表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/201

教会と友達

 この国では6歳から12歳まで教会で学問を習う事ができる。日本の小学校みたいなものだ。といっても、日本の義務教育のように全員が学ぶ訳ではない。

 国が補助を出してくれると言っても授業料はタダじゃないし、貧しい家の子は学問より少しでも稼いで家にお金を入れて欲しいという家もあるので、実際に教会で学問を学んでいるのは平民の中級~富裕層といった所だ。私の家は富裕層とまではいかないが中の上くらいの部類なので、教会に通わせてもらっている。

 ちなみに、貴族は個々で家庭教師を雇うので、教会で一緒に学ぶ事はない。

 授業は午前中だけで、午後は家の手伝いや家で勉強をするのがこの国の子供の生活だ。


「いってきまーす」


 玄関で母に手を振って兄と一緒に教会へ向かう。


「そういえば、ティアが倒れたのをテオとアリアがすごく心配してたぞ」

「そうなんだ。ちゃんと元気な姿を見せないとね!」


 テオとアリアは教会で仲良くなった私の友達だ。

 テオは国内で一二を争う大商会、ストデルム商会の息子で、うちも喫茶店に物を卸してもらうのに贔屓にさせて貰っている。

 アリアのフラゾール裁縫店は貴族御用達の有名な仕立て屋で、フラゾール家の作ったドレスはとんでもない値打ちになるらしい。二人とも忙しい合間を縫って私とよく遊んでくれる。今回、体調不良で何日も教会に行かなかった事で心配を掛けたみたいだ。


「そうしてくれ。毎日俺の教室に来てはしつこくティアの具合を聞かれて、非常に鬱陶しかった」

「そんなにげんなりした顔をしなくてもいいのに。せっかくの整った顔が台無しだよ?」

「うるさい。お前もお淑やかに座っていれば可愛いのに言動で全て台無しだ」

「お揃いだね、台無し兄妹!」


 ニコッと笑うと兄はハァとため息をついたが、何かを思い出したのか「そういえば」と声をあげた。


「ティアの婚約はテオとアリアには言わない方がいいぞ」

「え、なんで?」


 私的には大いに広げて、『ティア・アタラードには婚約者がいる』というのを周知の事実にし、魔術学園でのゲームのイベントに備えようと思っていたのだ。真逆の兄の忠告に首を傾げる。


「テオとアリアは婚約相手のカインの事知らないだろ?アイツらのティアに対する過保護ぶりを見てると『ティアの婚約者なんて認めない』とか『どんな奴か見極めてやる』とか言い出しかねない。最終的に実家の権力財力あらゆる物を使って破談させに来るかもしれない」

「え?」

「紹介するにしても、まず共通の友人として仲良くなってもらって、小出しに『もしかしたら婚約者じゃね?』みたいな情報を与えておいて、成人直前ぐらいに婚約の事を話した方がいいぞ。じゃないとどう暴走するかわからん。」

「・・・えっ?」


 私の友達、そんなクレイジーな子達だっけ?取り扱い注意?


 カインは平民の中でも裕福な家庭らしく、教会に通わず家庭教師から勉強を教わっているらしいので、テオとアリアはカインに会った事がない。

 だけど、テオもアリアもカインも私の大切な友達だ。『実は婚約者が出来たの』『おめでとう!』的な感じを想像してたんだけど、違うの?

『実は婚約者が出来たの』『どこのどいつだ!見極めてやる!』って感じなの?娘を嫁にやりたくないお父さんなの?


「わかったな?」

「あ、うん・・・」


 私の頭は疑問符だらけだが、兄の目がやたらと真剣なので素直に頷く事にした。


 そんな事を話しているうちに教会に着いた。

 教会での授業は年齢別になるので兄とは別の教室だ。


「じゃあな、ティア。終わったら迎えに行くから教室で待ってろよ」


 私を教室前まで送ってくれた兄はそう言って自分の教室の方へ向かって行った。

 先程、テオとアリアの事を過保護と言っていたけれど、私が倒れてからは特に兄も過保護になっている気がする。歩くペースも合わせてくれるし、教室前まで送ってくれる。嬉しいけれど、倒れたのがトラウマとかになってたら申し訳ないなと思いつつ教室のドアを開ける。


