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23話 アイギスの盾

 影法師たちにボコボコにされて、さらに格上の戦いを見せつけられ、まだまだ実力不足だと痛感していた俺は上級ダンジョンでも辛酸を舐めていた。


「はぁはぁ、ギリギリか……」

 俺の右腕を覆っていた黒い魔力が引いていく。右腕に激痛が走るがダンジョン内で甘えは許されない。

 これだけの代償を払っても倒せたモンスターは僅かしかいない。


「にゃはははーーー、少年よそう落ち込むな、初めての上級ダンジョンなんて誰でもそんなもんさ、むしろ出来過ぎなくらいだよ」

 褐色の少女が勝ち誇った顔で高笑いをしている。


「確かにシュウカはできてる方だぜ、お前が初めて上級ダンジョンに入ったときは酷かったもんな」


「むーーー、リーダーそれは言わない約束だぜ」


「さっきも危なかったしな」


「先輩が言わなければバレてないはずなのに」


 俺は初の上級ダンジョンに挑むにあたり、あるパーティに参加している。

 そしてこのパーティ『アイギス』のリーダーで少女と会話している男の1人は以前俺のことを目の敵にして試合まで挑んできたことのある剛力だ。自他共に認める光月ファンの1人で俺に『涼暮』を譲ってくれた人物でもある。


 セツラさんに言われた通り上級ダンジョンに入って黒紅を試すのはいいがソロでは心許ないと光月さんに相談して紹介をしてもらった。

 ちょうど、パーティメンバーが負傷して短期メンバーを探していたらしい。


 このパーティには珍しい特徴があって全員が盾使いなのだ。

 一般的なパーティだと盾使いは1人いるかいないかなのでこの編成は非常にアンバランスといえる。

 とはいっても、役割それぞれにあって盾の種類も戦術も様々で学ぶことが多い。


 まずリーダーの剛力さんだが大楯使いで攻守共にこなすバランサーを務める。その仕事は多様で大楯使いらしいタンクの役割から近接アタックにサポートなどと多岐に渡る。

 剛力さんの身体強化は筋力に全振りしたようなものでモンスターの攻撃も何食わぬ顔ですべて大楯で受け止めてしまう。

 そして隙のできたモンスターを大楯でぶん殴って吹き飛ばす。あまりにも脳筋戦法だがこれが上級ダンジョンでも通用するのだから恐ろしい。


 しかし、これだけではない。剛力さんは搦手も得意だ。

 剛力さんが魔法を発動させると半透明の結界が剛力さんを中心として生成される。

 これは強度も凄く鉄壁の守りを見せるが、何よりも形をある程度は自由に変えれるらしく、モンスターの攻撃に合わせて円形の結界が棘のついた形態に変化すると攻撃していたはずのモンスターが傷を負う。

