テスト結果
「ふふふん、ふふん♪」
私はカインとアーサーと学園の廊下を歩いている。テスト結果が貼りだされたので見に行くのだ。
「ティア、ご機嫌だね」
カインの言う通り、私は今機嫌がいい。
なぜなら・・・
「テストの出来が良かったからね」
まだ結果は返ってきていないが、手応えはあった。
元々成績は良くなかった私の数年の努力が結ばれた感じだ。
ふふん♪と鼻歌を歌っていると、アーサーが首を傾げる。
「ティアはそんなに自信あるのか。何位目標だ?」
「最下位以外」
「目標、低っ!」
ゲームの中でも入学直後の今回のテストは出てきていて、ヒロインはぶっちぎりの最下位である。
そこでヒロインの成績の悪さに驚いた攻略対象達がヒロインに勉強を教えるというイベントが発生するのだ。
私の目標はそのイベント回避。
要は攻略対象達が勉強を教えなくていいレベルに私の成績を上げればいい。しかし、他の貴族のレベルが分からないので、過信は出来ない。とりあえず、ぶっちぎり最下位を回避すれば上々だろう。
前方に人だかりの出来ている場所がある。
テスト結果が貼りだされた掲示板だ。「どれどれ」と人混みを掻き分けて掲示板を見る。
1位 カイン・ファロム
「カイン!すごいよ、1位だって!さすがだね!」
さすがはカイン!ハイスペックの攻略対象達を差し置いての1位だよ!すごいよ!
手放しでカインを褒めると、カインは恥ずかしそうに頬を染めた。
「そうかな・・・」
照れてるっ!照れてるカイン可愛いっ!
「いや、ティア。カインもすごいけど、お前もすごいぞ。ちゃんと見たか?」
「え?最下位じゃないのは確認したよ」
アーサーが苦笑いしているが、最下位の名前が私じゃないのは確認済みだ。
んー、ともう一度掲示板をよく見て私の名前を探す。
1位 カイン・ファロム
2位 レオンハルト・サクレスタ
3位 ティア・アタラード
4位 レイビス・ロサルタン
5位 リリアーナ・ロサルタン
6位 アーサー・ラドンセン
…以下略。
さすがは攻略対象。皆座学も上位なんだね・・・
「って、私、3位?!」
え?!私、すごくない?!本当に?!
・・・ふふふ、見たか攻略対象達よ。私に勉強を教える必要など無いよ!イベントは発生させないよ!
「ティア、頑張ってたもんね。おめでとう」
「うんっ!カインも協力してくれてありがとう!」
やったあーと喜んでいると、掲示板を見に来ていた同学年の生徒達は愕然としていた。
「嘘だろ」
「平民に負けるなんて・・・」
中には真っ青な顔をして震えている人も何人かいる。
・・・平民にテスト負けたぐらいでそんなに真っ青にならなくてもいいのに。
「・・・カイン様」
そろりと声をかけてきたのは、真っ青になっている生徒の一人。
まだちゃんと覚えてないけど、カインと同じCクラスの人だった気がする。
というか、Cクラスの人のほとんどが真っ青な顔をしてカインを見ている。
彼は何かを言いかけるが、カインが冷たい目と声でそれを遮る。
「あの、」
「結果はご覧の通りだよ。早く退学届け出して来なよ」
・・・退学届け?
「で、ですがっ」
「賭けを反故にする気?乗ったのは君達だったよね」
・・・賭け?
カインが言葉を発する度に彼等の顔色が更に悪くなっていく。
・・・何やら不穏な単語が聞こえる。
彼等とカインを見ながら若干遠い目をしていたアーサーの袖を引っ張る。
「ねぇ、アーサーは何か知ってるんじゃない?賭けとか、退学届けとかって何?」
「あー、アイツら、カインの婚約者がティアだって知らなかったんだと思うんだが、実はな・・・」
アーサーの話によると、
入学式当日、Cクラスは平民ながらAクラスに入った私の悪口で持ちきりだったそうだ。
そして、話題が翌日のテストの事になった時に誰かが言った。
自分たちはラッキーだ。テストでは平民が最下位だから、自分達は絶対に最下位にはならないのだから、と。クラスメイトはその意見に大いに賛同した。
その時、カインが言ったのだ。
「その平民の実力を知らないのに、偏見で決めつけてはいけないよ」
しかしクラスメイト達は平民がテストで貴族に勝てるわけがないと主張した。
「じゃあ、賭けをしようか。このクラスで平民の子に負けた人は学園を自主退学する。その代わり、平民の子が最下位だったら、僕が責任を持ってあの子を学園から追い出すよ」
カインの賭けの提案にクラスメイト達はすぐに乗った。
私とカインの関係を知らなかったCクラスの人達は、『冷血の狼』と呼ばれるファロム侯爵令息が目障りな平民を学園から追い出す為の建前作りだと思ったらしい。
なにより、今まで平民が魔術学園に入って最下位じゃなかった事が無いのだから、自分達が負けるはずはないと。
「――――という訳だ。ちょうどレオンハルト殿下の事でカインを呼びにCクラスに行った時に聞いたんだ」
なるほど。
私が予想以上にテスト結果が良かったので、Cクラスはカイン以外の全員が退学の危機にあると。
・・・カインは私を庇ってくれたんだろうけど、やりすぎてない?
アーサーと話している間にもCクラスの人たちはカインに追い詰められていく。
「君達が散々馬鹿にしていた平民に君達は負けたんだよ。貴族らしく潔く責任を取りなよ」
そこだけブリザードが吹き荒れているんじゃないかと思うくらいCクラスの面々は顔色悪く震えている。
「・・・も、申し訳ございませんでしたっ!」
1人がガバッと頭を下げると、他のCクラスの人達もそれに続く。
「申し訳ございませんでした。わたくしは、魔術学園に通いたいのです。どうか、許してください」
「何でもいたしますので、退学だけはっ」
「私が浅はかでした。どうか、ご慈悲をっ」
カインはそんな彼等を冷たく見下ろす。
「謝る相手は、僕じゃないよね?」
一瞬固まったが、ハッとしたCクラスの人達が一斉に私の方を向く。
ひぇっ!なんか皆さん目がヤバイよ。『助けて』って言ってる。
「ティア様!申し訳ございませんでした」
「貴女様の事を知りもせず、馬鹿にした事、お詫び申し上げます」
「ティア様、何でもいたしますので、どうか、許してください」
身分が上のはずの貴族のご令息、ご令嬢に様付けされて頭を下げられる平民。私ですね。はい。
彼等の切実すぎる表情が心にくるよ!
「カ、カイン!もう許してあげよう?彼等すごく反省してるから、充分だよ。私は気にしてないから!」
カインの服をぎゅっと握り嘆願すると、
「・・・そう?僕のティアは優しいね」
カインはいつもの優しい笑顔で私の肩を抱く。
「ティアの優しさに免じて今回だけは許してあげるよ。次は無いよ?」
Cクラスの人達に向けて許す宣言をすると、彼等は私に再び頭を下げる。
「「「はい!ありがとうございます!ティア様!」」」
・・・もう、止めてください。
こうして、カインは入学して数日でCクラスを掌握した。
そして私は、Cクラスにて救いの女神かのようにたたえられるようになったのだ。
・・・勘弁してください。




