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補講1

 今日は魔術の実技の補講だ。


 ゲームでのこの補講は、レオンハルトの好感度を上げ、絆を深める為に必須だ。レオンハルトの国を思う心意気や国民に対する思いやり、王太子となる為の努力する姿を知って、今までレオンハルトに対してあまり良い印象を持っていなかったヒロインがレオンハルトのイメージを変え、レオンハルトもまたヒロインは他の女性とは違うと意識し始める大事なイベントだ。


 そして、今の私には確実に必要のないイベントだ。

 レオンハルトとの絆を深める気などない。


 カインと共に魔術棟の実習室へ行く。


 ちなみに、私とカインは概ねいつも通りの関係を取り戻している。

 実技テストの当日は、カインを見ると心臓が爆発しそうで避けてしまったが、カインが「ちょっとやりすぎちゃったよね、ごめんね」と言って、いつもより気遣いながら接してくれて、私もいつも通り接せるようになった。・・・気恥しいのは残ってるけど。



「失礼いたします」


 実習室では、レオンハルトとナディック先生が会話をしているようだった。


「カイン様、ティアさん。おはようございます、こちらへどうぞ」


 先生が出迎えてくれ、私達は席についた。



「補講では、テストと同じで10個の魔術具全てに魔力を込める事が出来たら合格となります」


 ナディック先生の説明に頷く。

 テスト前までは私の成功率は8、9割にまで上げる事が出来たし、上手くいけば今日中に合格出来るかもしれない。


「ティア、時間はたっぷりあるからな。少し遊戯をしないか」

「遊戯、ですか?」


 よし、頑張ろう。と思っていたらレオンハルトが唐突に何か言い出した。


「ああ。魔力を込めるのに失敗したら、相手の質問1つに答えるんだ。私達はまだお互いの事をよく知らないからな、理解を深め合おうではないか」


 ・・・深め合いたくないんですが。


「良いのではないでしょうか。レオンハルト殿下は人脈作りも兼ねて学園に通っていますし、ティアさんも王族の方と話せる機会などなかなか無いでしょう」


 何、勝手に答えてるんですか、ナディック先生。


「決まりだな」


 いや、私は何も言ってませんけど?


「もちろん、僕も参加してよろしいのですよね?レオンハルト殿下?」


 口を挟む間もなく決定されて呆然としていると、カインが入ってくれた。カインが入ってくれると心強い。


「ああ、構わない」

「ちなみに、質問は何でもよろしいのですか?」

「ああ、ただの遊戯だ。多少無礼でも罪には問わぬ」


 こうして、私とカインとレオンハルトの質問会が始まった。




 ―――パキンッ

 レオンハルトの魔術具が壊れた。


「・・・失敗してしまったな。では何か、質問に答えてやろう」


 カインがスっと手を挙げる。


「最近、レオンハルト殿下と弟君のニコラス殿下、実力は伯仲していて王太子となるのはどちらか分からないと言われておりますが、どう思われますか?」

「・・・」


 ・・・カ、カインーーー!!

 いきなりそこ突っ込むの?!

 こういう深い質問はもっと場が温まってからにしようよ!

 最初は『ご趣味は?』ぐらいからが無難だと思うよ?!


「ふむ、そうだな・・・。確かに最近はニコラスも頑張っているとは思うが、奴は性格が臆病でな、やはり国王となるものは堂々と国民の前に立たねばなるまい。私はその点実績もある。私の方が王太子に相応しいと思っている」

「そうですか、ありがとうございます」


 ・・・噂では、レオンハルトが評価を落としたって聞いたけど、レオンハルトの中ではニコラスが評価を上げたっていうスタンスなのね。


 ―――パキンッ

「あ・・・」


 今度は私の魔術具が壊れてしまった。


「ティアの魔術具が壊れたな。では、質問させてもらおう。ティア、其方が今欲しい物はなんだ?」

「欲しい物・・・ですか」

「ああ、宝石か?新しいドレスか?」


 欲しい物か・・・これって何か『物』を答えたら贈られるパターン?自意識過剰かな?でも、私の欲しい物って言ったらアレしかない。

 ・・・なんだか、レオンハルトだけでなくカインも興味ありそうな顔をしているな。


「わたくしの欲しい物は・・・平凡な日常です」

「・・・は?」

「平凡な日常が欲しいです。わたくしは昔から可もなく不可もなく、平凡な人生を歩みたいと思って日々過ごしております。特別上がらず、落ちぶれず、そういった人生が一番幸せなのではないかと思っております。波乱万丈な人生など御免こうむりたいです」


 そう、私が欲しいのは平凡ライフ!

 カインとの婚約で貴族社会に巻き込まれるのは覚悟したけど、その中でも平凡ライフを目指すよ!私は貴族社会の凡人を目指すのだ!

 ・・・レオンハルトが私に絡んで来なくなれば、私の平凡ライフに一歩近づくのにな。


「そうか・・・」

「平凡な日常・・・」


 あっ、レオンハルトも思った答えじゃなかったのか悩んでるし、隣で聞いていたカインも悩んでる。そんなに深く考えなくても良いのだが。



 ―――パキンッ

 レオンハルトの魔術具が壊れた。


 さっきはカインが質問したから、今度は私が質問しようかな。ちょうど、レオンハルトに聞きたい事が浮かんだのだ。


 レオンハルトが私達に視線をやったタイミングで手を挙げる。


「ティア、何だ?何でも聞いてみろ」

「レオンハルト殿下とリリアーナ様は幼い頃から婚約者として過ごされていると聞いておりますが・・・」

「うむ、その通りだ」


「なんだ、嫉妬か?」とニヤニヤしているレオンハルトに質問を投げかける。


「では、リリアーナ様の好きな食べ物は何ですか?」


「・・・は?」

「リリアーナ様の好きな食べ物は何ですか?」

「いや、すまぬ。聞こえていなかった訳ではないのだ。何故その質問なのかはわからないが・・・そうだな、リリアーナはお菓子とか甘い物が好きだったな」

「そうなのですね!ありがとう存じます、殿下」


 さすがはレオンハルト殿下、幼い頃から婚約者として過ごしているだけあるね!リリアーナ様情報を1つゲットしたよ!リリアーナ様は甘い物好き。メモメモ。


 そういえば、横のカインが盛大に咳き込んでたけど、風邪かな?大丈夫かな?


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