秘密
ティア視点→カイン視点になります。
「・・・読んだ?」
「いや、読んだっていうか・・・」
どうしよう。どう説明すればいい?あのノートを見られたら、私の印象は、現実にいる人でいろいろと妄想しているヤバイ人になるよね。カインにそんな風に思われたくない。
「僕、こんな文字初めて見るよ。どこの国の文字なの?」
「・・・え?」
・・・あっ!そういえば、ノートはずっと日本語で書いてたよ!!
日本語はこの世界の文字じゃないからカインには読めないんだ。
良かった!日本語で書いた私、グッジョブ!
心の中で私を褒めたたえていると、カインは再びノートに視線を落とす。
「この文字はよく出てくるから助詞に当たるんじゃないかと思うんだけど、するとこっちは名詞かな、この文字の組み合わせが多いな、つまり・・・」
やばい、何かブツブツ言いながら解読し始めてる!
頭のいい人、怖いっ!
「ダメーーー!!」
カインからノートを奪い、取られないように抱え込む。
「カインはこれ、見ちゃダメ!」
研究対象を取られたカインは不満気に唇を尖らせる。
「どうして?僕に見られるとまずい物なの?」
「そう!」
「・・・素直だね」
困ったように笑うカインだが、ダメなものはダメなのだ。
「ティアが見せたくないなら諦めるよ」
そう言って椅子に座り、私が運んできた紅茶に口をつける。
「じゃあ、違う話をしよう」
「うん」
よかった。このままあのノートについて問い質されたりしなくて。カインに問い質されるとうっかり口が滑っちゃいそうになるので危険なのだ。
「ティアがこの前言っていた、ティアの『理由は言えないけれど知っている事』についてなんだけど・・・」
カイン、それ、話題変わってないよ・・・
私の胡乱な目に気付かず、カインは続ける。
「僕はやっぱり、ティアをこの間みたいな危険から守りたいと思うし、その為にティアが何を知っているのかを知っておきたいと思うんだけど・・・ダメかな?」
「う・・・」
ダメかな?ってちょっと首を傾げて可愛く頼んで来るのずるい。私がそんなカインに弱いって知っててやってる気がする。
返答に困っていると、カインも「うーん」と考え込む。
「質問を変えようかな。ティアは僕がそれを知る事で何が不安なのかな?」
私が不安なのは・・・
「私は、カインに頭のおかしな子だと思われるのが嫌。カインに、嫌われたくないの」
私だって、他人がいきなり「実は前世の記憶があって・・・」とか言い出したら頭がどうかしているんじゃないかとか思うもの。カインにそんな風に思われたら生きていけない。
「ティアから何を聞いても、僕がティアを嫌うなんてありえないよ。僕はね、ティアに初めて出会ったあの日からずっとずっとティアだけを見てきたんだ。僕はティアを絶対にお嫁さんにするよ。絶対に離さない」
「――――っ」
真剣な眼差しにまた心臓の鼓動が大きくなり始める。
・・・こんなに、私の事を思ってくれてるんだ。私の秘密を知りたいのも私を守る為。私を絶対にお嫁さんにするって言ってくれた。
「・・・わかった」
なら、私もそのカインの気持ちに応えないといけないと思った。
「カインを信じるよ。・・・私の話、聞いてくれる?」
「もちろん」
私はなるべくこの世界で通じるように、わかりやすく前世やゲームについて伝える。『ゲーム』ではなく『物語』と言って伝えた。
「つまり、ティアはここじゃない別の世界で生きていた時に、この世界の未来を物語で知ったんだね」
たどたどしい説明だったけど、カインは上手く理解してくれた。
「うん。私はその物語の結末が嫌で、回避しようと動いているの」
「そっか、回避しないとどんな結末になるの?」
「結末は何種類かあるんだけど、1番嫌なのは・・・第一王子と私が結婚する結末かな」
「うん、僕もティアに協力するよ」
即答だった。
カインが協力してくれるなら心強いよ!でも、なんか、ちょっと怒ってない?
