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17話 ゴブリンジェネラル

 皆月は当初の目的を捨てて帰路につき森を抜けようとしていた。

 足元から魔力を感じ、後方へ軽くステップする。

 元いた地面が隆起し土の棘が何本も現れた。

 その場で留まっていたら串刺しになっていたところだろう。

 自分を狙った攻撃魔法に当たりを警戒すると、あまり目にしたくない存在達の姿が確認できた。


 ゴブリンの群れ、それもかなりの数のゴブリンがいる。

 その中で一際目立つ、巨大熊よりも大きなゴブリンはこちらを見て不敵な笑みを見せている。

 全身に鎧を纏い、目立つネックレスの装飾品、手には俺の身長よりも大きな戦斧掲げている。ゴブリンジェネラルの率いるゴブリン軍団。


 すぐに巨大熊の傷はこれらの存在が原因だと分かった。それほどに邪悪なオーラを放っている。

 

 ジェネラルが合図を出すと森の奥からさらにゴブリン達が出てくるが、そこにはゴブリンリーダーや他にもゴブリンの亜種が含まれている。

 正直、ゴブリンにいい思い出は一切ないんだが……


 俺のことを逃す気などはさらさらないようで、戦闘の火蓋はすぐに落とされた。

『武器と戯れる者』を発動させ、『松風』でジェネラルへ数発、短刀を撃ち放すも、戦斧を片手で操り軽々と全ての短刀を振り払った。

 いきなりの大将狙いが成功するなんて思っていない。

『武器鑑定』を使用してジェネラルの戦斧を鑑定する隙が欲しかっただけだ。

 モンスターが武器を持っていても滅多に武器鑑定は使わない、それは意味を為さないからである。

 特段、戦闘に必要な情報は得られず、ゴブリンによって生成された戦斧といった具合にどのモンスターの影響でその武器が作られたかしか分からない。

 そんなことは持っているモンスターを見れば分かることだ。


 今回はジェネラルの持つ戦斧に人間の施した細工が見られるから武器鑑定を使う。

 モンスターが人間の武器を使うのは珍しくはないが高ランクとなれば話は変わる。

 使い手を選ぶからだ。

 珍しいといえば珍しいが有り得なくはない。


 見るからに高ランクな戦斧の鑑定結果、名前は『建未』、能力は土魔法が扱える。

 しょっぱなの攻撃は戦斧の能力によるものだったことが分かった。

 他にも能力があるかもしれないが、短時間ではこの程度の鑑定が限界だ。


 再び短刀を放つ。次は弱そうなゴブリンからだ、数匹の頭を吹き飛ばして森の奥へと進む。

 開けた場所に出るよりも森に入り木々を使って逃げながらゴブリンを倒して行った方がいいという判断である。


 遠距離攻撃の手段を持たないゴブリンは全速力で森を駆けて近寄ってくる。弓を持ったゴブリンは弓を引き、魔法の使えるゴブリンは魔法で攻撃してきて攻撃の雨が降り注ぐ。


 木の陰で身を隠しながら『松風』で応戦をするが数が減っている気配はない。


 ジェネラルは追ってこい、高みの見物を決めてこんでいる。

 しかし斥候に来ているゴブリンに見つかると高らかに叫びジェネラルへと伝えるの。

 そのゴブリンは飛びかかってくる後方へバックステープすると、目の前のゴブリンは土の棘が腹部に刺さり絶命した。


 仲間のゴブリンごととは……



§



 あれからどの程度の時間が経っただろうか、燃え盛る炎を前に襲ってくるゴブリンを短刀を使って処理をする。


 当たり一面が火の海と化し、かなりの数のゴブリンが焼け死んでいる。

 とっくに『武器と戯れる者』の効力は切れて、凄まじい熱はかなり堪えるものの、それはゴブリンも同じで動きが鈍くなっている。


 俺を殺せないことに業を煮やしたのかとうとう、ジェネラルのお出ましだ。

 ジェネラルは味方のゴブリンの命を何とも思ってないようで攻撃が俺に飛んでくるたびにゴブリンが巻き込まれている。

 ゴブリン達もそれでも関係ないと言わんばかりに動きだけを止めようとしてくるのは少々厄介だ。


 ダンジョン内では完全に日が落ち夜がやってくる。それでもゴブリン達の追撃の手は緩むことなく、暗闇の中での追走劇は続く。


 近づいてきたゴブリンの首を短刀で切り裂いてひたすら逃げる。

 実は戦闘の途中から『松風』の使用を極力避けている。自由に使えるならもっといい立ち回り方があるんだろうがそれはできない。

 撃った短刀の回収が困難だからだ。俺の生命線である『武器と戯れる者』が発動できるようになっても手元に武器の数がなければ意味がない。

 多少は回収できたが既に30本以上の短刀を失っている。

 