 さらにこの結界は短時間なら遠距離にも生成することができ、距離の離れたメンバーを守ることもできる。


 攻撃しても逆に自身が傷つくだけなのを悟ったのかモンスターは逃走を図ったようで剛力さんを背にして距離を離していくが途中で動きが止まる。

 よく見ると半透明の結界がモンスターを囲うように生成されモンスターを閉じ込めている。

 必死に壊そうとするが全く変われる気配はない。

 結界は先程までとは違い中心へ向かって棘が伸びるように形態を変えた。

 剛力さんがモンスターは手を向け、握るように力を入れると結界は徐々に小さくなっていき棘がモンスターの体を貫く。

 完全に動きの止まったモンスターは倒れ痙攣していて、そこへゆっくりと近づきとどめを刺した。


「リーダー、何度見てもそれはえぐいよ」

 メンバーである少女も顔を顰める。


「この程度のモンスターでも絶命させるに至らないからな、まだまだ威力が弱すぎる」


 剛力さんはこの程度のモンスターといって息一つ切らさずに次々に倒していくが俺はかなり苦戦した。


 副リーダーの守沢さんはタンク兼ヒーラーである。

 このパーティは全体の防御力が高いのでそうそう傷つかない上に守沢さんの回復魔法によってまさに鉄壁の集団を誇る。

 俺には無口すぎて何を考えているのか分からない時もあるがパーティからの信頼は厚い。


 次に最も重量のある装備を携えているのが城坂さんだ。

 大楯を片手に2メートル以上もあるランスを持ち、重厚な鎧に身を包んでいる。

 大楯もランスも相当な重量のはずなのに軽々と振り回し、しかもスピードも速くランスでの突進は攻撃されてもびくともせずに避ける間も与えずにモンスターの体を貫く。


 そしてお調子者の少女キララは片手盾に剣を握っている。

 その盾はその場で攻撃を受け止めるのではなく、どちらかというといなす立ち回り。

 そしてカウンターで剣で攻撃をする、シンプルだが攻撃のいなし方からは熟練の技を感じる。

 一瞬だけで自分の周りという条件なら剛力さんのような結界を出すことができ、守りの面はかなり硬い。

 しかし、形を変形させたりはまだできないらしく練習中とのことだ。


 誰もがモンスターを簡単に倒せている。


「シュウカ、お前は魔力の練りが雑すぎる。そもそもの身体強化ですら無駄が多いんだよ、さっきの黒いアレは特殊に見えるが多分、身体強化の一種みたいなもんだぜ。まずは身体強化を鍛え直しな」


「少年よリーダーがそういうんならそうなのさ、何を隠そうリーダーは身体強化の亜種を使えるからね、僕も見たいな、久しぶりに使ってよ」


「お前が見たいだけかよ、まぁいい、使ってやるから見てな」

 そういうと剛力さんは通常の身体強化ともう一つの身体強化を見せてくれた。

 確かにこうしてじっくり見ると俺の身体強化とは違って何というか波がなく均等に体全体に魔力が流れているのが分かる。

 もう一つの方は筋肉を形取るように魔力が流れているのが分かる。


「リーダー、その身体強化の名前教えてあげなよ、プクク、笑っちゃダメだよ少年」


 キララの頭にゲンコツが落ちる。

「それが言いたかっただけかお前は、『剛力』だよ」


「えっ……」

 自分の名前がそのまま魔法の名前になったらしい。そして何事もなかったかのように説明が始まる。


「教えてもらってると思うが身体強化は基本中の基本でこれは体に魔力を流すだけのもんだ。この基本を様々な用途に合わせて変化させたのが身体強化の亜種と言われてる。簡単なとこから言うと部位強化なんかもそうだ、俺の『剛力』は筋肉にフォーカスを当てて強化してある。そして属性付与だな。お前のは何らかの黒い魔力を付与した身体強化だと思う。だから基本を学べばもっと楽になるはずだ。それに違ってても身体強化を磨いて損はないだろ」


「そして残念なことに身体強化というか魔力操作が器用なのがキララなんだよな」


「先輩ひどすぎ!! 僕泣いちゃうよ」


「キララいいから教えてやれ」


「はーい、じゃあいくね、まずは体に魔力を流します。強すぎず、弱すぎず、出しすぎず、出さなすぎずに一定の量を心臓から血液を送るように全身に流していく」


「ふぅーーー」

 集中、心臓から一定の量の魔力を流すといってるが相当に難しいぞ。


「ダメダメー、全然違うよそれじゃあ血管破裂で死んじゃうよ」

 例えだろうが今は出しすぎてるということか。


 その後も訓練は続き最初に比べればマシになった気がする程度の進歩を得た。



§



「少年よさては君、天才だな……」


「かなり成長したな、たった数日で見違えるほどになった」


 なんとなくのコツを掴むことができ数日で黒紅の黒い魔力を多少なりとも使えるようにはなった。


「すみませんが明日はお休みいただきます」


「あぁ、元々聞いてるからな、俺らも休みにするか」


「やっふーーー、オフだ、オフーーー」

 キララが飛び回るのをメンバーが冷たい目で見ている。この光景にも慣れたものだが、そろそろパーティの期間も終わると考えると少し寂しいか……


 いやそんな事を考えてる余裕はあまりない。明日はセツラさんの訓練があり、そして新しい技のお披露目をする。

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