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ニコラス・サクレスタ3

 翌日、カインにニコラスの事を報告すると、「どうしてそんな事に・・・」と頭を抱えていた。


 その後ボソッと「やっぱり閉じ込めたい」とか言っていたけれど、何の事だろう。


 カインとも話し合った結果、ニコラスの方から近づいて来る分は、忙しいでも何でも理由を作って、極力関わらない方向で行こうという事になった。



 そして、早速・・・


「おはようございます。お邪魔しています」

「・・・いらっしゃい?」


 休日、ニコラスが訪ねて来た。

 いや、むしろ、朝起きたらニコラスがいた。


「ティアはお寝坊さんなんですね」

「休日はいつもこんな感じだぞ」


 兄とリビングでくつろぎ、まったりと紅茶を飲んでいるニコラス。


 ・・・えぇ?!なんかのんびり紅茶飲んでるし!まだ会うの2回目なんだけど、意外と図々しいな!


 ニコラスがいつ来たのかはわからないけれど、私はいつもの休日の通りのんびり寝てたから、『ちょっと今日は忙しくて・・・』とか言えない雰囲気だよ!


「ニコルは朝早いんだね。私達に何か用事でもあるの?」

「いえ、用事と言う程ではないのですが・・・少し、悩んでいる事があって、そうしたら、ニックとティアに会いたくなりまして。来ちゃいました」


 えへへ。と軽く染めた頬を掻くニコラス。


 か、可愛いっ!小動物系可愛いっ!懐いてるよっ!心做しか嬉しそうに振られる尻尾が見える気がするよ!

・・・いや、ダメだ。ニコラスは王子で、攻略対象だ。落ち着こう。ふーっ。


「ニコルっ!いつでも来ればいいからな!」


 私と同じくニコラスの可愛さに悶えていた兄がそう宣言すると、ニコラスの顔がパァ!と明るくなる。


「ありがとうございますっ」


 お兄ちゃーん!

 ニコラスは貴族だって知ってるよね?!それなりの距離を保とう?ね?


「お茶とお菓子の追加持ってくるな!ニコルは甘い物は好きか?」

「はいっ」


 ニコラスに陥落した兄がキッチンへお茶とお菓子を取りに行った。


 ・・・カイン、ごめん。関わらないは難しそうだよ。




 ニコラスはレオンハルトとは違い、話してみると話しやすくて、可愛らしかった。


「ニックの入れた紅茶は美味しいですね」


 ニコラスが紅茶を飲んでふにゃりと笑う。


「ありがとな。一応、本業だしな」

「本業?」

「ん?言ってなかったな。うちは喫茶店を経営しているんだ。隣にあっただろ?」

「そうなのですね!」


 兄とニコニコと会話するニコラスは貴族然とした態度が全くない。穏やかで、丁寧で、可愛らしく優しい。こんな王族がいるのかと少し驚く。



「そういえば、ニコルの悩んでいる事って?」

「ああ、そんな事を言っていたな。俺達で良ければ相談に乗るぞ」


 そういえば、ニコラスは悩んでいる事があるから来たと言っていたなと思い、聞いてみる。ニコラスは少し逡巡しながらも口を開いた。


「えっと、僕の父からの課題なんですけど・・・僕の家もお店をやっていて、従業員を纏める為にはどうしたらいいのかを考えるように言われたのですが・・・あまりいい答えが浮かばなくて・・・」


 ・・・うん。ニコラスの家は王族だから、たしかに国を運営しているね。従業員と言うのは国民だろうか。


「兄は、店主が優秀で魅力的ならば自然と人は付いてくると言っていました。一理あると思いますが、僕は店主だけが有能でも限界があるのではないかと思うのですが・・・」


 なるほど、レオンハルトは国王が有能なら国民はついてくるという考えなのか。たしかに、愚王についていこうとは思わないが。


「なので、家が喫茶店を経営しているニックとティアにも意見を聞きたいです」


 ニコラスに真っ直ぐ見つめられ、「うーん」と考える。先に口を開いたのは兄だ。


「そうだな・・・俺は、店主の有能さというか、周りを見る力は大切だと思う。俺の父さんは特に気遣いのできる人で、従業員も客も良く見て、その人の為に行動していると思う。そういう人の為だから、うちの喫茶店の従業員は誠心誠意働いてくれているんじゃないかと思う」


 私の中の父のイメージは少し頼りないけど優しい父、というイメージだったが、兄はそんな風に父を見ていたのかと少し驚く。兄は父の背中を見ながら成長しているのだな。


「なるほど。周りを気遣うからこそ周りの人もその店の為に働いてくれるのですね・・・ティアはどうですか?」


 ニコラスの金色の目が私に向く。私は・・・


「私は・・・平等性が大切だと思う」

「平等性、ですか?」

「例えば、職場だと仕事のできる人とできない人がいるでしょう?仕事のできる、できないで給料に差があるのは当然だけれど、対応に差があったらダメだと思うの。仕事のできる人の意見だけ聞いて、できない人は無視をする、それだとできない人は不満でしょう。だから、平等に意見を聞いたり、教育を与えたりしたら従業員も不満を覚えず、纏まってくれるんじゃないかな」


 前世でしたアルバイトでもお気に入りの子だけ贔屓する店主とかいたなぁと思い出してしまった。結局、差別されていた従業員は皆辞めてしまったのだ。それでは纏まらない。

 国の政治の事はよくわからないし、この身分制度の社会で民主主義が実現しない事はわかっているが、国民の声を平等に王家が聞いてくれると、不満も少なく、国民は纏まる事が出来るのではないかと思う。国民を無視する国王の独裁政治はクーデターが起きるものだ。


「平等性か・・・」


 ニコラスが顎に手をあてて考え込む。


「あっ、でも私はお兄ちゃんみたいに喫茶店を継ぐわけじゃないし、ふと思っただけで、深く考えてないんだけど・・・参考にならなかったらごめんね」

「いえ、ニックの意見もティアの意見もとても参考になりました。ありがとうございます」


 ニコリと笑ってくれたが、その後もニコラスはずっとうわの空で何か考え込んでいるようだった。


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