婚約成立2
「はわぁ〜すごかったねぇ・・・」
「そうだねぇ」
未だ興奮冷めやらぬと言う感じの私にカインも同調してくれる。
「あの本って魔術具・・・なんだよね?」
「そうだと思うよ。あの本で国中の婚約証書を管理してるんだね」
「すごいねぇ」
この世界の人間には魔力がある。
と言っても、日本のサブカルチャーみたいに「ファイヤーボール!」とか言って、手から炎が出たりはしない。
魔力を使うには魔術具と言われている道具が必要だ。術式の入った魔術具に魔力を込めて初めて魔術となる。
魔術具自体は多種多様に出回っている。
身近な物で言うなら、ポットのような魔術具。水を入れて魔力を込めるとお湯が沸き、保温される。これを魔術と言うのだ。日本人の記憶が戻った当初は「これが本当の人力発電」と複雑な気分になったものだ。
これら日常生活で使う魔術具(私は心の中で家電と呼んでいる)は平民の少ない魔力で扱えるようになっているので、一般的な平民より魔力の多い私が家電に魔力を込めようとすると、魔力の込めすぎで家電が壊れてしまう。
なので、私は学園に通うまでは魔力を抑える腕輪を常に付けている。
学園に入れば魔力の制御について学び、腕輪が無くても魔力が使えるようになるらしい。
基本的に王族やそれに近い者程魔力が多くなる。祖母が王族の魔力量なので私が魔術学園に通わなくてはならないのは祖母の遺伝なのだろう。と言っても、魔術学園の基準をギリギリ満たすぐらいだろうか。祖父も母も普通の平民だし、兄は魔術学園に通わなくてもいいぐらいの平民の魔力量なのだから。
ちなみに、貴族など魔力を多く持っている者は家電に魔力を使うのでは無く、国の基礎となる魔術具などに魔力を込めたり、魔力を使って国を守るのが仕事となる。
これは魔力の少ない平民には出来ない。だから魔力の多い貴族は優遇されるのだ。
・・・話がだいぶん逸れてしまったが、私が言いたいのはこうだ。
「あんな魔術らしい魔術初めて見たよ!綺麗だったなぁ」
この世界で『ファンタジー!』って初めて思ったよ。
何せ今まで私が見てきた魔術具は全部家電だったから。電力じゃないだけで、見た事ある物ばかりだったんだもの!
「ふふっ。ティアが喜んでくれて良かった」
最早踊り出しそうなくらいテンションの高い私に、カインも嬉しそうに笑った。
カインは私の家の前まで送ってくれた。
「今日はありがとうね」
「あ、ティアちょっと待って」
家に入ろうとした私を呼び止め、カインはガサゴソと自分の鞄をあさり、小さめの箱を取り出した。
「これは・・・?」
「婚約記念のプレゼントだよ。開けてみて」
カインは恥ずかしそうに頬を掻く。
箱を受け取りそっと開けると、そこにはペンダントが一つ入っていた。
水色〜紺色の青がマーブル模様になっている丸い硝子の中に輝く黄色の斑点、真ん中にはエメラルドグリーンの美しい薔薇細工が入っている。まるで夜空に浮かぶ一輪の薔薇のようになっている。
「綺麗・・・」
「知り合いの細工師に特別に作ってもらったんだ。本当は婚約したら指輪をプレゼントするものなんだけど、すぐにサイズが変わっちゃうからね。ペンダントにしてみたよ。御守りの効果も加えておいたから、出来れば常に身に付けていて欲しいな」
・・・すごく嬉しい。
このカインの瞳の色みたいな薔薇のペンダントもそうだけど、カインが私の事を考えてプレゼントを準備してくれたのがすごく嬉しい。
「うん・・・。ありがとう。大切にするね」
私の思いつきから始まった婚約なのに、カインはちゃんと私の事を大切に想ってくれている。いつもたくさんの優しさを私にくれる。それがすごく嬉しい。
何だか胸の辺りが温かくなってくる気持ちに、私もカインを大切にする。そう心に誓った。
「私、絶対にカインを幸せにするからね!」
もらったペンダントをギュッと握ってカインに宣言すると、カインは一瞬目を見開き、苦笑した。
「それ、僕の台詞だよ。プロポーズも取られちゃったし、困ったなぁ」