リリアーナ・ロサルタン
翌日。
私はアーサー、カインと待ち合わせをして、一緒に歩いて登校している。
「今日のテスト、緊張するよー」
「今回のテストはそれぞれの実力を測る為のものらしいし、そこまで緊張しなくても大丈夫だって」
「ティアはやれるだけの事はやったんだから、大丈夫だよ」
入学2日目の今日は最初の一般教養のテストだ。
今までテオと一緒に学んだ事を活かしていきたい。それに、攻略対象達に勉強を教えてもらうというイベント回避の為に良い点数を取らなければ、と気合いが入っている。
昨日カインにも貴族の勉強と相違ないか照らし合わせしてもらったし、復習がてら勉強もみてもらったし、大丈夫だと思うけれど、緊張はするのだ。
「ティアは意外と真面目なんだね」
「シヴァン様!」
私の後ろからひょっこりと顔を出したのはカインの兄、シヴァンだ。
「やぁ、おはよう」といつもの笑顔を浮べているシヴァンにカインが苦い顔をする。
「・・・兄様は馬車で登校するのでは?」
「僕一人のために馬車を動かすのは勿体ないだろう?」
「去年はそうだったじゃないか」
「良いだろう、僕もティアやアーサーと喋りながら登校したいんだ」
「俺は歓迎しますよ、シヴァン様」
「アーサー、ありがとう。ティアもいいかな?」
「わたくしも歓迎いたしますわ。シヴァン様」
「アーサーもティアも、もう少し砕けた感じで話してくれると嬉しいな、なんだか僕だけ仲間外れみたいて悲しいじゃないか」
「ああ、わかった」
「善処します」
「勝手に悲しんでろ」
「最近弟が反抗期でね。可愛いだろう?」
「はいっ!そんなカインも可愛いですっ!」
「ティア?!」
シヴァンは攻略対象でちょっと何考えてるか分からない時があって注意が必要だけど、基本的に弟思いのいいお兄ちゃんなのだ。
「それにしても、2年生の間でも随分と噂になっているよ」
「噂、ですか?」
「ああ、とんでもない魔力を持った平民がいるってね」
「もうそんなに知れ渡っているんですか・・・」
シヴァン達上級生にまで知れ渡ってしまっているなんて・・・
あまり目立ちたくなかったのに、魔力測定のせいで随分と目立ってしまったようだ。
「ああ、気をつけた方がいい。自分より身分の低い者が自分より大きな力を持っていると嫉妬で何をしでかすか分からない者もいるからね」
「・・・はい」
「近づいて来る者もよく見極めるんだよ」
「はい。気をつけます」
「カインとアーサーも気にかけてあげるんだよ」
「わかってる」
「了解」
シヴァンの忠告にカインとアーサーも頷く。二人とも学園内では特に私を気にかけてくれるので、ありがたいけれど、申し訳ないような気持ちにもなる。
カインやシヴァンと廊下で別れ、アーサーと話しながらAクラスの教室に入る。
すると・・・
「ティアさん、ちょっとよろしいかしら」
公爵令嬢リリアーナ・ロサルタンが取り巻きをつけて待ち構えていた。
教室を出て中庭に移動する。
最初はアーサーも一緒に行こうとしてくれたのだけれど、リリアーナに「女同士の話ですの。殿方は遠慮してくださる?」と言われ、「大丈夫だよ」と声をかけたらしぶしぶ引き下がった。
リリアーナ・ロサルタン
公爵令嬢でレオンハルトの婚約者。攻略対象レイビス・ロサルタンの双子の妹。
金色の髪に薄紫色のちょっとつり上がった目をしたお人形みたいに綺麗な顔のご令嬢。
ゲームではヒロインがリリアーナに無礼を働いた事でリリアーナからの嫌がらせが始まり、彼女の嫌がらせはだんだんとエスカレートしていく。最終的に公開断罪の上に婚約破棄をされる悪役令嬢。
そんな彼女に呼び出されるという事は、私が何か気に障ったのだろうが、私はまだゲームのようにリリアーナに無礼を働いていないので、思い当たるのは昨日のレオンハルトの事だろうか。
レオンハルトはこんな可愛い婚約者がいるのに何故他の女性を口説くのか。被害がこちらに出るのでとても迷惑である。
平穏な学園生活の為にも嫌がらせを受けるのは避けたいのだが・・・
中庭の少し影になった所に来たところで、リリアーナとその取り巻きは私を取り囲む。
「ティアさん、貴女、平民なのでしょう。少しは身分を弁えなさいな」
リリアーナの言葉をきっかけに周りの取り巻き達も「そうよ」と言い募る。
「次期宰相候補と言われるカイン様を婚約者に持つ事もありえないのに、次期騎士団長候補のアーサー様とも親しく話し、挙句わたくしの婚約者であるレオンハルト様にまで愛嬌を振りまいて手を出す、なんて図々しいのかしら」
「そうですわ、平民のくせに調子に乗りすぎですわ」
カインとアーサーに関しては認めるけど、レオンハルトに関しては単なる言いがかりだ。レオンハルトに愛嬌を振りまいた事など1度も無いし、手を出した事も無い。
ゲームのヒロインならばここで言い返していたな。
あちらから近づいてくるだけだと、私は間違った事はしていない、こんな事を言われるのはおかしいと。
しかし、それは彼女達の求める答えでは無いのだ。だから嫌がらせは悪化する。
故に私は、
「・・・皆様のご気分を害してしまったようで申し訳ございません。カイン様とアーサー様に関しては幼い頃からの付き合い故に見逃して頂きたいのですが、レオンハルト殿下に関しましてはわたくしの方からは二度と近づかないと誓いましょう」
ぺこりと頭を下げる。
そう、謝ってしまえばいいのだ。
それで令嬢達が私に興味を無くしてくれるのなら、プライドなんて捨ててしまえ。
そもそもこの身分制度の社会で平民が貴族に食ってかかってもいい事など無いのだ。
素直に謝罪する私に令嬢達は虚をつかれたように黙る。
「・・・どうやら、ご自分の立場をよく分かっていらっしゃるようね」
皆様行きましょう。リリアーナがそう言って踵を返すとその取り巻きもリリアーナを追いかけて去って行った。
上手くやり過ごした・・・かな?
このまま彼女達が私から興味を無くしてくれると嬉しいのだが。
「よし、まずはテストだね」
パチンと両手で頬を叩き、気分を切り替えて教室に戻った。




