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杜鵑草事件4

前半ティア視点、後半カイン視点になります。

 やって来た自警団に事情を説明した。

 広場で怪しい女性を見かけて不審に思って後を付けた事、建物横で聞いた二人の話、話を聞いていたら中毒の男に襲われた事、助けてくれた男性と女性に杜鵑草を飲まされそうになった事。警報音で二人は慌てて逃げていった事。

それから一つだけ、嘘をついた。


 こんな風に自警団が話を聞いてくれる機会なんてもうないだろう。だから、少しでも早くフィズラン子爵夫妻に繋がるように。杜鵑草がこの国から無くなるように。

 密売人の二人は書類などは全て持って行ったのでここからフィズラン子爵に繋がる証拠は出ないだろう。だから、私が証言する。


「女性は、指輪をしていました。狐の紋章がついた指輪を」

「紋章付きの指輪?!それは確かか?」

「はい。この目でハッキリと」


 紋章付きの指輪は貴族の象徴。その家々の家紋が指輪に刻まれているもので、フィズラン子爵家は狐の紋章を使っている。もちろん、ゲームの知識だ。平民の私が子爵家の紋章を把握しているはずがない。


 そして、当然、フィズラン子爵夫人は指輪などしていなかった。彼女はゲームでもかなり用心深い性格だった。街にお忍びで行くのに指輪をつけて行くはずがない。


 自警団は私の証言で貴族が関わっている事を察したようだ。上官っぽい人が指示を出し始め、私は帰っても良いと言われた。




 翌日。カインがやってきて、麻薬密売の罪でフィズラン子爵夫妻を始めとした密売人達が捕まったと知らせてくれた。

 私の証言がきっかけとなり、フィズラン子爵夫妻を調べた所、麻薬密売に関する証拠が出てきたそうだ。王宮にも入り込もうとしていた事もあり、本腰を入れて杜鵑草除去に取り組むそうだ。


「よかった」


 これで杜鵑草事件は解決しそうだと胸をなで下ろすと、カインにポンと肩を叩かれる。


「密売人達は無事に捕まったし、次は無茶をしたティアのお説教だね」

「・・・ほぇ?」


 ニッコリと顔は笑顔なのに目が笑っていない。黒いオーラが出ているカインに私はしこたま怒られるはめになった。




「ねぇ、ティアは何を知っているの?」

「え?」


 小一時間程お説教された後、紅茶を入れてテーブルに置くと、そう切り出された。


「指輪の話、あれ、嘘だよね?」

「――――っ!!」


 ガチャンとティーカップが音を立てる。


「な、何の事かな?」

「ティアが嘘をつく時の癖は知ってるよ。何年一緒にいると思ってるの?」


 一応、誤魔化そうとしてみたが通じないようだ。


 私に嘘をつく時の癖なんてあったんだ・・・カインは騙せそうに無いな。でも困ったな、本当の事も言えない。


 実は前世の記憶があって、ここが前世でやった乙女ゲームの世界で、私はそのヒロインで、これから王子を初め高貴な方々と恋愛をして結婚する未来を避ける為に動いているとか、今回の事はそのゲームのシナリオにあったから知ってたとか、言える訳が無い。

杜鵑草を使ってるんじゃないかと疑われるレベルで妄想が酷い。


「・・・」


 何も返さない私にカインは困ったように眉尻を下げる。


「ティアが言いたく無いのなら言わなくてもいいよ。ただ・・・」

「ただ?」


 カインはポンと私の頭に手を乗せ、ゆっくりと撫でる。


「何か行動する時は一人で動かないで。僕か誰かを巻き込んで欲しい。今回みたいにティアが危険に陥るのは嫌なんだ」

「・・・理由を説明出来ないかもしれないよ?」


 今回、フィズラン子爵夫人を追いかけたのだって、カインがいなかったからだ。カインがいたら追いかける理由を説明出来ないから追いかけたりはしなかったと思う。


「いいよ、さっきも言ったけど、僕はティアの嘘がわかる。ティアが何かしらの理由があって行動するなら、僕も協力する。今回だって、ティアは何かあってフィズラン子爵夫人が杜鵑草密売人だと知っていて行動したんでしょ。でもそれをそのまま自警団に伝える訳にはいかなかったから、フィズラン子爵に繋がるように指輪の事をでっち上げた」


