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ゲームシナリオ開始

 何故気づかなかったのか。


 ゲームでクラス分けは出てこなかったが、ヒロインは攻略対象達と多く交流する。そこから恋愛に発展していく為に。

そう、交流が多いのは同じクラスだから。つまり、ヒロインは必然的に攻略対象の集まるAクラスに分けられる事になるのだ。



 魔力測定の魔術具である水晶玉を破壊し、測定不能な程魔力が多いとされた私はAクラスに分けられた。

 ざわめきが収まらない中、Aクラスの分けられた場所に行き、そっとアーサーの近くに身を隠す。


「ティア、お前すごかったんだな。測定不能って初めて聞いたんだけど」

「知らないよぉ。うぅ、こんな注目のされ方したくなかった」


 うぅ、同じAクラスの人達からの視線も痛い。

そりゃそうだよね、自分達より下の平民が、自分達より魔力量が上だったんだから。

嫌な感じで注目度が上がってしまった。


 ちなみに、チラッとCクラスのカインの方を見たら、ものすごく眉間に皺が寄っていた。

 ・・・そっと目を逸らしておいた。



 このAクラスだが、

攻略対象の第一王子レオンハルト・サクレスタ、公爵令息レイビス・ロサルタン、伯爵令息アーサー・ラドンセン、レオンハルトの婚約者で悪役令嬢のリリアーナ・ロサルタンが同じクラスである。

 ここに学年が違う侯爵令息シヴァン・ファロムと第二王子ニコラス・サクレスタが揃えばゲームの主要キャラクターは勢ぞろいだ。


 本格的にゲームの開始だ。



 クラス分けが終わったので、それぞれの教室に行き、ガイダンスやクラス内の自己紹介を行う。

Aクラスの担任はクール美人な女性の先生だった。


「――――では、明日は一般教養のテストがあります。結果が張り出されるので、しっかり勉強をしてきてください。本日はこれで以上です」


 先生の言葉が終わると同時に急いで帰り支度をする。

 早く帰らないと、たしかこの後ゲームでは・・・


「平民、ティアと言ったか?少し残れ、話がある」


 荘厳な口調で話しかけてきたのは、銀色の長髪を肩口でひとつに纏め、自信に満ちた金色の目を持ったこの国の第一王子、レオンハルト・サクレスタだ。


「・・・はい」


 出会いイベント回避ならず。





「其方、何故そんなに魔力量が多いのだ?」


 そのまま教室で話し始めるレオンハルト。王子と平民という珍しい組み合わせに注目が集まる。


「存じません。わたくしも今日知りましたので」

「そうか・・・」


 レオンハルトがまじまじと私の顔を覗き込んでくる。


「其方、やはり4年程前に自然公園で私の誘いを断った黒髪の女だな」


 げ、覚えてるのか。平民1人くらい忘れてくれよ。


「ひゃっ」


 グイッとレオンハルトに腕を掴まれて引き寄せられ、腰に手を回され逃げられないように力が込められる。

4年前のピクニック時の再来のような体勢に鳥肌が立つ。


「やはり、美しい。この髪も、目も、多量の魔力も全て気に入った。ティア、私の妾になれ」


 自信に満ちた声でレオンハルトが言い放った。

 ちなみに、この教室にレオンハルトの婚約者であり悪役令嬢のリリアーナもいるのだ。自分の婚約者の目の前でよく他の女を口説けるものだ。

 相変わらずこの王子の事は好きになれそうにない。


「申し訳ございません。4年前も申し上げましたが、わたくしでは殿下とは到底釣り合いませんので、ご容赦くださいませ」


 レオンハルトの胸を軽く押し、少しでも距離を取とうとするが、グッと、腰を押さえられて身動きが取れない。

 ・・・離してよっ


「まぁ、そう言うな、・・・おっと」


 レオンハルトの方とは逆の方向からグイッと肩を引かれて、肩を引いた誰かにトン、とぶつかる。


 ・・・カイン。


 Cクラスから急いで来てくれたのだろう、少し息が上がって肩が上下している。

後ろから包まれるカインの香りに強ばっていた力が抜ける。


「申し訳ございませんが殿下、ティアは僕の婚約者です。手を出すのは止めて頂けますか」


 カインは丁寧な口調とは逆に獰猛な目付きでレオンハルトを見る。


「・・・其方は?」

「ファロム侯爵家次男、カイン・ファロムと申します」


 ザワっと教室内がざわめくと、レオンハルトの金色の目が冷たくカインを見る。


「ふん、Cクラスの侯爵家か、魔力が少ない故に平民を婚約者にあてがわれたのか?」

「魔力の少ない侯爵家の僕と平民の彼女はお似合いでしょう?殿下の出る幕はございません」


 バチバチっとレオンハルトとカインの間で火花が散っている気がする。

 そういえば、カインも私の事でレオンハルトに嫌悪感を抱いているけれど、レオンハルトもカインの不正摘発で立場を落とされたからカインの事は良く思っていないのかも知れない。

 クラスメイト達も固唾を呑むような攻防がいつまで続くのかと思いきや、先に矛を収めたのはレオンハルトだった。


「まぁ、良い。時間はたっぷりあるからな。ゆっくりと落としていく事にするさ」


 レオンハルトはくるりと踵を返し「ティア、また明日な」と教室から出て行った。


 レオンハルトが出て行った事で、教室内の剣呑な空気は霧散した。私もホッと息を吐く。


「ティア、大丈夫だった?」

「うん、カインのおかげだよ。ありがとう」


 カインも気を緩めてふわりと微笑んでくれる。

 カインのおかげで、どうにかレオンハルトとの出会いイベントはやり過ごせたようだ。「ゆっくり落としていく」とか不穏な事も言っていたけれど。


「そういえば、カインはどうしてAクラスに?」

「アーサーが呼びに来てくれたんだ。殿下がティアに接触したら僕を呼んでって言ってあったから」


 そうなんだ。そういえば、レオンハルトに話しかけられたくらいからアーサーの姿が見えなかった気がする。


「ありがとう」とアーサーの方を見ると、アーサーはニッと笑った。


 こうして入学初日はどうにか終了した。

 オープニングにレオンハルトとの出会いイベント、やはりこの世界はゲームの通りに動いているのだと思える1日だった。


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