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ロサルタン領へ3

ティア視点→リリアーナ視点になります。

「ティアさん、大丈夫か?何があったのか説明してくれるか?」

「はい・・・」


 レイビスに優しい声色で問われ、こうなった経緯を説明した。



「まさか、ティアさんが杜鵑草事件に関わっていたなんて・・・」

「それで、険しい顔で追って行ったのね・・・」


 レイビスとミーナが顔をしかめる。


「しかし、それならば尚更一人で追いかけるのは危ないだろう」

「う・・・申し訳ありません。相手は顔も肌も隠してましたし、確証も無かったのです・・・」

「まったく。ティアさんは意外と行動力があるのだな。カインが過保護に心配するのも頷ける」


 身に覚えがあり過ぎて、返す言葉もない。


「それで、大きな爆発音は何か魔術具を使ったのか?」

「あ、それは、カインにもらった魔術具を起動させたら爆発が起きました・・・『私を守る魔術具』としか聞いていなかったので、あんな爆発が起きるとは思わず・・・」


 こっそりと、爆発はわざとじゃないよと伝えておく。この惨状は申し訳ないけれど、私も恐怖で必死だったのだから、仕方がないのだ。


「カインにもらった魔術具か・・・見せてもらっても良いか?」

「はい。このブレスレットです」


 レイビスの前に左腕を出す。パールのような石が連なった三連ブレスレットが変わらずキラリと輝いていた。


 ・・・そういえば、これは壊れたりしなかったな。魔力が上手く調節出来ていたのかな?


「・・・随分と高度な術式が組み込まれているな、付けている者のみを守り、周りを一掃する物のようだな。・・・これは周りに他の人がいる状態ではあまり使わない方が良いぞ」


 魔術具を見ていたレイビスが眉間にシワを寄せる。

 そういえば、これを使った時は私以外の物、人全て爆発に巻き込まれて吹っ飛んだり焼け焦げたりしていた。という事は、もしミーナがあのまま近くにいたらミーナまで巻き込んでいた可能性があるのだ。


 ・・・あっぶな!

ミーナが自警団を呼びに行ってくれている時で良かった!というか、そう言う事は事前に説明して欲しかったよ、カイン!



 レイビスの事情聴取を終えた私達は、後は自警団にお任せして館に戻る事となった。リリアーナは王子であるニコラスの安全確保の為、先に館に戻ったそうだ。


 晩餐はリリアーナの言っていた通り、魚のカルパッチョが出てきてとても美味しかったが、あんな事があった後なので、気分は完全には晴れないままだった。


 ミーナも泣いてしまったし、リリアーナも気落ちしているし、楽しい旅行のはずが暗い雰囲気になってしまった。でも、せっかく旅行に来ているのだ、完全に忘れるのは無理だろうが、暗い気分を塗りつぶすくらいは出来ないだろうか。


 入浴も終わり一息ついたところで、ミーナにある提案をする。


 ミーナは「いいのかしら・・・?」と言いながらも賛成してくれたので、実行に移す事にした。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 友人を我がロサルタン領に招いて皆で過ごす時間はとても楽しくあっという間でした。

 元々は、元気の無い時期のあったティアさんに少しでも元気を出してもらえたらと、考えた事でした。ニコラス殿下など予想外の人物がメンバーに加わったりもありましたが、概ね上手くいっておりました。


 ニコラス殿下やシヴァン様には、レイビスの案内で勉強になった、有意義な時間だったと言って頂きましたし、ティアさんもミーナ様も海でも街でもとても楽しそうにはしゃいでいて、わたくしも、そんなお二人といるのが楽しかったのです。


 わたくしの立場を利用するでも羨むでもないお友達。身分に開きはあるけれど、彼女達といると気が休まるのがわかります。

本当に、心の底から笑顔になれるのです。


 でもわたくしは、そんなティアさんとミーナ様に、辛い思いをさせてしまったのです。

 ロサルタン領の港での囚人脱走事件、友人二人が脱走者と相見えてしまったのです。ミーナ様もプルプルと震えて涙目になっておりましたし、特にティアさんは、とても怖い思いをしたのでしょう。顔は血の気が無く、いつもの可愛らしい笑顔が曇っておりましたし、その首には痛々しい傷がついておりました。


 わたくし共がもっと囚人の管理に目を光らせていれば、彼女たちがロサルタン領に来なければ、わたくしが彼女たちを誘わなければ、そんな事にはならなかったはずなのに。

楽しかったはずの旅行が一気に崩れ落ちてしまいました。


「はぁ・・・」


 もう何度目かもわからないため息をつきます。

 大切にしたいと思うのに上手くいかない。こんな事を引き起こしたわたくしをティアさんとミーナ様は嫌ってしまわないか心配になってしまいます。

あの時、わたくしはどうすれば良かったのでしょう。二人だけで馬車に戻さずに護衛を付けるべきだったのでしょうか。それとも、わたくしも、一旦馬車で館に戻るべきだったのでしょうか。

・・・後悔とは、もうやり直せないから後悔なのに、悔やんでしまうのはどうしようもないものですね。


 コンコンコン


 夜も更けてきたはずなのに、訪問者のようです。使用人はもう下がらせましたので、わたくしが扉を開けます。


「どちら様?」

「こんばんは、リリアーナ様。ティアとミーナです!」


 扉を開ければ、ティアさんとミーナ様が寝間着姿で何故か枕を持って、廊下に立っておりました。


「・・・とりあえず、中にどうぞ」


 訪問理由はよくわかりませんが、昼間あんな事があったのです。館内の警備はしっかりとしておりますが、何か不安な事でもあったのかも知れません。二人を部屋に招き入れます。


「リリアーナ様、お泊まり会をいたしましょう!」

「はい?お泊まり会?」


 聞きなれない単語に目を丸くすると、ティアさんが黒い目をキラキラと輝かせます。


「ええ。同じ部屋に泊まり、眠るまでお喋りするのです。楽しそうでしょう?」

「・・・楽しそうだけれども。いくら女性同士とはいえ、はしたなくはないかしら?」


 わたくし達の年齢で女性同士で一夜を共にするなど、貴族ならば考えもしないでしょう。ティアさんの平民ならではの考えなのでしょうね。


 少し否定的な言い方をしてしまったせいか、ティアさんはぷくっと頬を膨らませます。

・・・小動物のようで可愛らしいだけですが。


「では、言い方を変えましょう。昼間、少し怖い思いをしましたので、このままだと眠れないと思うのです。なので、ミーナとリリアーナ様と楽しくお喋りをして気分を塗り変えたいのです。・・・ご協力いただけませんか?」

「・・・わかったわ」


 ティアさんは狡いですわ。そんな言い方をされれば断れないでしょうに。・・・それに、きっとこれは、わたくしやミーナ様の事を考えて行動された事なのでしょう。ティアさんが怖い思いをしたのは確かですが、わたくしやミーナ様もかなり落ち込んでしまっていたので、元気づけようとしてくださっているのでしょう。

・・・本当に優しい方なのです。わたくしはこの優しさに何度救われているでしょうか。


「では、何のお話をいたしますか?」


 三人分の枕をベッドの上に置き、ベッドに腰掛けクスと小さく笑みを零します。


 今夜は長い夜になりそうですわ。

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