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魔力測定

「カインが前髪分けてるの初めて見たよ。魔術学園はその髪型で通うの?」


 入学式会場の講堂にカインとアーサーと私の三人で向かいながら気になっていた事を聞く。

 今まで私と一緒にいるカインは前髪を下ろしていて、隙間から目が少し覗く程度だった。

けれど今日は前髪を分けてしまっているので、カインの綺麗なエメラルド色の目がよく見える。

どっちがいいかと言われると、どっちもいい。好き。


「うん、目が見えた方が他人を威圧しやすいみたいなんだよね」


 ニッコリと黒い笑顔を浮べるカイン。


「いや、他人を威圧する前提かよ」

「程々にしてね」


 最近のカインは性格の黒さを隠さなくなってきた。私や私の周りには変わらずほわほわしていて優しいのだが、それ以外には冷酷、無関心だったりする事に気づいた。

 それでも変わらず好きだって思うのは私はよほどカインに溺れているのだろう。むしろ、私や私の周りにだけ優しいのが嬉しかったりするのだから。


「『冷血の狼』か・・・」

「ん?カインの二つ名だろ、それ」

「やめてよ・・・」


 カインは貴族の間で『冷血の狼』と呼ばれているらしい。まだ10代前半でありながら宰相の仕事を手伝い、冷酷に不正を摘発しまくっている事から付けられたらしい。

 そういえば、カインの不正摘発で、第一王子レオンハルトが少し立場を落としたらしい。数年前までは王太子確実か?とまで言われていたのに、最近は第二王子のニコラスと拮抗しているらしい。詳しくは平民の私にはよく分からないが。


