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エリクと魔術研究

 

 魔術学園学部別授業には授業の一貫で、個別研究という時間がある。3年生は個々で自分の研究を行い、2年生は誰か1人の先輩の助手になり、先輩の個別研究の手伝いをする。誰の助手にもなっていない2年生は個人の研究を行う、そんな時間。


 私はエリクの助手になったので、今日の学部別授業はエリクの助手だ。今は研究室で魔術具作成の補助を行っている。


 ちなみに、作業する所も座る所も無く荒れ果てていたエリクの研究室は私がそれなりに片付けさせてもらった。

棚の上に色々と山積みになってはいるが、作業スペースと座る場所は確保した。


 音声転送魔術具は少しずつ完成に近づきつつある。範囲を広げる事には成功しているが、多量の魔力を使う点と、音を繋げる点で苦戦している。


 エリクは術式の書かれた紙を見ながら唸る。


「うむ・・・こちらを小さめにすると、魔力を抑えられるか、いや、しかし・・・繋げるとなると・・・」


 手元の術式は色んな模様が複雑に絡み合っている。

 魔術具は術式と作り手のイメージによって出来上がりが変わる。電話だったら、音の術式、保存の術式、相手に送る術式、受け取る術式など、いろいろな効果のある術式を組み合わせる事で、複雑な魔術具が出来るそうだ。

私が授業で作ったひし形書くだけの術式とは大違いだ。


 それから魔力を込める作り手のイメージも大切で、どのような見た目にするかや、どのように使うかなど、イメージが明確であるほど成功率は上がるらしい。


 私も授業やエリクに魔術について教えてもらっているが、まだ理解していない事も多く、今は専ら魔力担当だ。言い出したのは私なのに何も出来ないのがもどかしい。



 根を詰めるのも良くないので、お茶を勧めて休憩をする。


「そういえば、エリク先輩はどうして魔術学部を選んだのですか?」


 放っておくとエリクは休憩中も魔術具の事を考えるので、お茶を飲みながら雑談を交わす。


「ん?僕か?僕はマスゾラム家の三男だからな。跡継ぎの役目は回って来ないだろう。だからか僕は小さい頃から比較的好きな事をさせてもらえていてな、最初は家の魔術具に興味を持ったんだ。魔術学園に入る前だから魔力は使えなかったが、その頃から術式について調べたりしていた。魔術は面白いだろう?魔石と術式でなんでも作り出す事が出来る。僕は僕の手で何かを作り出せる事が楽しくてしょうがないんだ」


 楽しそうに魔術について語るエリクは本当に魔術研究が好きなのだとわかる。


「エリク先輩は本当に魔術がお好きなのですね」

「ああ。僕は卒業したら、魔術研究所に入って、生涯を魔術研究に捧げるつもりだ。そして僕の作った魔術具を広く皆に使ってもらうのが僕の夢だ」


 エリクは主に生活に役立つ身近な魔術具を研究している。

 電話もそうだけれど、クーラーのような冷たい風が出てくる魔術具とか、植物に自動で水をあげる魔術具とかも作った事があるそうだ。


「素敵な夢ですね・・・。わたくしは卒業後については自分の出来る事を手探りで探している所なので、少し羨ましいです」


 魔術学部で魔術を学ぶのは面白いと思うが、卒業後の道について、今はまだこれといって成果が出ていないので、目標をしっかりと持ったエリクは眩しく見える。


「・・・僕は、ティアくんがわからないながらに懸命に魔術研究をしてくれている事が嬉しく思うよ」

「え?」


 エリクの話では、魔術学部の人は跡取りになれない三男や女性が多く、とりあえず単位が取れれば良いとの考えで研究熱心でない者も一定数いるらしい。だから、魔術学園では目立たず無難に過ごす事を目標とする平民の私が研究を頑張ろうとしているのはエリクにとって、とても嬉しい事だそうだ。