それから、更に詳しい説明をしていく。
「なるほどね、ティアの前の世界の物語では、この『攻略対象』とティアが結婚する結末になるんだね」
「うん。私が動かなければその通りにならないかもしれないけど、出来る限り『攻略対象』は避けたいと思ってる。・・・私が結婚したいのはカインだから」
「・・・うん、僕もティアと結婚したい。ティアは僕のなんだから『攻略対象』なんかに渡さないよ」
カインの前髪の隙間から覗くエメラルド色の目が熱を帯びた真剣さを醸し出している。
「それにしても、僕はやっと、ティアが何故知らないはずの事を知っていたのか理解できたよ。前世で知っていたんだね」
「・・・信じてくれるの?」
カインはポンポンと私の頭を撫でる。
「勿論だよ。ティアが嘘を言っていないのは分かるからね。それに、ティアが僕の出自は知らなかったのに、兄さんの事を知っていたのも納得した」
「・・・ありがとう、カイン」
「それは僕の台詞だよ。話すの怖かったでしょう。話してくれてありがとう」
カインに信じてもらえてよかった。嫌われなくてよかった。
この時の私はホッとするばかりで、カインがとても、とても、怒っていた事に気づいていなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ティアにプロポーズし、ティアの秘密を知った日の夜。
僕は自室のベッドに横になりながら今日の出来事を考える。
プロポーズした時のティアは本当に可愛かった。黒くてキラキラした目を大きく開いて、顔を真っ赤に染め上げて、数秒の沈黙の後小さく聞こえた「・・・はい」という可愛い返事。
僕もすごく緊張したし、ちょっと震えたけれど、勇気を出してよかったと思った。
アーサーや兄様も言っていたけれど、ティアは本当にそのままの僕を受け止めてくれる。
婚約記念のペンダントをティアの位置が分かるような魔術具にしたのは、御守りの意味と僕の独占欲を満たすためと二重の意味があったのだけれど、そのまま受け取ってくれて、ペンダントに込められた術式の効果を知った後も変わらずに身に付けてくれている。
身分が貴族でも、平民でも、僕がいいって言ってくれた。
こんな風に僕を優しく包み込んでくれるのなんてティアくらいで、僕は益々ティアに執着してしまうのだろう。
―――――本当に、僕がティアを嫌うなんてありえない。
知りたかったティアの秘密は衝撃的な物だった。
信じ難い話だったが、ティアは僕が理解出来るように分かりやすく言い変えている感じはあったが、嘘をついている感じはなかった。
ティアのいう物語は魔術学園に通い始めてから卒業する3年間が舞台らしい。
そこで、レオンハルト殿下、ニコラス殿下、兄様、レイビス様、アーサーの中の誰かと恋愛関係になるらしい。
僕の兄シヴァンと友人であるアーサーが入っていたのには驚いた。
一瞬、攻略対象を全員消せば問題ないんじゃないかと考えたが、さすがに二人に手をかけたくはない。
ティアの話してくれた物語は、まだ起こっていない事だし、そうならないかもしれないが、ただの物語だと切り捨てられない。
物語の通り、攻略対象という人物はティアに惹かれているのだ。
レオンハルト殿下はティアを見て妾にならないかと誘ったし、
アーサーは今は妹分として可愛がっているけど、それが恋に変わらないとは言えない。
兄様もティアを意識している。
この分だと他の攻略対象もティアに出会えば惹かれてしまうものなのかもしれない。
そして、僕が一番恐れている事が、魔術学園に入ったら物語通りにティアが攻略対象の誰かに惹かれてしまうかも知れないという事。
黒いモヤモヤした気持ちが胸の奥から湧き出てくる。
僕以外の男がティアと結婚するなんて許さない。
もしもティアが誰かに惹かれるのなら相手が誰であろうとそいつを排除する。
魔術学園を卒業して、ティアと結婚するのは僕だ。物語通りにいかせてたまるか。
絶対に捻じ曲げてやる。
ティアは僕のだ。誰にも渡さないよ。
これで、魔術学園入学前の話は終わりになります。閑話を2話程挟んだら、魔術学園に入学し、ゲームの時間軸の開始となります。




