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学園内の変化

 夏季休暇が明け、魔術学園の授業が再開される。


 結局、夏季休暇中カインに会えたのは、お互い眠ってしまったあの1回だけだった。

 今朝は久しぶりにカインが家まで迎えに来てくれて、一緒に登校した。もちろん、途中で合流したシヴァンとアーサーも一緒だ。

 カインとアーサーはやっぱりまだ疲れた顔はしているけれど、この前みたいに酷い隈が出来ているわけではないから、事件の後始末は大方片付いてきたのかもしれない。


 学園内は、第一王子であるレオンハルトが失脚した事でざわめいていた。


「レオンハルト殿下が謀反を起こされるとは・・・」

「では、王太子はニコラス殿下で確定だな」

「あの『冷血の狼』が戦争を起こした殿下を止めたのだとか」

「カイン様とアーサー様は陛下からも謝辞を頂いたそうですわ」


 噂に耳を傾けると、私が思っていたよりカインやアーサーは中心部分で動いていたらしい。二人の貴族間の評価がとても上がっている気がする。


「お、おはようございます」

「ニコラス殿下、おはようございます」


 教室に向かって歩いていると、ニコラスに声をかけられた。私達が来るのを待っていたのだろうか。緊張した面持ちで挨拶をするニコラスは、仲のいい私やアーサーではなく、カインに声をかけた。


「あ、あの、カイン!話があるのですが、今よろしいでしょうか?」

「・・・今は忙しいので、後にして頂けますか」


 心底嫌そうに断るカイン。


 えっ?

 私も驚いたが、周りで密かに私達の様子を伺っていたであろう生徒達も驚いたのか少しざわめきが起きた。

 今はニコラスが王太子となる事が決まったばかりだ。今まで第二王子派で無かった者は、ニコラスに取り入ろうと媚び売りする者は多いだろう。そうでなくとも、王子の誘いだ。嫌そうに断る方がおかしいのだ。


 ・・・今、特に忙しくなかったよね?教室まで歩いてただけだよね?始業までまだ時間あるよね?これ、後で後でって、結局話さないパターンじゃない?わ、ニコラス殿下、カインの冷たい態度に超涙目だよ!


 私がカインとニコラスを見てキョドキョドとしていると、ふぅ、と息を吐いたシヴァンが間に入る。


「申し訳ありません、ニコラス殿下。弟は先日、危険な目に合った婚約者を心配してあまり傍を離れたくないようなのです。そのお話、婚約者のティアも同行させては頂けませんか?」

「はっ!そうですよね。気が利かずに申し訳ないです。ティアも一緒で構いませんよ」


 シヴァンに何故か私も一緒に行く流れにされた。


「まぁ、それならば・・・」


 カインも渋々了解する。


 あ、良いんだ。カインは私を心配して、一緒にいてくれようとしてたんだね。けっこう心配かけちゃってるんだな、申し訳ない。


 流れに流されて、私とカインとニコラスは人目のつかない校舎の端までやって来た。


「それで、僕にお話とは?」


 人目のつかない所まで来たものの、なかなか話し始めないニコラスに焦れたのか、カインがニコラスに問う。そのカインの問いかけにもビクッと身体を震わせたニコラスだが、何かを決意したのか、グッと顔を上げた。


「あ、あのっ、兄の事は、申し訳ありませんでした!」

「・・・何の事ですか?」


 いきなりのニコラスの謝罪に怪訝そうに聞き返すカイン。


「えっと、兄がティアに妾になるようにと、迫っていた件について、です。婚約者のいる相手に妾になるように迫るなど、配慮の無さすぎる恥ずべき行為です。王族としても、有り得ません。兄の代わりに謝罪させてください!申し訳ありませんでした!」


 ニコラスはレオンハルトの行いについて謝罪をしたかったらしい。確かに妾になれと言われるのは不快だったし、抱き寄せられたりするのは恐怖でもあった。


 でもそれはレオンハルトの行いであって、ニコラスに謝って欲しい事ではない。私はニコラスには不快感を抱いていないのだから。


「ニコラス殿下、殿下が謝る事では無いですよ。顔を上げてください」


 私がニコラスに声をかけるが、首を横に振られてしまう。


「いいえ。僕が謝らなくてはならないのです。僕は、兄上のようにはなりません。絶対に、ティアに手を出さないと、傷つけないと誓います!だから・・・」


 必死に謝罪し、私を傷つけないと訴えるニコラス。「だから・・・」の後の言葉は聞こえて来なかった。


「ティアの言う通り、ニコラス殿下が謝る事ではありませんよ。それに、これから王太子となる者が臣下に簡単に頭を下げるものではありません」


 黙って何かを考えていたカインが口を開くと、ゆっくりと顔を上げたニコラスだが、カインの顔を見ると表情を曇らせた。

 ・・・私の位置からはカインの顔は見えなかったけれど。


「安心してください。僕はレオンハルトとニコラス殿下を一緒くたに考えてはおりません。レオンハルトが成せなかった事をニコラス殿下は成してくださる事でしょう。期待しております」


「はい・・・」


 呟くように小さく返事をするニコラスの表情からは、この話し合いで期待していた効果が得られなかったのだとわかった。




 カインと別れて教室に行くとアーサーが出迎えてくれた。


「おう、おかえり」

「ただいま」

「ニコラス殿下、カインに対して震えてなかったか?」

「超震えてたよ!・・・アーサー、後でニコラス殿下慰めてあげて」

「おお・・・わかった」


 ニコラスは可哀想になるくらいずっと泣きそうな顔をしていたので、友人であるアーサーが少しでも慰めてくれるといいと思う。



 始業前の教室内を見渡す。教室内はレオンハルトがいないだけで何だか物寂しく感じた。


「・・・あれ?リリアーナ様は?」


 いつも金色のゆるやかな髪を後ろに流し、ピンと伸びた姿勢で席に着いているリリアーナがいない。

 改めて教室内をじっくりと見回すが、レイビスはいるがリリアーナの姿がない。まだ来ていないだけかもしれないが、いつもは来ている時間なので心配になる。


「ねぇ、アーサー。リリアーナ様が来てないみたいなんだけど、どうしたのかな?」

「あー、うん。後でカインに聞いてくれ」

「うん?わかった」


 何故かアーサーは気まずそうな顔をして、目をそらすのだった。

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