「なんか、私にとってカインは『冷血』でも『狼』でも無いから、しっくり来ないって言うか・・・」


 私から見たカインは『冷血の狼』より『のほほんとした小犬』ぐらいがしっくり来る。


「誰かが勝手に言ってるだけだから気にしないで」


 苦笑するカインはこの二つ名をあまり気に入っていないようだ。

そんな私達の会話を聞いていたアーサーが声をあげる。


「ん?でもさ『冷血』ではないかもしれないが、ティアにとってカインは『狼』ではある――――ぅぐっ!」


 ドスッ


 再びカインの肘鉄がアーサーに入った。

 ぐぅおぉぉとアーサーが再び呻いてうずくまる。


「アーサー、大丈夫?」

「ティア、気にせず進もう」


 カインが有無を言わさずニッコリと笑い、アーサーを置いて歩き出す。


「ティア、僕は紳士だからね」

「え?うん、知ってるよ」


 カインが紳士で優しいのはとっくに知っているが、どうしたのだろうか。



 復活したアーサーもなんとか私達に追いついて、入学式を行う講堂に着いた。


 さすがは貴族ばかりの魔術学園、講堂も広くて豪華だ。

案内係の教師の指示に従い、空いている席に座る。

入学式自体は何事も無く進んだ。やっぱりどこの世界でも学校長挨拶や来賓挨拶は長くて眠たくなると思った。


 最後に司会の人が


「では、これからクラス分けを行いますので皆様そのままお待ちください」


と言った。


「クラス分け?」

「魔術学園では魔力量でクラスが分けられるんだよ。その魔力量を今から測定して、分けていくんだ」

「そうなんだ」


 へぇー。じゃあ、前で教師の人が準備してる占いの水晶玉みたいな物が魔力量を測定する魔術具なのかな。


「俺は魔力量多い方だからティアとは一緒のクラスになれないかもな・・・」

「アーサーは魔力が多いんだね」

「大丈夫だよ。僕は魔力が少ないから、きっとティアと一緒のクラスになれるよ」


 ニコッとカインが微笑む。

 私は平民だし、兄は魔術学園に入れない魔力量しかないから、ギリギリ魔術学園に通えるだけで、魔術学園では底辺だろう。

アーサーとクラスが分かれるのは寂しいが、カインと一緒なら嬉しい。


 そうしている内に魔力量測定の準備が出来たみたいだ。

 司会の人が説明をしてくれる。

 一人一人魔力量を測定する水晶玉に手をかざし、水晶玉の染まった色でクラスを判別するらしい。


 水晶玉は魔力が多い順から赤〜黄〜青色に染まるらしい。

 そして、赤に近いとAクラス、黄色に近いとBクラス、青に近いとCクラスとなるそうだ。

クラスが決まったら、クラス毎の位置で待機だそうだ。


「レオンハルト・サクレスタ様」


 司会の人に呼ばれたレオンハルトが立ち上がり、舞台に上がる。

 レオンハルトが魔術具の水晶玉に手をかざすと、パァっと光り、水晶玉が朱色に色付いた。


「さすがですね。レオンハルト殿下はAクラスです」

「当然だ」


 ふん、と鼻を鳴らしてレオンハルトはAクラスの位置に移動する。


「次、レイビス・ロサルタン様」




「やっぱり爵位が高いほど魔力量も多いものなの?」

「比較的ね」


 どうやら身分順に呼ばれているようだが、今まではほとんどがAクラスだ。


「カイン・ファロム様」


 カインの順番になったようだ。

「行ってくるね」と舞台に向かう。


 カインが手をかざすと水晶玉は緑色に色付く。


「カイン・ファロム様、Cクラスです」


 すると、講堂内が少しざわめく。


「侯爵令息がCクラス?」

「冷血の狼とか言われているけれど、意外と大したことないんだな」


 聞こえてくるカインの悪口にムッとしてしまう。


 カインは魔力少なくても、頭良くて、すごいんだから!


「むー」

「ティア、眉間に皺寄ってんぞ」

「だって、カインが馬鹿にされるとか腹立つ」

「気持ちはわかるけど、お前、身分も容姿も目立つんだから、表情取り繕っておけ」

「わかった」


 アーサーに指摘され、表情を取り繕う。ここでは平民という身分も、私の黒髪黒目もとても目立つので、これ以上目立ちたくはない。


「アーサー・ラドンセン様」

「お、俺の番か」


 アーサーのラドンセン家も伯爵位なので比較的早めに呼ばれてしまう。

 1人になると少し心許なくなってきた。

 アーサーは水晶玉をピンク色に色付かせ、Aクラスになった。

さすがは攻略対象、ハイスペックだ。


 それから、次々と生徒が呼ばれてクラス分けをされていく。

 最初はAクラスが多かったけれど、だんだんとBクラス、そして、Cクラスがほとんどになっていった。


 他の生徒がいなくなり、私の番が来た。


「ティア・アタラード様」


  立ち上がり、舞台まで歩き出す。

 私が最後だからか、それとも唯一の平民だからか、注目が集まる。


「やはりあの子が今年入学した平民なのですわね」

「夜の闇のような真っ黒な目ですけど、本当に魔力があるのかしら」

「平民なんてわざわざ魔力測定しなくてもどうせCクラスだろう」

「時間の無駄だな」


 ・・・せめて本人に聞こえないように言ってくれないかなー

 身分順って最初と最後に注目が集まってしまう気がする。

 でも、負けない。


 私は背筋を伸ばして、ゆっくりと―――――

 祖母に常々言われていた事を思い出し、出来る限り優雅に歩き舞台に到着する。


「こちらに手をかざしてください」

「はい」


 教師に言われた通り、水晶玉に手をかざす。


 すると、他の人達と同じようにパァっと光った水晶玉が真紅に色付く。


 えっ?と思った瞬間、


 ビキッと水晶玉にヒビが入り・・・


 パァン!!と割れた。


「ひゃっ!」


 思わず顔を手で庇ったけれど、水晶玉の破片はそんなに飛ばなかったみたいだ。

 そろそろと目を開けると、水晶玉は真紅に色付いたまま砕け散っていた。


「・・・」

「・・・」


 講堂内がシーン、と静まり返った。


 えっ?なにこれ?どうなったの?

 水晶玉、割れたよ。え?弁償とか言われないよね?高そうなんだけど、どうしよう?


 数秒の沈黙の後、ハッと我に返った教師が


「ティ、ティア・アタラード様、Aクラスです」


と宣言した。


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