り着いたということですかね。それとも疑ってるんですか?」
「いや、そう言うわけでない、見解が聞きたかっただけだ」
「まぁ、あちら側の存在が介入してる可能性は高いですね」
「待て待て、そっちも大事だがまずはスパイの洗い出しが先決だろう、議会議員や自衛隊、冒険者に企業とあらゆるところにスパイが入ってたんだぞ、私はこの中にもいると思っている」
「尋問はどうなってるんですか?」
「ダメですね、小物ばかりで吐いたとしても重要な情報は持ってなかったです」
「各々が警戒を怠らなぬように何かあればすぐに情報の伝達を徹底する様に。では今日はこれで終了とする」
会議が終了するとそれぞれの投影された姿が消えていき、いつものアマンバードカンパニー社長室に戻る。
「大変そうじゃの主殿は」
「全く、この緊急の時というのに本音は自分らの安全と利益が最優先だからね、相手するのも面倒くさいよ、そっちはどうだった?」
「残念ながら大した手がかりはなしかのう」
§
「親方は嬉しくないと思うけど、一応仇は取ったよ。それと盗まれてたダガー壊しちゃった、ごめんなさい」
病院で親方と鈴に報告をする。鈴は小さくありがとうと呟いた。
そして預けていた『松風』は『青江松風』となって恐ろしいほどに強化されて帰ってきた。
黒紅で全開の『身体凶化』を使った時、不思議な感覚だった。頭に殺意が流れ込んできて、抑えきれずに飲み込まれた。
体を動かしてるのが自分ではないようで第三者視点で自分の体を見てるようなどうしようもない状態の時に夢に出てきた着物姿の女性が現れた。
「もうそれ以上はおやめ下さい」
その女性が呟くと体を鎖で縛られて意識を戻すことができた。
碓氷さんに何かしたのか聞くと何もしてないと言っていた。
ちなみに自衛隊員の碓氷さんに襲ったことは不問とされた。
後、やはりというか碓氷さんは副ギルドマスターとは兄弟らしい。珍しい苗字だしもしかしてとは思っていたが当たりだったようだ。
今はこんなしょうもないことを考えて心を楽にしないと油断するとすぐにまた心を支配されそうな気がしてしまう。
冒険者ギルドはすっかり元の装いを取り戻していたが、ギルド職員は後処理に奔走させられ光月さんも死んだ魚の目をして受付にいることがある。
しかも、ギルド職員達はここからさらに忙しさを増すイベントがやってくるのである。
何があるのかというと毎年この時期になると、『冒険者武闘会』というイベントがあるのだ!!
冒険者同士で競い合ってお互いに切磋琢磨してより力をつける事を目的として開催されている。
冒険者にとってはメリットが多く、1つ目は様々な冒険者と戦う事で開催の目的でもある実力向上が望める。大会を見るだけでも有意義となる。
2つ目が普段は作り得ないコネクションを持てる。この大会で出会ってパーティを組んだという上級パーティも少なくない。
3つ目、勝利していく事で景品や賞金を獲得することができる。多くの企業がスポンサーについていることもあり、優勝でもするとかなりのモノを獲得できる。
しかしデメリットがない訳ではない。戦闘の様子は観戦されるし、TVでも放映されるので戦闘スタイルや奥の手なんかが明るみに出てしまう。
これを嫌ってか上級冒険者の参加率はあまり良くない。
実力がないとみなされればパーティを組みにくくなるというデメリットもある。
参加費は若干必要だが、メリットを考えると気にするほどのものじゃないだろう。
ちなみに参加資格がCランク以上の冒険者のため、俺は参加をしたことがなかったが、今回は参加してみようと思う。
せめて予選通過をできたらいいなと考えている。
ルールはシンプルで仮想空間で他の冒険者よりも生き残ればいいだけで、武器あり魔法ありのなんでもあり。
予選は参加人数によっても変わるが例年通りなら、仮想空間に10人前後が入れられて最後まで生き残ったものが決勝トーナメントに進むことができる。
仮想空間の気候や地形はランダムで選択され、予選のフィールドは広めに作成されるが、時間経過とともにフィールドが縮小していく。
決勝トーナメントになると、1対1になりフィールドは少し小さめに設定され、予選フィールドと同じく時間経過で縮小していく。
そして、このイベントは冒険者達にだけメリットがある訳ではない。
冒険者ギルドの運営を支えるといっても過言ではないほどの収益があるのだ。そのため、ギルド職員も獅子奮迅の働きで全力で当たらなければいけない。
とはいえ開催まではまだ期間がある、それまでに『青江松風』も試さないとだし、やることはたくさんある。