「・・・わたくしも、エリク先輩は平民だとかおっしゃらずに接してくださるのが嬉しいのです。だからこそ、研究も頑張ろうと思えます」


 他の魔術学部の人達からは「平民と一緒か」とか「平民のくせに」とか言われたりもするが、エリクはむしろ私を庇ってくれる。

カインやアーサーがいると直接的に言われたりはしないが、学部内では直接的に言われる事が多いのだ。

エリクはそんな私に話かけてくれたり、私をその場から連れ出してくれたりする。研究馬鹿な変人だけど、優しい人なのだ。


「彼らはあまり合理的に物事を考えられないのだろう。身分で人を蔑むよりも研究仲間として語り合った方が有意義だと思わないか?」

「それは『合理的』ではなく『エリク先輩的理論』では?」


 一般の人は、蔑むくらいなら研究について語り合おうぜ!とはならないと思う。


 ふふっと笑うとエリク先輩もそうだな、と笑う。

 最近はエリク先輩とも打ち解けてきて、話しやすくなってきた。

新入生歓迎パーティーの正統派イケメンはどこへやら、いつものくたびれた見た目に瓶底メガネだけれど、こちらの方がしっくりくる。カインやアーサー達攻略対象と関わる事でイケメンにも耐性がついてきたけれど、エリクはくたびれた見た目の方が話しやすい。



 お茶もなくなったので、そろそろ研究に戻ろうかと、ティーカップを片付ける。


「うむ。繋げる、というのが難しいな。術式が無いから作らなくてはならない」

「・・・術式って作れるものなのですか?」

「ああ。無い術式は作る事で効果が出る。そのための明確なイメージと知識が必要なのだが・・・音を繋げる、いまひとつピンと来なくてな・・・」

「なるほど・・・」


 わからん。


 つまり、何だ?術式を作る為には音が繋がっているイメージが欲しいと言うことかな?


 音の繋がるイメージか・・・


 固定電話みたいな、コードで繋がる感じで・・・


「あ!『糸電話』とかどうでしょう?」


 ティーカップを見て、そういえば小さい頃に作って遊んだなと思い出す。あれなら繋がるイメージがしやすいし、私の理想の音声転送魔術具に近いはずだ。


「『イトデンワ』とは?」

「えーっと、少々お待ち頂けますか」


 キョロキョロと辺りを見回し、材料になりそうな物を探す。エリクの研究室は何が発想の元になるかわからないからと様々な物がごちゃごちゃと置いてある。


 私は厚紙と糸で即席糸電話を作った。


「エリク先輩、こちらを持って、耳に当てて頂けますか?」


 不思議そうにしているエリクに糸電話の片方を渡し、糸がピンと張る状態にして、もう一方に声を入れる。


『エリク先輩、聞こえますか?』


「うおっ!何だこれは?!」


 ビクッとしたエリクが糸電話を凝視する。


「ティアさんの声がここから聞こえたぞ・・・魔術具ではないはずだが?」

「これが糸電話です。この糸が振動する事で音が伝わるそうなのです」


 エリクは糸電話をひっくり返したり、糸を摘んでみたりしている。


「振動?」

「音って、空気を振るわせて聞こえるものだから、振動の事ですよね?振動が伝われば音が聞こえますよね?」


 たしか、理科の授業とかで先生が小話として話してくれた気がする。


「そうなのか?初めて聞いたぞ。ティアくんはよくそんな事を知っているな」


 ・・・あれ?もしかしてこれ、この世界では一般的に知られていない話?


「えっと、平民の子供はこういったものを作って遊ぶので・・・」


 ・・・日本の子供は。そういえば、この世界で糸電話はなかったよね。しかし、貴族のエリクは平民の遊びなど知らないはずだ。


「ああ、なるほど。ティアくんは我々貴族とは違う観点でアドバイスをくれるから頼もしい」


 うんうんと頷き、納得してくれた。


「振動か・・・この糸を魔力にして繋げる事が出来れば、音が繋がるのではないか?となると、必要なのは糸のような術式か・・・」


 またブツブツと言いながら研究に集中し始めたエリクに気づかれないように安堵の息を吐く。


 ・・・怪しまれなかったよね?セーフ。


 たまに私の前世とこの世界の常識に差があるから困る。

 前の身体の中の魔力の箱もそうだが、この世界の常識的な事を知らなかったり、逆にこの世界ではまだ解明されていない事を知っていたり・・・

変に怪しまれたりしたら嫌なので、バレないようにしなくては。


 エリクがブツブツと考え込みながら、ガリガリと術式を書いていると、授業終了の鐘が鳴った。


「エリク先輩、授業時間が終わりましたよ」

「そうか、先に帰っていてくれて構わない。僕はもう少し考えを纏めているから」

「・・・ほどほどにしてくださいね?」

「ああ」


 一応忠告だけして、研究室を出る。きっと先生に帰宅時間だと呼びに来られるまで研究をするのだろう。


 私も、エリク先輩に追いつけるように勉強頑張ろう。


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