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僕の弟:シヴァン視点

 僕の名前はシヴァン・ファロム

 ファロム侯爵家の長子で14歳。父は宰相を務めている。


 家族構成は父、母、弟。

 父様や母様は僕をとても可愛がって、愛情を注いでくれる。それは嬉しいのだが、逆に弟、カインは父様や母様からあまり愛情を注がれていない。


 僕が5歳の時だっただろうか、そんなカインが不憫で、僕が両親を独占しているようで罪悪感が生まれ、両親にカインにも同じように愛情を注いであげて欲しいと頼んだ事がある。


 両親には「あの子はファロム家の黄緑色の目を持っていないから、魔力も少ない。どうせろくに仕事も出来ない大人になるだろう。跡継ぎのシヴァンと差があるのは当然だ」と言われてしまった。

 その時は両親の言っている事がよく分からなかったが、黄緑色の目はファロム家に代々受け継がれているものらしく、僕の目は綺麗な黄緑色だ。しかし、カインは濃い緑色の目をしている。


 人の持つ魔力は目の色が薄いほど多いとされているらしい。もちろん、ただの古臭い迷信で根拠は無いのだ。ただ、そういう傾向があるというだけの話。


 そんな迷信を信じて兄弟を差別する両親には呆れたし、第一、魔力量は確かに大切だが、魔力量と仕事の能力は別だ。一緒くたに考えるものではない。

そんなくだらない理由で愛情を注がれないカインを哀れに思った。

 そこで閃いた。両親の代わりに兄である僕がカインに愛情を注ごうと。

 僕は暇があればカインを構い倒し、愛情を注いだ。

幸い、カインは僕によく懐いてくれた。



 いつの日からか、引きこもりがちだったカインがよく街に出るようになった。友達が出来たらしい。いつも一緒にいた兄としては少し寂しく思うが、これも弟の成長だと、温かく見守る事にした。


 でも1つ疑問に思った事がある。

 僕とカインは父様から同じ量の課題を与えられているはずだ。まさか放り出して遊びに行っているのかと思ったが、父様は全て終わらせてから行っていると言っていた。僕が課題を半分程終えた頃にカインは父様に課題を提出に行くのだ。

 僕は跡取りなのに、父様や母様から愛情を注がれているのに、カインの方が優秀だったのだ。その時初めてカインに敗北感を味わった。



 僕もカインに負けたくないと努力を重ね、カインと同じくらい自由時間を得る事が出来るようになってきた頃、カインに自分も一緒に街に連れて行って欲しいと頼んだ。

僕は両親があまり許可してくれないので、街に出た事はほとんど無かったのだ。

 カインは「怒られるよ?」と言いながらも了承してくれた。


 街に出ると、まず人の多さに驚いた。道をたくさんの人が行き来していて、ボーっとしているとぶつかってしまう。そして、いろいろな物を売っている出店からの活気のある声が上がっていて、何だか祭りのようで、とてもワクワクとした。


 そんなたくさんの人の中、珍しい黒髪黒目の兄妹が歩いているのを見かけた。

 珍しいなと思って見ていると、その妹の方と目が合った。

その少女は1度大きく目を見開くと―――――ドサッとその場に倒れた。


「なっ!!」


 倒れた少女に驚き、駆け寄ろうとしたが、隣のカインが「ティア」とだけ呟くと意識が抜けたように呆然と突っ立っていたので、倒れた少女と固まるカインをアワアワと見て、とりあえずカインの意識を戻す事を優先した。


「カイン、カイン!」


 何度か名前を呼び、グワングワンと肩を揺さぶって、やっと意識が戻ったようだ。


「・・・はっ、ティア!」


 カインは意識が戻るなり先程の少女がいた方向を向くが、少女はもう大人達に抱えられて家へと帰された後だった。


「に、兄様!ティアは?!さっきの女の子はどうなった?!」


 顔面蒼白のカインに今度は僕が肩をグワングワンと揺らされた。


「だ、大丈夫、偶然近所の人が近くに居たみたいで、家に運ばれていったぞ」

「そう・・・ちょっと様子を見に行ってもいい?」

「いいけど・・・あの子がカインの友達なのか?」


 うん、とカインが頷くと同時に僕らを呼ぶ声がした。


「シヴァン様、カイン様!」


 どうやら、街に出たことが両親に知られ、使用人達が僕らを探しに来たみたいだ。カインは帰るのを嫌がったけれど、護衛に抱えられて強制送還されていた。

 そんなに友達が心配だったんだな。カインは友達想いなんだな、とその時は思った。



 そんなカインがあのティアという少女と婚約をしたと聞いた時は驚いた。大切には想っていたのだろうが、そこまでとは。確かに可愛い子だったけれど。


 その婚約を知った父様の怒りようがすごかった。

 次男のカインは政略結婚の駒にしようと思っていたのだろう。その目論見が外れ、更に相手は何の利もない平民だ。カインの勝手な行動に怒り狂ったのだ。

 しかし、婚約証書にサインをしたのは父様自身で、しっかりと確認をしなかった父様が悪いと思う。婚約証書が提出されていれば、親でも勝手に破棄は出来ないのだ。

 カインに冷静に指摘され、父様は黙った。

 僕は父様に一泡吹かせたカインによくやったと褒めた。



 14歳になった僕は、来年魔術学園への入学を控えている。

 最近の両親は、僕への過度な愛情は変わらないが、僕の外出も護衛を付ける事で認めてくれていて、比較的自由に過ごさせてもらっている。

 最近は弟のカインの優秀さに拍車がかかっているので、そっちに期待がかかりつつあるのかもしれない。

 カインは父様の仕事を手伝いながら、最近王都でも流行り始めていた麻薬、杜鵑草の密売人を捕まえる証拠を上げたらしい。おかげで密売人達が一掃され、杜鵑草を国から追い出す事が出来そうだと父様は満足気に言っていた。

 そういえば、密売人を捕まえる過程でカインの婚約者のティアが巻き込まれたという。幸いティアは無事だったし、ティアの証言で事態が急速に終息したらしい。よかった。


 僕がティアに会ったのは、街で見かけた一度きりで、その後何度かティアに会ってみたいとカインに言っても首を横に振られ続けている。「まだ駄目だよ」と。

 優秀過ぎるカインが考えていることはよく分からないが、兄として弟の心の支えになっている婚約者殿には挨拶をしておきたいのだが。


 さて、どうするかな。


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