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リリアーナの話と魔力電話

 私は昼休みにカインからリリアーナの事を聞いた。


 レオンハルトが罪を犯して投獄される事でレオンハルトとリリアーナの婚約は解消になるが、彼女はずっと、レオンハルトの事を気にしていたそうだ。独りで落ち込むのではないか、全てに対して無気力になってしまうのではないかと。

 実際、今まで罪を犯して幽閉された王族は、後に自害する事がほとんどらしい。


 リリアーナはレオンハルトが罪を犯しても変わらず愛し続けていた。だから、カインが進言したそうだ。

 レオンハルトの元へ行けばいいのではないかと、犯罪者の元へ行くのだから、ロサルタン公爵家を勘当され、身分を捨てる必要はあるが、と。


 リリアーナは悩んだ。彼女にとって家族と婚約者、両方とも大切だったから。結局、リリアーナは婚約者を選んだ。自分はやはりレオンハルトと苦楽を共にして行きたいと、決して容易い道では無いが二人で乗り越えて行こうと、心に決めたそうだ。

 双子の兄であるレイビスもリリアーナの考えを聞き、「可愛い妹の頼みだ、仕方ないな」と苦笑し、見送ってくれたそうだ。


 そうして、リリアーナはロサルタン公爵家を勘当され、学園を退学し、魔力を封じられて、レオンハルトの元へ向かったのだ。




「そっか・・・リリアーナ様もレオンハルト殿下も、幸せになれるといいね」

「そうだね。レオンハルトも王宮の牢屋を出る頃には、かなり反省して後悔していたらしいから、きっと今度は大切にしてもらえるよ」

「うん。そうだといいな・・・」


 レオンハルトもリリアーナも身分という据が無くなって、お互い一人の人間として認識し、支え合って、二人共が幸せになって欲しいと思う。


 ただ、私はもう大好きなリリアーナには会えないのだろう。王族の幽閉される宮に簡単に行けるはずも無いし、逆にリリアーナも簡単に街に出てきたりは出来ないのだろう。


「ティア、リリアーナ様がいなくなって、寂しい?」

「そりゃあね。でも、リリアーナ様が幸せになれるのなら、私はそれが一番だよ」


 リリアーナにとってはレオンハルトと共に在る事が一番幸せだろう。そう言って私が笑うと、カインは安心したような顔をする。


「そっか。もし、ティアが寂しく感じたら僕の所へおいで。僕が慰めてあげる」

「ありがとう。カインは優しいね」


 よしよし、と頭を撫でてくれるカインにほっこりとした気持ちになった。


 私の婚約者は優しさに溢れた素敵な人だ。






 レオンハルトの件で学園内は落ち着かないままだが、行事は予定通り行われる。1ヶ月後の学園祭だ。


 今日の午後はエリクの助手の個別研究の時間だ。


「失礼いたしま、」

「よく来たティアくん!ちょっとこれを見てくれたまえ!」


 エリクの研究室の扉を開けると直ぐにテンションの高いエリクに呼ばれる。


「え?」

「ほら、夏季休暇中に更に改良を試みたのだが、なかなか上手くいってな。是非ティアくんに見て欲しいと思っていたのだ!」


 さあ!と電話の魔術具を差し出すエリク。


 あー、最近非日常的な事がありすぎて、エリク先輩のいつも通りのこのテンション、逆に落ち着くな。


「ん?どうした?」

「いえ、エリク先輩がいつも通り過ぎてほっこりした所です」

「そうか?世間ではいろいろあったらしいが、僕は変わらず魔術具研究をしていたしな!情勢などよく分からぬ」


 エリクは相変わらず研究馬鹿である。貴族なのに情勢など分からないと宣言してしまうのもエリクらしい。


「そうだ、魔術具でしたね。・・・こ、これは・・・!」


 エリクの手の中の魔術具を見て驚く。


 電話だ!日本の現代の固定電話!


「ティアくんの描いてくれた絵を元にイメージして作ってみたのだ。手のひらサイズとまではいかないが、前にティアくんの言った理想の音声転送魔術具にかなり近くはなっているはずだ」

「試してみましょう!」

「ああ、そうしよう。では、僕が1台持って外に行くから、ティアくんはここで待っていてくれたまえ」

「はい!」


 エリクが研究室を出ていき、私は音声転送魔術具の前で待つ。

 それにしても、エリクはすごい。私が助手になってまだ半年も経っていないが、ここまで電話に近い魔術具を作れるなんて・・・

 私も授業やエリクから魔術について習うことで、少しづつ理解出来る事が増えてはいるが、まだまだエリクには敵わないと思う。私の理想は携帯電話なので、このエリクの研究を引き継がせてもらえるとありがたいのだが。


 そんな事を考えていると、目の前の音声転送魔術具が音楽を奏で始めた。


 ・・・着信音か!


 クラシックみたいな優雅な曲調だ。普通の電話のプルルルルみたいなのをイメージしていたので、一瞬何の音かと戸惑った。


「はい、ティアです」

『おお、ティアくん!エリクだ!聞こえるか?僕は今、魔術棟の入口にいるぞ!音もちゃんと繋がっているだろう。もう少し離れてみるから、ちょっと待っていてくれ』

「はい、わかりました」


 ガチャンと電話が切れた。


 音声はそこまでクリアではないが、内容は十分にわかる。本当に電話である。見た目は固定電話でも、有線じゃないから移動が可能なのだな。もう既に携帯電話に近いな。


 また音楽が鳴った。


「はい、ティアです」

『エリクだ。僕は今正門付近にいるぞ』

「はい」


 ガチャン


 エリクはそれだけ言うと電話を切った。

 ・・・メリーさんか?!


『エリクだ。今学術学部棟にいるぞ』

『エリクだ。今騎士学部訓練場にいるぞ』


 その後、私達は何度かだんだん離れてくバージョンのメリーさんの電話ごっこをした。



 エリクが魔術学部棟の正反対の騎士学部棟の隅まで辿り着いた所で、研究室に戻ってきた。


「はぁ、はぁ・・・ど、どうだ、素晴らしいだろう?」


 エリクは走って来たのか、肩で息をしていて、汗だくだった。


「はい!素晴らしいです!さすがはエリク先輩です!」


 手放しで褒めるとエリクも嬉しそうに顔を綻ばせる。


「そうだろう。僕の計算では、一応国内ぐらいの距離は繋がるはずだ」

「すごいですね!」

「あとは・・・そうだな、使用する時の魔力量だな。それをクリア出来れば平民にも広く使える魔術具になるだろう」


 私は魔力が多すぎる故によく分からないが、1回の通話に結構魔力を使うらしい。それさえクリア出来れば、家でもカインと電話が出来そうだ。


「それから、名前なのだが・・・」

「名前?」

「ああ、音が繋がっているのだ。もう『音声転送魔術具』ではないだろう?そこで、前にティアくんが作ってくれた糸電話をヒントに作ったからな。これを『魔力電話』と名付けても良いだろうか?」

「もちろんです」


 心の中では電話と呼んでいたが、そう名付けてもらえるなら分かりやすくてありがたい。


「よし、ではこの魔力電話を学園祭で発表する。魔力の節約の研究と発表の準備を同時に進める。ティアくん、手伝ってくれるかい?」

「はいっ、もちろんです!」


 学園祭まで1ヶ月、忙しくなりそうだ。

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