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とある男爵令嬢の災難:ミーナ視点

前話『テスト結果』の別視点からの話です。

会話部分はほとんど同じなので読み飛ばしてもらっても問題ないかと思います。

 わたくしはミーナ・マイリスと申します。

 マイリス男爵家の三女で15歳です。


 わたくしは今年、魔術学園に入学いたします。

 今日はその入学式の日なのです。


 実はわたくしの家、マイリス家は2年前に起きた杜鵑草密売事件の密売人、フィズラン子爵と親戚関係にあるのです。とは言っても事件と関わりがあった訳では無いので、調査は入りましたが無実という事は証明されております。

しかし、それをそのまま受け止めてくださらない人がいらっしゃるのも事実です。


 元々わたくしは明るい性格でもなく、一人で物語を読んでは空想の世界に耽るような子供でした。

容姿も赤銅色の髪にグレーの目と地味なものでしたので、やんちゃ盛りの貴族の子にいじめられた事もございますし、マイリス家は小さな小さな男爵家ですので、末端男爵しかも三女と蔑まれた事もございます。

そこに親戚であるフィズラン子爵の醜聞が加わり、貴族ばかりの魔術学園でのわたくしの立場は崖っぷちとも言えます。


 そんなわたくしに朗報が飛び込んで来ました。

 なんと、今年の新入生の中に平民の方がいらっしゃるそうです。平民の方ならば、わたくしを色眼鏡で見ずに仲良くなってくれるのではないでしょうか。きっと魔力も少ないので同じクラスになれるはずです。お友達になりたい。

そう、期待しておりました。


 残念ながら平民の彼女は特別魔力が多く、クラスは一緒になれませんでした。そして、クラス分けで何よりショックだったのが、あのカイン・ファロム様と同じクラスになってしまった事です。


 カイン・ファロム様は僅か13歳で杜鵑草密売事件でフィズラン子爵夫妻の密売の証拠をあげたお方で、他にも数々の不正を暴き、その手腕は将来の宰相候補と期待されているすごい方です。


 ・・・すごい方なのですが、わたくしはあの方が苦手なのです。

 フィズラン子爵の起こした事件の摘発は恨んだりしておりませんし、フィズラン子爵が悪いのでしょうがないと思っております。

 そうではなく、カイン様はいつも無表情で、冷たい雰囲気でいらっしゃいます。髪や目の色味が暗めなのもありますが、その目には何も映していないようで、全てを見透かされているような気さえいたします。

 その目で、冷酷に不正を侵したものを追い詰めるのです。

同じような顔立ちの兄のシヴァン様は、ニコニコとよく笑っていらっしゃる方ですが、わたくしはカイン様が笑っている所どころか表情を変えている所すら見た事がありません。

 わたくしも、表情豊かな方ではないですが、あの方は何だかとても、とても怖いのです。『冷血の狼』という二つ名を聞いた時はまさにその通りだと感心いたしました。


 そんなカイン様と同じクラスになってしまって、この先の学園生活に不安を感じました。


 クラス別に分かれた時、わたくしのCクラスでは平民の彼女の悪口で持ち切りでした。

 彼女が貴族のわたくし達よりも魔力が多かったので、嫉妬なのでしょう。次の日に行われるテストの話題になった時も彼女の悪口は続きました。


「僕達はラッキーだな。平民が最下位を取ってくれるのだから、僕達は絶対に最下位にならない」

「確かに、そうですわね。そう考えると平民がいるのも許してあげてもいいかしら」

「そうだな。平民は最下位に違いないのだから」


 すると、今までずっと黙っていたカイン様が声を上げました。


「その平民の実力を知らないのに、偏見で決めつけてはいけないよ」


 カイン様はこのクラスで1番身分の高いお方ですので、一瞬シンと静まりましたが、クラスメイト達は笑って、カイン様の意見を否定します。


「平民ですよ?僕達に勝てる訳がない」

「そうですわ。今までだって、稀に入学する平民が最下位じゃなかった事はございませんわ」


 カイン様は否定された事を気にされた様子もなく続けます。


「じゃあ、賭けをしようか。このクラスで平民の子に負けた人は学園を自主退学する。平民に負けるような貴族は要らないからね。その代わり、平民の子が最下位だったら、僕が責任を持ってあの子を学園から追い出すよ」


 ここでクラスメイト達はカイン様のやりたい事がわかったようです。

 カイン様も魔力の多い平民が気に食わないのでしょう。

カイン様は『冷血の狼』と呼ばれるお方。彼女を学園から追い出す建前を探しているのだとCクラス全員が気が付きました。


 ・・・わたくしは平民の彼女とお友達になりたいので参加したくはないです。

 でもカイン様は「このクラスで」とおっしゃいました。必然的にわたくしも入っています。

わたくしが最下位になれば退学しなければならないし、平民の彼女が最下位になれば彼女が退学させられる。わたくしと彼女が二人とも学園に残る道はないのです。


 わたくしは参加を辞退します、そう言おうとしましたが、クラスメイト達は、


「それはいいですね。Cクラス全員で彼女を落としましょう」

「その賭け、乗りましたわ」

「結果が楽しみですね」


と賭けに乗ってしまわれました。とても参加を辞退したいと水をさせる雰囲気ではありません。


 ああ、どうすれば良いのでしょうか。


 直後、カイン様はAクラスのアーサー様に呼ばれ、慌てたように何処かへかけて行かれました。


 その後、Aクラスの騒動により、わたくし達は知ったのです。平民の彼女、ティアさんはカイン様の婚約者である事を。

それも親が決めた形だけの婚約ではなく、お互い愛し合った上での婚約だという事を。


 わたくしは血の気が引きました。こうなってくると賭けの意味合いが変わって来ます。

カイン様が学園から追い出したいのはティアさんではなく、ティアさんの悪口を言っていたCクラスの人達。

とんでもない事になったと思いました。それは、他のクラスメイト達も同じようでした。


 わたくしは必死で勉強いたしました。魔術学園を卒業していないと、魔力を封じられます。そうなると貴族の仕事をする事が出来なくなるどころか、全ての魔術具が使えなくなるので、平民のような生活すら出来なくなります。わたくしは魔術学園を退学になりたくはありません。けれども時間は1日もありません。普段、物語ばかり読んでいないで、もっと参考書を読んでいればよかったと後悔いたしました。



