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杜鵑草事件2:カイン視点

「ティアは本当に、ニックが好きだねぇ」


 ティアとニックは本当に仲の良い兄妹だ。うちも兄弟仲は良いけれど、ティアとニックには敵わないだろう。

ティアがあまりにもニックを褒めるので少し妬いてしまうが、続くティアの言葉に少しの嫉妬など吹っ飛んでしまう。


「そりゃあ、まぁ、大好きなお兄ちゃんだよ?カインへの好きは特別な好きだからまた違う、けど、ね・・・」


「・・・」

「・・・」


 ・・・ぅえ?!


 ボンッと赤くなった顔を隠すように両手で覆う。


 ・・・え?好き?特別?ティアが、僕の事を??

 正直僕は、ティアの僕への気持ちは友達の延長だと思っていた。仲の良い友達で、条件に当てはまったから婚約者になった、親友ポジションぐらいだと思っていた。

でも「特別な好き」って、つまり、そういう事?

ティアは僕の事、異性として好きでいてくれてるの?僕、自惚れちゃうよ?


 悶々と考え込んでいると身体中の熱が顔に集まってくるようで、全く引く気配が無い。

ふいにティアの心配そうな「・・・カイン?」と僕を呼ぶ声が聞こえるとビクッと反応してしまった。


 どどど、どうしよう。何か答えないと、ティアを心配させる。


 ・・・僕も好きだよ、とか?


 いや、無理っ!ティアの事は大好きだけど、本人を前にすると恥ずかしくて頭がわーっとなる。無理だ。何か、何か・・・!


「ぼ、僕、ちょっと御手洗行ってくるから!」


 そう言い放って、僕は駆け出した。



「・・・ふぅ」


 ティアから離れて少し頭が冷えてきた。

 とりあえず、自分がとんでもないチキン野郎だという事が分かった。

 好きな子から好きって言われたのに、返事もせずに逃げだすって何だ。自分の行動が恥ずかしいよ。穴があったら入りたい。

せっかく好きって言ってくれたティアに呆れられてないといいけど。


 好きって・・・


 ぼふっ


 うわぁぁ!ダメだ、エンドレスだ!思い出すとまた熱が集まってくる。

くっ!ここにアーサーやテオ、アリアが居れば呆れたジト目で見てくるから少し冷静になれるのに!


 せめて、とパタパタと手で顔を扇いで熱を冷ましていると、護衛のフェルナンがやって来て跪く。


「カイン様」

「どうした?」


 僕の専属護衛であるフェルナンは、今回も気配を消して密かに護衛してくれていたのだが、何かあったのだろうか。


「ティアさんがいなくなりました。広場で見かけた女性の後を追って行ったようですが」

「は?その女性は誰か分かる?」


 急にどうしたのだろう?ティアの知り合いだったのかなとフェルナンに聞くと、フェルナンは険しい顔で報告する。


「遠目だったので、恐らくとしか言えませんが・・・フィズラン子爵夫人かと」

「何故止めなかったんだ!」


 思いがけない人物に声を荒らげてしまうが、フェルナンは冷静に答える。


「申し訳ございません。カイン様の護衛が私の役目ですので、離れていたティアさんを止める事が出来ませんでした」


 頭を下げるフェルナンに苛立ちを覚えるが、たしかに彼の役目はファロム侯爵家次男の護衛で平民のティアの護衛じゃない。僕とティアが離れていた時、優先すべきは僕の方だろう。

咎められるとしたらティアの元を離れてしまった僕の方だ。


「とにかく、ティアの無事が第一だ。探すよ」

「かしこまりました」


 フィズラン子爵夫妻は最近流行している杜鵑草という麻薬の密売人だ。彼らは次の国王有力候補であるレオンハルト殿下に杜鵑草に手を出させ、傀儡にし、裏から国を操ろうとしていた。用心深い性格らしく中々尻尾を出さず、証拠をあげるのに苦労した。

 レオンハルト殿下が杜鵑草に手を出した時点で証拠を突き付け、麻薬に手を出した王子だと汚点を付けようとタイミングを見ていた所だ。


 現時点でフィズラン子爵夫人は杜鵑草密売で勢いに乗っており、王子を傀儡にしようとする危険人物。ティアは何故、そんな危ない女性を追って行ってしまったのか。


 僕は服の下のペンダントを取り出し、魔力を込める。

 このペンダントは実はティアに婚約記念に贈ったペンダントと対になっていて、魔術の術式が入っている。

魔力を込めるともうひとつのペンダント、つまり、ティアの居場所が分かるようになっているのだ。


「・・・こっちだ。行くよ」


 ペンダントの指し示す方向へフェルナンと共に走り出す。


 ティア、お願いだから無事でいて・・・!

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