星祭り2
ミーナは一旦家族の元へ戻り、家族の許可を得られたら、夜のスカイランタンの時に合流する事となった。
ちなみに、ミーナはまた酔っ払い達に絡まれるといけないと、テオに家族の元まで送り届けてもらっている。
アリアの計らいである。
「アリアちゃん、ミーナの恋の話する時、楽しそうだったね」
「それはもう。人の恋路は見ていてとても楽しいですわ。憧れる、というか・・・わたくしはまだ恋をした事がございませんので、羨ましいのかもしれませんわね」
「へぇ、姉御にもそういう普通の女の子みたいな感情あるんだな」
ギュム
「痛っ!」
アーサーの言葉に笑顔を深めたアリアがアーサーの足を思いっきり踏んだ。
「何だよ・・・」
「余計な事言うからだよ・・・」
踏まれた足を擦りながらボヤくアーサーにカインが呆れた声を出した。
うん。カインの言う通り余計な事言うからだよ、アーサー。アリアは今は仕事一筋だけど、普通に恋愛に憧れる女の子だからね。
テオが戻って来てから、しばらく屋台やステージイベントを見物して星祭りを堪能した。
「・・・?」
「ティア?どうしたの?」
屋台を見て回っていた時に、ふと立ち止まった私をカインが不思議そうに振り返る。
「あ、ううん。何でもない」
・・・何だろう?知っている人がいたような気がしたんだけど・・・気のせい、かな。
後ろを見ても知り合いのような人はいないし、気のせいだろうと、小走りでカイン達の元へ向かった。
夕方になり、日が落ちてきた頃、家族の許可が下りたミーナと合流した。
「貰ってきたわ」
「ありがとう」
星祭りのラスト、スカイランタンの為のランタンを取りに行ったアーサーとミーナがランタンを手に戻って来た。
「二人で一つらしいぞ」
そう言って、三つのランタンが差し出された。
「スクラル領では星は、人と人とを結ぶものとされております。時間が経って空を移動しても周りの星達は変わらず傍にある事からなのですが、このランタンは星に見立てて作られておりますので、夜空に向かって飛ばして星の一つとなる事で大切な人との絆を結ぶと言われております。家族、友人、恋人、ランタンを一緒に飛ばした相手とは強い絆で永遠に結ばれると言われておりますの」
ミーナの説明に目を輝かせる。
「素敵な話だね」
「ティア、僕と一緒に飛ばそうよ」
ニッコリと笑って誘ってくれたカインに「うんっ」と返事をする。
カインと永遠の絆で結ばれるといいな。
そして、ふむ、と頷いたアリアはアーサーを見あげる。
「では、アーサーくんはわたくしと飛ばしましょう」
「へ?いや、俺は兄貴と・・・」
「あら、わたくしではご不満でしょうか?」
「滅相もございません。光栄です」
テオと兄弟の絆を結ぼうと思っていたらしいアーサーはアリアの笑顔の迫力に負けた。出会った時から変わらずアーサーはアリアに弱い。
と、なると残りは・・・
「へ・・・?」
「え?いや、お前ら・・・」
ミーナとテオの二人である。
「では、アーサーくん、あちらでランタンを飛ばす準備をいたしましょう」
「おう」
「カイン、私達はあっちの広場の方に行こうか」
「そうだね」
アリアと私はアーサーとカインを引き連れて立ち上がり、別々の方向へランタンを持って歩き出す。
残されたテオとミーナは・・・
「・・・ミーナ様、俺とでも良いですか?」
「は、はいっ」
テオの問いに頬を赤くしてコクコクと頷くミーナの姿があった。
ポウ、とランタンの灯りが灯る。
このランタンは魔力に反応して、様々な色に灯るらしい。私とカインのランタンは赤色だ。
「わぁ・・・」
「儚げな色だね。本当に、星みたいだ」
儚げな赤色で灯るランタンは夜の闇をぼんやりと照らす。
「今日は本当に楽しかったね。皆で一緒にいるのも楽しいけど、こうしてカインと二人で穏やかに過ごせる時間もあって、良い一日だったね」
「そうだね」
ふにゃりと笑うカインはランタンの赤い灯りのせいで顔が赤く見える。
「また、皆で旅行行こうね」
「うん」
「いつか、カインと二人でも行きたいな」
「――――っ、うん・・・行こうね」
少し返事が遅れたカインの顔がふい、と逸らされ、その顔はランタンの灯りのせいじゃないくらい赤くなっていた気がした。
時計塔が優しい鐘の音色を奏で始める。鐘の音色に合わせて領主がランタンを飛ばすのを皮切りに、次々と色とりどりのランタンが夏の夜空を飛んで行く。
「飛ばすよ」
「うん」
私達も、カインの声を合図に手を上げ、ランタンを飛ばす。
ふわり、と夜空に飛び立つ赤いランタン。
「・・・綺麗」
「綺麗だね」
ゆっくりと舞い上がるランタンは、他のランタンと一緒に夜空を様々な色に染める。優しいランタンの灯りは混ざり合うでもなくて、一つ一つは儚げに主張する。
そのまましばらく、ランタンが見えなくなるほど遠くに行くまで、私とカインは寄り添って夜空を見上げていたのだった。
スクラル領でのスカイランタンは、この夏1番の思い出となった。




