シンデレラ学園
さて、お見舞いに来てくれたカインも帰って、改めて鏡を見てみる。
鏡に映る女の子は、黒髪黒目は馴染みある色味だが、顔立ちは整っていてクリっとした大きな目に高くはないけどスっとした鼻筋にぷっくりとした唇、自分で言うのもおかしいが、かなり可愛い方だと思う。さすがはゲームのヒロインだ。
可愛い顔に転生して喜ぶべきところだが、これからの展開を考えると素直に喜ぶ事は出来ない。
少しゲームについて思い出した事をノートにまとめてみようと思う。ガサゴソとベッド横の引き出しを探りノートとペンを取り出す。
ゲームのタイトルは『シンデレラ学園』女性向け恋愛シミュレーションゲームだ。ヒロインがシンデレラのように身分の差を乗り越えて愛し合うからという理由のタイトルらしい。
舞台はサクレスタ王国
この世界は剣と魔術のファンタジーな世界だ。
この世界には魔力というものが存在して、15歳になると一定以上の魔力を持つ者は必ず魔術学園に通わなくてはならない。
しかし、ほとんどの平民は魔力が少なく基準に満たないので、生徒は貴族が大多数になる。
そんな貴族ばかりの中に放り込まれるのが、ヒロインである平民のティア。学生として日々過ごすうちに様々なイベントが起こり、高貴な方達と愛を育んでいく。
期間は魔術学園に通う3年間。
卒業時に誰の好感度が高いかによってエンディングが変わってくる。
攻略対象は5人。
サクレスタ王国第一王子 レオンハルト・サクレスタ
ヒロインと同い歳で俺様ナルシスト。ハッピーエンドでもれなく王妃になってしまう。
サクレスタ王国第二王子 ニコラス・サクレスタ
ヒロインの1つ歳下で、気弱で小動物系。
このルートでは兄のレオンハルトが暗殺され、二人でレオンハルトの死を乗り越えてニコラスが王位につくので、もれなく王妃になってしまう。
侯爵令息 シヴァン・ファロム
ヒロインの1つ歳上。父親は宰相。常に笑顔で皆に優しく非常にモテる。ハッピーエンドでもれなく次期宰相の妻になってしまう
伯爵令息 アーサー・ラドンセン
ヒロインと同い歳。父親は騎士団長。野性味のある脳筋系イケメン。ハッピーエンドでもれなく次期騎士団長の妻になってしまう。
公爵令息 レイビス・ロサルタン
ヒロインと同い歳。インテリ系イケメン。ハッピーエンドでもれなく公爵夫人になってしまう。
・・・おぅ。どのエンディングも平民の小娘がなっていいものじゃないよ・・・胃が痛いよ。
ちなみに、誰とも結ばれないノーマルエンドやバッドエンド、隠しキャラもあるらしいが、私はプレイしていなかったので、詳しくは分からない。
それから、このゲームの厄介な所は、度々起きるイベントにかなり危険な物が含まれる事だ。ただ単に学園内で恋愛をするだけではなく、麻薬密売人を捕まえたり、魔獣に襲われたり、ヒロインが誘拐されたりするイベントもある。もちろん、攻略対象達が助けてくれるのだけれど、私はそんな波乱万丈な学園生活は勘弁して欲しい。
・・・カインが婚約を了承してくれて本当によかった!
コンコン
思い付くかぎりノートに書き連ねていると不意にノックの音がしたので慌ててノートを引き出しにしまう。
「はーい」
「ティア、ちょっといいか?」
ひょこっとドアから顔を覗かせたのは父だった。
私の家は富豪向けの喫茶店を経営している。父と母はほとんど一日中その喫茶店で働いているので、この時間はまだ仕事中のはずだが、どうしたのだろうか。
「さっきカインくんから聞いたんだが・・・カインくんと婚約するんだって?」
あれ?カインは挨拶するって言っていたけれど、もう話してくれたんだ。父や母にどうやって話そうか考えてたからありがたい。
「そうだよ。私とカインは気心知れてるし、平民同士だし、ちょうどいいなって」
「ちょうどいいってお前・・・結婚だぞ?ティアはカインくん自身の事をどう思っているんだ?」
「うーん、カインは私にとって大切な友達だよ」
「結婚するって事は友達じゃなくて夫婦になるんだぞ?」
「わかってるよ?」
「カインくんの家と家同士の付き合いもあるんだぞ?」
「そうだね」
「・・・」
「・・・」
なんだか父からどんどん覇気が無くなっていく気がする。
・・・気がするだけじゃない、ガックリと膝をついてしまった。
なんで?
正直、カインは私の中で一番ベストな選択だと思っている。
同じ平民で、同じく魔力が多いから魔術学園への入学が決まっている。
カインの家や家族はよく知らないけれど、カインは見た目も言動もふわふわしていて可愛くて癒されるし、エメラルド色の目は綺麗だし、前髪が長いせいで野暮ったく見えがちだけど、優しくて、頭もよくて、いざという時とても頼りになるのだ。
恋愛感情があるかと言われれば無いと思うんだけど、そもそもこの世界はほとんど親の紹介で結婚するんだし、目指せ平凡ライフ!の私にはこれ以上ない相手だと思う。
「父さん、何か心配な事でもあるの?」
「ティア、カインくんは――――・・・いや・・・うん。ティアがそう決めたなら・・・いいんだ」
ゆらり、と体を起こした父はなんだか遠い目をしていて、ガックリと項垂れながら「父さんは仕事に戻るから、ちゃんと体を休めているんだぞ・・・」と言って出ていった。
・・・何だったんだろう?
でも一応、カインとの婚約を認めてくれたって事でいいんだよね?やったぁ!
その後、もしかして父はカインと関わる時間が少なかったからカインの魅力を理解していないのでは?と思い至り、食卓で懸命にカインのいい所を説明したが「もう、いいんだ・・・」と遠い目をしたままだった。




