スイーツ試食会
「あら、ティアちゃん。そのペンダントはどうなさったの?」
「おっ、本当だ。珍しいな」
教会に行ったらすぐさまアリアとテオにペンダントが見つかった。
私はさっそくカインのくれたペンダントを身に付けている。正直、私にはこんなに素敵な物をくれるとても可愛い婚約者がいるんだーって自慢してまわりたい。実際、昨日家族には呆れられるぐらいペンダントを見せびらかし、自慢して来たのだが。
しかし、このアリアとテオには婚約者の存在を知られてはならない。
カインは私が守るからね!
「えっと、これはもらって、」
「これ、随分物がいいな。相当値が張るぞ」
考えて来た言い訳を話そうとする私に、ペンダントを覗き込んでいたテオが言う。
「え?そうなの?」
「ああ。俺も商品として色んなアクセサリーは見るけど、硝子の中に細工が入っているってのがまず珍しい。加えてこの色、ラピスラズリみたいな硝子も、エメラルドグリーンの薔薇もなかなかお目にかかれる物じゃないな。それにこの薔薇細工、すごく精巧にできている。これはこの辺の職人じゃ無理だ。スクラル地方の職人の技術が使われているな」
・・・テオの商品知識が半端ない。さすがは大商会の跡取り息子だね。
「つまり、とても価値の高いペンダントって事?」
「それだけじゃありませんわ」
テオの話を要約するとアリアも声を上げる。
「このペンダントは魔術具ですわ」
「えっ!そうなの?」
「ええ。全体に術式が組み込まれております。・・・何の術式かまでは分かりませんが」
「確かにな、かなり複雑な術式だな」
「え、術式なんてあるの?二人とも何で分かるの??」
そういえば、カインが御守りの効果もあるって言ってたなぁと思いながら尋ねると、二人に「?」と首を傾げられた。
「ああ、そうでしたわ。ティアちゃんは魔力を扱うのがまだ難しいのでしたわね」
「魔力を薄ーく広げるように込めるとその魔術具の術式が見えるんだ」
アリアが失念していましたわ、と頷きテオが説明をしてくれる。
なるほど、薄ーくか、魔力の調節が出来ない私には難しそうだ。魔術具は私が下手に魔力を込めると壊れてしまう可能性があるのだ。とりあえず、とんでもなくすごいペンダントを貰ってしまったって事はわかった。
「そうだ、ティアとアリアに渡したい物があるんだけど」
一通りペンダントのすごさを語られ、最終的に祖母にもらったと言って納得してもらい、似合っていると言ってもらえると、テオが話題を変えた。
「今度うちの商会で開かれるスイーツ試食会の招待状だ」
「「スイーツ試食会!」」
女の子だからだろうか、私もアリアも甘いスイーツが大好きだ。スイーツ試食会と聞いて飛び付くように招待状を受け取る。
「この日ならちょうどお休みですわ!」
「招待状が2枚余ってたからな、俺もちょうどその日休みだし、一緒に行ってやってもいいぞ」
「じゃあ、3人で行こう!」
久しぶりにアリアとテオと3人で遊べる予定も出来て、スイーツ試食会がとても楽しみになった。
ストデルム商会のスイーツ試食会は王都の本店で行われる。
この試食会は平民の飲食店経営者や料理人向けに行われているもので、国内外問わず色々なスイーツが試食できる。
今流行のスイーツや新作スイーツなどのレシピ、材料を購入する事も出来、飲食店経営者や料理人には欠かせないイベントだ。
今日はアリアとテオとスイーツ試食会にやって来た。
一応保護者として私の父も一緒に来ているが、父は喫茶店の仕事で来ているので別行動だ。
試食会と言っても商談等も同時に行う場なので、テーブルと椅子が準備されていて、中央の長テーブルにスイーツが置いてあるので個々に取りに行ってテーブルで食べるバイキング形式だ。
「ん〜美味しい」
「美味しいですわぁ」
目当てのスイーツを皿にたんまり持って来た私とアリアはスイーツを食べて顔をほころばせる。
甘い物って幸せになれるよねぇ。
「お、俺はこっちの甘さ控えめなのが好きだな」
私達が今食べてるのはチョコレートだ。チョコレートは今まで高級食材で貴族しか食べられなかったし、苦味の強い物だったらしい。最近、生産技術や加工技術が確立されて、こうして私達平民も味わう事が出来るようになったのだ。
今回のスイーツ試食会はこのチョコレートがメインとなっている。前世の日本程多種多様ではないけれど、それはこれから料理人さん達が頑張ってくれるだろう。
・・・うん、チョコクリームも美味しい。
「これって、固形じゃなくて粉末や液体もあるんだぜ」
「そうなんですの?では、いろいろなお菓子作りに応用出来そうですわね」
「金が動く予感がするな」
「色が地味なので、もう少しデザイン性を加えたい所ですわね」
「私は美味しいお菓子が食べられれば何でもいいよ。はぅ、こっちの甘さ控えめなのも美味しいねぇ」
私達が好き勝手に感想を言い合っていると、中央テーブルからバタバタと走ってくる音が聞こえてきた。
「おい、早く!俺のテーブルはどこだ?」
「坊っちゃん、待ってください!」
私達と同い歳くらいの男の子で、橙色の髪と黄色の目をした活発そうな子が深皿とフルーツ皿を持って走っていて、それを細身の気弱そうな男性が追いかけていた。
「・・・げ」
私は橙色髪の男の子を見て思わず顔をしかめる。
食品が置いてある試食会で走らないで欲しいとは思うが、私が顔をしかめたのは別の事。
・・・私はその子を知っている。前世で。