 逃げていると洞窟を発見し近づいていくと鼻を刺すような腐敗臭がした。

 そこには大量のモンスターの死体があり、その中には巨大熊やギュンターキャット、他にも様々なモンスターど同族であるはずのゴブリンが食い散らかされていた。

 ダンジョン内でモンスターにあまり遭遇しなかったのはジェネラルを筆頭にしたゴブリン達がモンスターを餌にしていたからだった。

 そこにあったモンスターの死体を燃やして洞窟を後にした。


 武器と戯れる者の再発動ができるようになり、発動する。

 逃げ回っていたのを一転、ジェネラルを目指し進みながら、ゴブリンを倒して武器を奪いカウントを稼ぐ。


『武器と戯れた者』が発動できたからと言って失った魔力が回復したわけではない。

 それでもこのまま逃げ続けても魔力が尽きていつかは捕まってしまう。

 どちらにせよジリ貧のため、リスクを負ってでもこの10分で決着をつけなければいけない。

 いつだって何かを得るにはリスクを背負わなければいけない。

 短くない冒険者生活で身にしみるほど痛感したことだ。


「短刀のバーゲンセールだ、受け取れ!!」

 温存していた短刀を『松風』で撃って撃って撃ちまくる。

 ゴブリンが急速に数を減らしていく。


 残り少ない魔力を使い炎剣を全力で発動する。

 森を燃やし炎の壁でジェネラルとその取り巻きを分断することに成功した。

 そのままの勢いでジェネラルの頭目掛けて炎剣を振り下ろすが、戦斧で弾かれた。

 さすがにそんな簡単にいかないことは知っている。

 炎剣を振り回し怒涛の攻撃をかける。

 全て戦斧で防がれ、さらに炎剣を弾き飛ばされてしまった。

 だがこれは想定内、『松風』を構え、至近距離からの『風刃』を撃つのが狙い。

 ジェネラルはそうはさせまいと戦斧を薙ぎ払ってくる。

 このままでは『風刃』を撃つ前に俺の胴が真っ二つにされてしまう。


 迫りくる戦斧と体の間に『涼暮』を出す。

 武器収納している武器を出すとき、普通は手に握る形で出すがこれは絶対ではない。

 至近距離なら出したい場所へ出すことができる。


 だがこのまま支えがなければ地面に倒れるだけ。

 しかし『涼暮』にはある能力がある。空間固定を使えば倒れることなく攻撃を防いでくれる。

 甲高い音と共に戦斧と大楯がぶつかり合う。空間固定の影響で身体中に衝撃が流れてくるが関係ない。

 一撃受けた『涼暮』は地面に倒れた、ジェネラルは再び戦斧を振ってくるがこの時には『風刃』を撃つ準備が整っている。

 ありったけの魔力で『風刃』を放った。


 ジェネラルは戦斧の力で土の壁を作り守ろうとするが急ごしらえの壁で守れるはずもなく一瞬で土の壁は崩れる。

 体に魔力を流し『風刃』を何とか耐えるジェネラル、徐々に風の矢は力を弱めて完全に消滅。

 ジェネラルは両腕と胸に大きな傷を残すも絶命するまでには至らない。


 防ぎきったジェネラルは歪んだ笑みを見せてこちらを見ようとするがそこに俺の姿はない。

 今までに出会った中で最も禍々しいオーラを放つ漆黒の短刀を手にジェネラルの背後に移動し首を切りつける。

 首に魔力を集めたジェネラルを完全に両断とはいかず、そしてその一撃でもまだ倒れることはなかった。

 しかし短刀に付与された崩壊の力が傷口を黒く染め侵食していくと頭は体から地面に落ちた。

 遅れて体も膝をついて倒れる。

 

 炎剣、『涼暮』、『松風』、『黒紅』と持てる力の全てを駆使してジェネラルを倒すことはできたが魔力の尽きた体では、残るゴブリン達を相手にすることはできなかった。

 逃げることもできず、その場で倒れる。

 ジェネラルが倒され混乱状態だったゴブリンは落ち着きを取り戻し、こちらへと近づいてくる。


 生きたまま喰い殺されるとは……

 逆に意識があるのが地獄だ。

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