「そこまでわかるんだ。すごいね」


 カインの推理が完璧すぎる。拍手を送りたい程だ。


 私が褒めるとカインはムッと眉を寄せる。


「すごくないよ。僕はティアがどうして子爵夫人の事を知っていたのか、他に何を知っているのか想像すらつかないもん」


 悔しい、と顔を背けるカインの頭を今度は私が撫でる。


「ありがとう、カイン。今度私が行動を起こす時は協力してね?・・・私が知っている事も、いつか、私の決心がついたら話すよ」


 聞いてくれる?とカインの顔を覗き込む。


「もちろん、協力するし、聞くからね」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 その日の夜、ファロム侯爵邸にアーサーが訪ねて来た。


「よう!カイン!フィズラン子爵夫妻捕まったな」

「もう少し静かに入って来てくれない?」

「気にすんなよ!それで?例の件はどうなった?」


 僕の恨み言はサクッと流された。


「・・・彼は、手を出さなかったみたいだ。プライドが高いからね。そんな物は必要ないと跳ね除けたらしいよ」


 彼、とはもちろん第一王子レオンハルト殿下である。杜鵑草はレオンハルト殿下の元まで届いたが、あの王子は「そんなものは必要ない」と跳ね除け、王宮の密売人関係を一掃したそうだ。意外としっかりしているものだと驚かされた。少しプランを考え直す必要がある。


「そうか、じゃ次の手考えるか!」


 アーサーはどこまでも明るく前向きだ。・・・やってる事は明るくも前向きでも無いが。


「アーサー、今回の事件以前でフィズラン子爵夫妻にティアが関わる事なんてなかったよね?」

「ん?そうだな。もし関わっていたら速攻で子爵を潰してたぞ?」

「だよねぇ」


 アーサーの情報に間違いは無いはずなのだ。

 アーサーもティアを妹分のように大切に思っているので、不穏分子を見過ごすはずがない。

 ますますティアがフィズラン子爵の犯行を知っていた理由がわからない。


 僕はティアの全部をひっくるめて守りたいのに、ティアの知っている事がわからないとティアがどう動くのか予想が出来ない。その予想外の部分で危険な目に合ったりしないで欲しい。とりあえず、一人で動かないよう約束はしてもらったけれど・・・


「アーサー、ティアが何かをしようとしていたら、理由がわからなくても、ティアが危険な目に合わないように協力してあげて?」

「ああ、もちろんだ。ティアは可愛い妹分だからな!」


 ニッと笑うアーサーだが、僕はため息をつく。


「・・・ティアに隠し事されるってキツいなぁ」

「お?なんだよ、何かあったのか?」


 何故か楽しそうにアーサーが問いかけてくるので、ちょっとイラッとした。


「秘密だよ」

「なんだよ。・・・まぁ、でもカインもティアに隠してる事あるしな。身分の事とか」

「うぐ」

「正直、俺は言っちゃってもいいんじゃないかと思うぞ?」

「・・・何で?」


 アーサーには僕が身分を隠す理由も説明していると思うのだが。何故そんな事を言うのか。


「ティアってかなり懐が広いからな。案外サクッと受け入れてくれるんじゃないか?」

「何を根拠に」

「いや、根拠は無いけど。ティアもカインの事好きすぎるからな。好きな奴の事なら受け入れられるんじゃ・・・ってどうした?顔真っ赤だぞ?」


 風邪か?と斜め上の心配をするアーサーだが、僕はそれにツッコミを入れる余裕はない。


「・・・ティアって、僕の事好き、な風に、見えるの?」

「は?そりゃ、大好きって感じが全面に出てるだろ?」


 何言ってんだ?と言われるが僕はまた顔が赤くなる。

・・・そうか、他から見てもそう見えるんだ。

 広場での事を思い出し、ニヤけそうになる顔を必死に制する。そんな僕を見て、アーサーがジト目で問いかけてきた。


「・・・もしかして、今まで気付いてなかったのか?」

「うるさい。今日知ったんだよ」

「・・・ぷっ」


 あっはははははっ


 耐えきれないと、アーサーは爆笑し始めた。


「ははっ!嘘だろ?お前、すげー頭良いのに、あははっ、馬鹿だなぁっ」

「うるさい」


 アーサーのおかげで顔の熱は引いたが、笑い過ぎだ。

 ムッとして言い返せば、ようやく笑いが止まったアーサーが涙目で言う。


「じゃ、まずはティアにカインの隠し事を明かしてみろよ。そしたらティアもカインに話してくれるかもよ」

「・・・考えておくよ」

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