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戦争2:アーサー視点

「終わったな・・・」


 レオンハルト率いるアラグリム教対サクレスタ王国軍はサクレスタ王国軍の圧倒的勝利に終わった。


 こちらは内通者によりレオンハルト側の人数、作戦、全てが筒抜けだったのだ。おかげでこちらの被害はほとんど無い。宗教戦争は未然に防がれたと言って良いだろう。


「まだだよ。これから、レオンハルト側に付いた奴を裁くのも大変だよ」


 カインがレオンハルトの乗せられて行った馬車の方向を見ながら言った。


「それもそうだな」


 捕まえて、それで終わりでは無い。アラグリム教側に付いて謀反を起こした者たちを裁かなくてはならない。特にレオンハルトに関しては、確実に王子の身分から引きずり落とす。それが俺たちの目標なのだから。


「・・・ティアは今頃何してるだろう」

「昨日ロサルタン領に着いたはずだからな。今日は買い物に行くんじゃないか」


 空をぼうっと見上げたカインが呟く。


「会いたいなぁ」


 最近のカインは基本的にこんな感じだ。アラグリム教との戦争に関しては冷酷に推し進め、冷血の狼の二つ名を轟かせているが、たまにぼんやりとどこかを眺めている。

 そして、そのぼんやりしている時は100%ティアの事を考えている。


 ・・・ストレス溜まってるんだろうな。


 夏季休暇に入ってから、カインは一度もティアに会えていないはずだ。

 ティアを危険に巻き込みたくないのもあるが、レオンハルトがいつ動いても良いように、王宮へと手を回して戦争の準備しなければならなかったから。


 夏季休暇の始めはカインもまだ元気だった。

 鬼のような勢いで王宮へ根回しし準備を進めると、たまにポンッと顔が赤くなる。そして、ブンブンと首を振ると、また計画を進める。

 そんなカインが面白くて、「恋煩ってんな」と揶揄したら「好きなんだから、しょうがないでしょ」と顔を赤くして目を逸らしていた。



 夏季休暇も半ばを過ぎると今のようにぼんやりとする事が多くなった。

 いつ戦争が始まるのかと胃のキリキリするような毎日を送っていたので、ストレスも溜まっているのだろう。


 カインが一番安らげるのはティアと一緒にいる時だ。ティアと一緒にいる時のカインはそれはそれは緩んだ顔をしているので、それが全く無いと言うのはキツいのだろう。


 この戦争の後始末が少し片付いて、夏季休暇が終わる前に1日だけでも会える時間を作ってやれると良いけれど。



 レオンハルトを送った王宮へと行った俺たちは、国王陛下に事のあらましを報告する。

 息子が罪人となったわけだが、陛下は「そうか、よく戦争を防いでくれた。恩に着る」と言うだけだった。


 それからは、アラグリム教徒の拘束、レオンハルトの側近の隔離、アラグリム教側の貴族の拘束、レオンハルトとの癒着の証拠提出等、後始末に奔走した。


 その後の緊急官僚会議において、レオンハルトの扱いが決定した。


 レオンハルトは不要な戦争を勃発させ王都を危機に晒した罪と正規軍に歯向かった謀反の罪で王位継承権及び身分の剥奪、魔力を封じた上での幽閉となった。

 もう、レオンハルトは這い上がって来られないだろう。



「熱っ」


 昼を少し過ぎた頃、カインが腕にはめている魔術具に反応があった。

 カインはティアに御守りとしてアクセサリー型の魔術具を持たせていて、俺も作るのに協力したから効果は知っている。カインの魔術具はティアの魔術具と連動させているので、それが反応したと言うことは・・・


「ティアが、魔術具を起動させた・・・」


 ティアに何かしらの危険があったと言う事だ。


「――――っ!」


 グッと血が出そうな程に手を握り込むカイン。

 あの魔術具はティアのみを守り、それ以外を排除するものだから、恐らく無事だとは思うが、『今すぐにロサルタン領へ行ってティアの無事を確認したい』そうカインの顔に書いてある。


 俺もティアの事は心配だ。ティアは意外と行動力があって、自ら危険に飛び込んでしまう事もあるから。


「・・・カイン、レイビスに状況確認の手紙を送ってみたらどうだ?それが一番早い手段だろ?」


 いくら心配でもロサルタン領までは馬車で2日はかかるのだ。魔術具で手紙を送った方が早いだろう。

 ・・・状況によっては直ぐに返事が来るとは限らないが。


「・・・そうだね。次の会議まで少し時間があるよね?一旦家に帰ってくるよ」

「おう」


 やっと手を握り込むのを止めたカインが王宮の広い廊下を歩き出す。歩く速度がいつもより早いのはティアの事が心配だからなのだろう。


 ・・・ティア、絶対に無事でいろよ。



 結局、レイビスから手紙の返事が返ってきたのは夜だった。

 内容は、貴族らしく時候の挨拶から始まる堅苦しい文だが、要約すると『心配なら自分で確認に来い』と言う事だった。


「行けるものならとっくに行ってるんだよ!」


 バシンッと手紙を机に叩きつけるカイン。


 うわぁ、荒れてんなー。


「まぁまぁ、こう書いてくるって事は無事なんだろう。『ティアは魚料理をすごく美味しそうに食べていた』とか書いてあるし・・・ティア観察日記かよ」


 レイビス、アイツも天然と言うか、なんと言うか・・・ティアに害なす奴ではないけれど、教室でもよくティアを観察している変な奴だ。


「ふう・・・」


 手紙に八つ当たりしたところで少しスッキリしたのか、カインが息を吐く。


「・・・ティアに会いたい」


 またか。一日に何回言うんだ。


「ティアが帰ってきたら会いに行けよ。一応、いつ戦争が始まるかっていう緊張の時間は終わったんだから、そのくらいの時間なら俺が作ってやるよ」


 任せろ、と胸を叩いて見せれば、カインが嬉しそうに顔をほころばせる。


「アーサー、ありがとう。・・・頼りにしてるよ」

「おう」


 俺はカインとティアの関係が好きだ。

 大きな身分差を乗り越えて仲睦まじく愛し合う二人は見ているこっちまで幸せな気分になれる。

 ・・・俺は自分の恋が叶わないものと諦めているから余計にそう感じるのかもしれないが。

 だから、カインとティアにはそのまま幸せになって欲しい。


 その為の協力ならいくらでもする。邪魔をするなら王子だって引きずり落とす。


 カインとティアは俺の大切な友人なのだから。

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