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勉強と礼儀作法

「ティア、帰るぞ」


 授業が終わったので約束通り兄が迎えに来てくれた。


「ごきげんよう、ティアちゃん」

「じゃあな、また明日!」

「うん、また明日ね!」


 アリアとテオに手を振って、兄と並んで歩き出す。


「お兄ちゃん」

「どうした?」

「お兄ちゃんの言った事は正しかったよ・・・」

「俺の言った事?・・・ってまさかっ!」


 もちろん、テオとアリアが私の『婚約者』という単語だけで、殺人+死体遺棄の計画を立てていた事である。

やはり私の友達はクレイジーだった。

二人は私の為を思ってくれているのだから反対するのも難しい。ちょっと、いや、かなりやり過ぎだとは思うが。


 でも、婚約者が出来た事は上手く誤魔化せたと思う。

カインは私の我儘で婚約者になってくれたようなものだし、カインを犠牲にする訳にはいかない。私はカインを全力で守ろうと思う。


 決意を新たに兄に伝えると「そうか、頑張れよ」と苦笑しながらポンポンと頭を撫でてくれた。


「そういえば、授業中ティアの所の先生が俺の教室に来たんだけど」

「え?なんで?」

「なんか、ティアの算術の正解率が急激に上がったんだが、休んでいる間に頭が変になったのかーって。すごい勢いで」

「え、酷くない?」


 変になったら普通下がるじゃん?

『休んでる間に勉強でもしたの?』で良くない?


「そうだな。たぶんあの先生、白昼夢でも見ていたんじゃないかと思ってる。ティアが算術出来るようになる訳ないじゃないか。なぁ?」

「お兄ちゃんも酷い!!」


 もぉー!と両手で兄をポコポコと叩き抗議する。


 そう、私は算術が苦手だった。前世の記憶を思い出すまでは――――

 別に前世で勉強が得意だった訳では無い。しかし、今の私が習っているのは小学生レベルである。小学生の年齢なのだから当然だが。もっと難しい数学とかを習っていたのに比べれば、小学生の問題などちょっと思い出せば余裕で計算出来たのだ。


 そして、この国には九九が無い。大体は計算機(算盤みたいなやつ)を使って計算するのだ。大きい数字ならともかく、8歳の私達が計算するような桁は暗算、筆算で十分だった。

それもあって速く解き終わったので見直しもしたら、ほぼ満点に近い点数が取れた。

いつもほぼ満点の成績優秀なテオにもとても驚かれた。

ただ、前世の記憶でいい点を取れたのは算術だけで、他は相変わらずの悲惨な点数だったのだが。


 そういえば、ゲームのヒロインも座学の成績はあまり良くなかったな。それで好成績の攻略対象に勉強を教えて貰うというイベントが発生していた。

・・・イベント発生を阻止する為、勉強も頑張っておいた方がいいかな。


 よし、決めた。勉強も頑張る!

私は後でノートに『ゲーム開始迄にやっておく事リスト』を作り、『勉強をして成績上げる。人に教えてもらわなくてもいいくらいに』を書き加える事にした。


「ティア?おーい、ティア!」


 はっ!しまった。考え込んでいた。兄が心配そうに顔を覗き込んでくる。私は大丈夫だよという意味も込めて大袈裟に胸を張る仕草をする。


「ふふん。私だってやれば出来るんだからね!」

「・・・そうだな。ごめん、ごめん」


 兄は一瞬何かを考えたけど、へにゃと笑った。





 今日の午後は祖母による礼儀作法の指導だ。


 うちの喫茶店は富豪向けで個室もあり、対談などに利用されたりもする。貴族の方が訪れる事もあるので従業員には礼儀作法が必要になる。


 私も13歳になるとお店に出る予定なので、礼儀作法を習っているのだ。

祖母はお店の中で1番言葉遣いや所作が美しく、まるで貴族のようなのだ。外見も、歳をとってはいるが美しく、数年前に祖父が亡くなってからは結婚しないかと言うお誘いも来たとか。もちろん、断ったらしいけど。


 ちなみに、件のゲームのシナリオにおいて祖母は重要人物である。

その事についてはまた後で語らせてもらおう。


「ああ、ティア、来たのね」

「はい。よろしくお願いいたします。お祖母様」


 スカートを摘んで丁寧に礼をする。

 祖母は白髪の混ざった黒髪に黒い目をしている。昔は私のような綺麗な黒髪だったらしいので、私の黒髪黒目は祖母の遺伝なのだろう。


『この部屋では令嬢になりなさい』

初めて祖母の部屋で礼儀作法の指導を受ける時にそう言われた。

なぜ奉公人ではなく令嬢なのかと聞いたら「令嬢の言動が出来たら奉公人の言動なんて簡単に出来るようになるのよ。だから最初から令嬢を目指しなさい」と言われた。

その時は「なるほど!」と思ったが後から考えるとよく分からなくなったので、祖母の経験則なのだろうと納得した。

とにかく、この部屋の中では指導を受けている時だろうが、今日の夕飯の話をしている時だろうが令嬢のように過ごさなくてはならない。姿勢や言葉遣い、果ては指先一つまで気を抜けないのだ。


「掛けなさい。お茶を入れてあげましょう」

「ありがとう存じます」


 祖母が入れてくれたお茶を飲みながら雑談をかわす。

話の内容は他愛もないものだが、所々で「姿勢」とか「言葉遣い」とか注意を受ける。

最初より注意される回数は減ってきたが、やはり厳しい。


「今日はこの辺にしておきましょうか」


 祖母がそう告げれば今日の礼儀作法の指導は終了だ。

立ち上がって、退席の挨拶をしようと口を開こうとすると「そうだわ!」と何かを思い出した祖母が引き出しを探り始める。


「ティアの採寸をさせてちょうだい」

「はい?」


 祖母が持ち出したのはメジャーで、疑問に思う私を他所にテキパキと採寸をしていく。


 私達平民の服は出来合いの物を買うのがほとんどだ。

喫茶店従業員の仕事服は採寸してピッタリに作るが、私が店に出るのは13歳。さすがに8歳の今より成長するから今採寸される意味が分からない。


「はい。もう良いわよ」

「お祖母様、何故採寸を?」


 私が聞くと祖母は楽しそうに口元を隠す。


「それは秘密よ。すぐに分かるわ」


 ふふっと笑う祖母はこれ以上答える気は無さそうだ。

 すぐに分かるならまぁいいかな、と退席の挨拶をして部屋を出た。


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