 結果は惨敗。わたくしは最下位でした。

 わたくしも心の何処かでティアさんは平民だから、と思っていたのかもしれません。まさか、カイン様、レオンハルト殿下に続いて3位に入るなんて、誰が予想出来たでしょう。

 Cクラスでティアさんより順位が上なのはカイン様だけでした。つまり、Cクラスはカイン様以外の全員が退学の危機に立たされたという事です。


 賭けに乗ったクラスメイトの一人が顔を真っ青にしてカイン様に声をかけます。


「あの、」

「結果はご覧の通りだよ。早く退学届け出して来なよ」

「で、ですがっ」

「賭けを反故にする気?乗ったのは君達だったよね」


 ・・・カイン様は冷たい目と声で返され、取り付く島もありません。

さすがは『冷血の狼』です。カイン様はやると言ったらやるのでしょう。


「君達が散々馬鹿にしていた平民に君達は負けたんだよ。貴族らしく潔く責任を取りなよ」


 ブリザードが吹き荒れた気がいたしました。

 カイン様はとても、とても怒っています。あの冷酷に人を追いやる目が今、わたくし達に向けられているのです。身体が恐怖で震えてきました。


 どうにか許しを貰おうと、わたくし達はプライドを捨て、頭を下げて許しを請います。


「・・・も、申し訳ございませんでしたっ!」


 カイン様はそんなわたくし達に冷たく言い放ちます。


「謝る相手は、僕じゃないよね?」


 ・・・はっ!そうです。

 元を辿ればカイン様はティアさんの悪口を言っていたから怒っているのです。わたくし達はティアさんに向かって謝ります。


「ティア様!申し訳ございませんでした」

「貴女様の事を知りもせず、馬鹿にした事、お詫び申し上げます」


 謝罪を受けたティアさん、いえ、ティア様はカイン様の服を掴んで嘆願してくださいます。


「カ、カイン!もう許してあげよう?彼等すごく反省してるから、充分だよ。私は気にしてないから!」


 ・・・なんてお優しい方なのでしょう。彼女は自分が何か悪いことをしたわけでもないのに、平民と言うだけでCクラスの方々から悪口を言われて蔑まれていたのに許してくださるのです。


 すると、カイン様は今までの冷たい無表情からは考えられない程優しい笑顔をティア様に向け、ティア様の肩を抱かれます。


「・・・そう?僕のティアは優しいね」


 カイン様は本当にティア様の事を愛しく思っておられるのでしょう。ティア様に向けられる言葉や態度は優しさに溢れていて、『冷血の狼』の影もありません。


「ティアの優しさに免じて今回だけは許してあげるよ。次は無いよ?」


 ティア様の嘆願でカイン様はそう宣言され、わたくし達Cクラスは学園に残る事を許されました。


 そして、わたくし達はCクラスを救ってくださったお優しいティア様を女神としてたたえるようになりました。




「マイリス男爵令嬢、少しいいかな?」

「は、はいっ」


 その事件の翌日、ちょうどわたくし一人でいた時に、何故かカイン様に呼び止められました。

 昨日の冷酷な目を思い出し、自然と身体が強ばります。


「昨日はごめんね?君はあの賭けに乗り気じゃなかったのに、一緒に断罪しちゃって」

「え・・・気づいていたのですか?」

「君はティアの悪口を言わなかったでしょう?むしろ、諌めたかったんじゃない?」


 確かに、わたくしは入学式の日、ティア様の悪口を言うクラスメイト達を止めたかったのです。「あの・・・」とか「それは・・・」とかあまり声は出なかったのですが。


 コクンと頷きます。


「でも、結局諌める事は、できませんでしたし・・・賭けも、辞退したいと言い出す事も、できませんでした。わたくしも同罪です。・・・わ、わたくし、本当は、ティア様と、お友達になりたくて・・・」


 ですがティア様にはカイン様という婚約者も、アーサー様という同じクラスのお友達もいらっしゃいます。

わたくしとはお友達になってくださらないかもしれません・・・。


「いいんじゃない?ティアは人を色眼鏡で見たりしないし、優しくて寛大だ。友達になって欲しいと頼んでみるといい」

「そ、それも難易度が高いです・・・」


 わたくしはとても小心者なのです。むしろ信仰したいレベルのティア様相手にそんな勇気出るでしょうか。

 カイン様は「まぁ、頑張りなよ」と言って去ってしまいました。


 ・・・色眼鏡で人を見ないのはカイン様も同じですね。わたくしを末端男爵の三女だと蔑む事も、フィズラン子爵の親戚だと訝しむ事もなく、大切なティア様に近づくチャンスをくださるのですから。

 もし、わたくしがティア様やカイン様とお友達になれたら、自分に少し、自信がつくような気がいたしました。

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