「おはよ――――ごふっ!!」

「ティアちゃーん!無事で良かったですわぁ!」


 挨拶も言い終わらないうちに突然何かがぶつかってきて、くぐもった声を上げてしまう。


 そのぶつかってきて来た何か――――アリアはぎゅうーッと私を締め付けてくる。


 うっ!く、苦しい・・・


 パシンッ


 ぎゅうぎゅうと締め付けてくるアリアの頭を教科書ではたくのはテオだ。


「こらっアリア!少しは手加減しろ!ティアがまた死んじゃうだろ?!」

「テオ!」


 またって何だ。またって。ティアとしてはまだ1度も死んでないよ?前世でなら死んだけど。


「うぅ、痛いですわ・・・」


 アリアは頭頂部を押えて屈む。でもおかげでアリアの拘束から逃れられた。


「ありがとう、テオ」

「・・・いや、別にお前の為じゃねぇし、うるせえと他の奴らに迷惑だろ」


 テオは群青色の髪と目をした男の子で年相応のやんちゃ臭さもあるが、とても優しい少年だ。私がお礼を言うと照れくさそうに持っていた教科書をいじり、そっぽを向いた。ツンデレですね。可愛い。


「アリアちゃんも、心配してくれたんだよね?ありがとう」


 そう言うと、屈んでいたアリアはスっと背筋を伸ばして立ち上がり、スカートを摘んで淑女の礼をする。


「お元気そうで何よりですわ。多忙故にお見舞いに行けず、心苦しく思っておりましたの」


 アリアはピンク色のストレートの髪に茶色の目をしている女の子。家柄的に貴族と接する事が多いので礼儀作法を学んでいて、お辞儀をするその姿は先程の奇行が嘘のように鳴りを潜めて、まるで貴族のご令嬢のようだ。


「そんなのいいの。私もいきなり倒れていろんな人に迷惑を掛けたから謝罪して回っている所だよ」


 肩をすくめて言うとテオが腕を組んで首を傾げる。


「てか、何で急に倒れたんだ?あの日も普通に教会に来てたよな?」


 テオが鋭い。まさか『前世の記憶を思い出したので脳がキャパオーバーして倒れました』なんて言えるはずもなく・・・


「んー、なんか午後から急に体調悪くなって来たみたいでぇ・・・自分でも知らないうちに?みたいな?」

「・・・」


 ・・・駄目だ!私、誤魔化すの向いてない!この大根役者!!

テオの群青色の目が怖い!『嘘ついてんな』みたいな顔してる!!


「まぁまぁ、テオくん、いいじゃないですか。ティアちゃんがこうして無事に戻って来てくれたんですから。わたくしはそれだけで十分ですわ」


 スルッと私とテオの間に入って取り持ってくれるアリア。天使。


「まあ、そうだな。・・・無事で良かった」


 納得してないながらもそっぽを向きつつボソッと無事を労ってくれるテオ。天使。


 私の友達は天使ばかりじゃない?誰だよクレイジーとか言ったの。兄の忠告はただの杞憂な気がしてきた。


「さぁ、そろそろ先生がいらっしゃるわ。席に着きましょう」


 アリアがパチンと手を打って私達を促す。


「そうだね。あっ!二人とも、一つ聞きたいんだけど・・・」

「なんですの?」

「何だよ?」


 同時に振り向く二人の天使。


「もし私に婚約者が出来たらどうする?」


 ピキリ

 その瞬間、空気が凍った音がした。


「そうですわねぇ・・・その婚約者の方には限りなく凄惨な死を迎えるように導いて差し上げましょう・・・」


 ふふふ、と悪魔のような微笑みを浮かべるアリア。


 え、死?!アリアちゃん?!目が据わっているよ!8歳児の目じゃないよ、それ!顔が笑顔なのが逆に怖いよ!


「おう、アリア、いい捨て場を知ってるぜ。あそこなら誰にも見つからねぇ」


 テオもアリアと同じく据わった目で、ハハっと笑う。


 テオ!?捨てるの!何を!?死体?!殺す前提なの!?てか殺した後の話なの!?


「まぁ!素晴らしいですわ!」


 素晴らしくないよ!?ニコニコ会話してるけどテオもアリアも顔がヤバイよ!悪魔みたいな顔してるよ!さっきの天使は何処へ!


「「で、」」

「!」

 二人の笑顔がゆっくりと私に向かい・・・


「その婚約者ってのは」

「一体どこのどいつでしょう?」


 ブリザードが吹き荒れた気がした――――


「わあぁ!違う!例えば!例え話だから!そういうの夢見ちゃう年頃だからね、私!」


 懸命に手を振って否定すると、ブリザードがピタッと止んだ。


「あら、そうでしたの?わたくしったら早とちりを。お恥ずかしいですわ」

「何だよ、誤解しちまったじゃねぇか。変な言い方すんなよな!」


 アリアは苦笑して恥ずかしそうに頬に手を当て、テオは照れ隠しのようにプイッと顔を逸らす。二人の笑顔がいつもの笑顔になったが、私は・・・


「ハハ、なんか、ごめんね・・・」


 そう絞り出すのが精一杯だった。



 そして誓った、絶対にカインをこの二人に会わせてはならないと。

 カインは私が守るからね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