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喧嘩2

 始業の鐘が鳴ったが、泣いてしまった事で目の腫れも引かないので、しばらくこのままでいることになった。

授業はサボる事になるが今日ばかりは多めに見て欲しい。


 涙も引いて、だいぶん落ち着いたリリアーナは「そうだわ」と口を開く。


「ねぇ、ティアさん。貴女はファロム侯爵家のカイン様と婚約しているわよね。あなたがたは、愛し合って婚約したのよね?」

「あ、愛っ?!・・・そ、そうですね、気持ちは通じ合っています」


 実際は、気持ちが通じ合ってからの婚約ではなく、婚約してから気持ちが通じ合ったのだが。

お互い好き同士で婚約しているが、愛しあって、とか真正面から言われると恥ずかしい。


「それは・・・どんな感じなのかしら・・・わたくしとレオンハルト様の関係と、どう違うのかしら?」

「わたくしは平民ですので、リリアーナ様とは価値観が違うと思いますが・・・」

「それでもいいわ。貴女の思った事を言ってちょうだい」


 私とカインの関係と、リリアーナとレオンハルトの関係の違いか。まずは・・・


「・・・カインは、レオンハルト殿下のように、婚約者がいるのに他の女性を口説いたり、侍らせたりいたしません」

「そうね」


 これが一番思うこと。親同士が決めただけの婚約かもしれないが、婚約者の目の前で他の女性を口説くなど、配慮が無さすぎではないか。


「カインは、他の人に対しては基本的に無愛想な事が多いですが、私に対しては優しくて、ふにゃりと笑う顔はとても可愛くて、慈しむような視線を向けてくれるのです」

「・・・想像がつかないわね」


 カインは私に対してはとても優しくて、眼差しも柔らかい。先程のレオンハルトがリリアーナに向けた睨みつけるような視線とは真逆だ。


「それから、デートではさり気なくエスコートしてくれたり、いつも私の事を考えて行動してくれたり、でも私が間違った事や危ない事をしたらちゃんと叱ってくれたり、助けてくれたり・・・最近は急に触れられる事が増えて、嬉しいんですけど、ドキドキして心臓が持たないと言うか・・・」

「だんだん惚気になってきたわね」


 リリアーナが苦笑してしまった。

 でも、私にカインの事を語らせて、惚気にならないはずがないのだ。



「・・・レオンハルト様も昔はとてもお優しい方でしたのよ。わたくしの事もよく気遣ってくださったわ。それに、国王になる為の努力を精一杯されている方だった。・・・いつからかしら、自分を肯定し、祀りあげてくれる心地よい人間しか傍に置かなくなったのは・・・」


 ふぅ、と息を吐き寂しそうに目を伏せる。

 昔、一緒に学園祭に来たと言っていたが、幼い頃は婚約者らしい、とまではいかないが、友人のような関係だったのかもしれない。


「あ、でも、殿下の言っていた『好いてもいない女』というのは、ちょっと言い過ぎただけだと思います」

「・・・どういう事?」


 目を丸くして、パチパチと瞬きをするリリアーナ。

 そういえば、夏季休暇中の補講でレオンハルトは言っていた。


「夏季休暇の魔術の補講の時に、殿下はおっしゃっていたのです。『リリアーナ様の見た目は好ましいと思っているし、正妻に相応しい立ち居振る舞いが出来るのはリリアーナ様くらいではないかと思う』と」

「え・・・」


 沈んでいたリリアーナの顔が少し嬉しそうなものに変わる。


「殿下は意外とリリアーナ様を見ているのだと、その時は感心いたしました」


 今はその評価も下がったが。リリアーナを見ているのでも配慮せずに傷つけるのでは意味が無い。言い過ぎたにしても、言っていい事と悪い事の分別くらいつかないものか。



「・・・ティアさん、わたくしは、」


 しばらく考え込んでいた彼女が何かを言いかけたが、パタパタと聞こえてきた足音に口をつぐむ。


「――――ティア!」

「・・・カイン?」


 現れたカインの後ろにはアーサーもいる。私達を探しに来てくれたのだろうか?


「カイン、どうしてここに?今は授業中・・・みゃ?!」


 カインの手が伸びてきたと思ったら、頬をうにっと伸ばされた。ニッコリと笑顔を作り、黒いオーラを漂わせながら。


「ティアこそ何で授業中にリリアーナ様とこんな所にいるのかな?」

「ほへには、はへがありふぁして・・・(これには訳がありまして)」

「じゃあ、その訳とやらを後でゆっくりと聞かせてもらおうかな?」


 お説教の予感しかしない。

 でも今回は、授業サボったくらいで大した事はしていないと思うのだが。


 私の頬をうにうにと伸ばしながら黒オーラを漂わせるカインにアーサーが制止をかける。


「カイン、ティアのお説教は後な。リリアーナ様、皆探しておりますので、教室に戻りましょう」


 どうやら、公爵令嬢のリリアーナが教室からいなくなったので、他の人も巻き込んで探されていたらしい。なるほど、それでカインとアーサーが探しに来たのか。


 身分の高い人はいなくなると大騒ぎで大変だな、と呑気に思っていると、カインにまた頬を伸ばされた。


「ティア、わかってないでしょ?今、ティアにはリリアーナ様の誘拐容疑がかかっているんだからね?」



「・・・・・・ふぁい?」





 その後、探しに来た先生方に私達は別室に呼び出された。

 私がリリアーナを連れ出したまま戻って来なかった事で誘拐容疑がかけられていたが、被害者(?)のリリアーナが「お友達のティアさんが、教室でのわたくしを心配して連れ出してくださっただけなのです」と証言してくれた事と、教室でのリリアーナとレオンハルトのやり取りの目撃証言もあり、私は無事に無罪放免となった。



 リリアーナ様から『お友達』認定してもらったよ!やったね!



 ちなみに、違うクラスのカインがリリアーナ探しに駆り出されていたのは、容疑者の私の婚約者だという理由と、アーサーに呼び出されたからという理由があるらしい。

あの後カインにちゃんと説明をさせられ、お説教をくらった。


 カインを呼び出したアーサーに、「もー、何でもカインに報告しないでよー!」と文句を言ったら、「いや、あれは完全に報告案件だから」と呆れた顔をしていた。解せぬ。


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