恋バナ
ピクニックの数日後、アリアに「たまには女の子同士でお茶会をしませんか」と誘われ、アリアの家に来ている。
アリアの家はフラゾール裁縫店の3階にあり、アリアの部屋は装飾も美しい布がタペストリーとして飾られていたり、色とりどりで素敵な部屋だ。
「どうぞ、今日はロイヤルミルクティーを入れてみましたの」
コトン、と置かれたティーカップからは芳しい紅茶とミルクの匂いが漂ってくる。
「わぁ、美味しそう!いただきます」
ふぅ、甘くて美味しい。ほっとする味だ。
紅茶を飲みつつ幸せな気分に浸っているとアリアは
「ティアちゃんが元気を取り戻したみたいでよかったですわ」
とホッとしたように笑った。
ピクニックの一件で心配を掛けてしまったのだろう。
「うん。もう大丈夫!心配してくれて、ありがとう」
なるべく元気に見えるようにパタパタと手を振る。
「えぇ、ティアちゃんは笑顔が1番似合いますからね・・・ところで、今日お誘いしたのは、ティアちゃんとお話したい事があるからなのです」
アリアはスっと真剣な表情になった。
「話したい事?」
何だろう?アリアが少し緊張しているようで、なんだか私まで緊張してくる。
「わたくし、ティアちゃんと・・・」
「私と・・・?」
アリアが胸の前で手を合わせてお願いのポーズをとる。
「恋バナがしたいのですっ!」
ガクッ
恋バナか!何かもっと大きな話かと思ったよ!無駄に緊張しちゃったよ!
・・・ん?恋バナがしたいと言うことは・・・
「アリアちゃん!好きな人でも出来たの?!」
初耳!!誰?テオ?それとも最近だったらアーサーとか?アーサーだったらちょっと身分が大変かもだけど、アリアちゃんなら立ち居振る舞いも問題ないだろうし、私応援するよ!全力で!
私がキラキラと目を輝かせながら問いかけるとアリアは少し困ったように言った。
「いいえ、わたくしに好きな人がいないので、婚約者がいるティアちゃんに色々話を聞きたいと思いまして・・・」
「なんだ、そっかぁ。残念」
ちぇ、アリアちゃんの恋バナが聞けると思ったのにな。
でも、私の話か・・・
「私はカインを恋愛感情で選んだ訳じゃないからなぁ・・・私も話せる事あんまり無いかも?」
「まぁ、そうですの?」
アリアが少し目を見開く。
「うん。私はどうしても避けたい事があって、その為に誰かと婚約したくて、それでカインを選んだの」
うん。こうして言葉にすると我ながら最低だね。自分の乙女ゲームのシナリオ回避の為にカインを利用している。絶対にカインを幸せにするって決めているけれど、カインは本当にこんな私でいいのだろうか。
「では、どうしてカインくんだったんですの?ティアちゃんの周りには、他にも候補はいたのでは?」
「え?それは・・・カインは私と同じで平民で魔術学園に行くし、見た目も性格も可愛いし、癒されるし、優しいし、私と違って頭もいいし、頼りになるし、カインと一緒にいると落ち着くし、ずっと一緒にいれたら幸せだと思うし」
あれ?なんかアリアの視線がどんどん生温くなっている。
何その顔、何を伝えたいの??
「つまり、ティアちゃんは、『カインくんだから』婚約者に選んだのではなくて?」
「?」
どういう事?
よく分かっていない私に、アリアは「では・・・」と続ける。
「もしカインくんがいなかったら、ティアちゃんは誰を選びましたか?」
カインがいなかったら?
テオ?は魔力が少ないし、アーサーは攻略対象の貴族だし・・・
・・・ううん。たぶん、テオに魔力があっても、アーサーが平民でも、私は選ばなかった。
「誰も、選ばなかったと思う。どうしても避けたいことは何か別の方法を考えたんじゃないかな」
カインだから、私は婚約者に選んだ?
それって・・・
「それは、恋愛感情ではないのでしょうか?」
・・・。
「・・・ぅひゃああああ!」
恥ずかしい!今気付いた!気付かされた!精神年齢大人が11歳の女の子に!
テーブルに突っ伏して頭を抱える。
最近カインといると胸がキュンとする事があるなと思ってたけど、恋愛のトキメキだった!小動物とか可愛い物見た時のキュンだと思ってたよ!
私はいつからこんなに鈍感になったのだろう。ヒロイン仕様のせいかな。ヒロイン仕様だよ、きっと。
うぅぅぅと呻く私をよそにアリアは「わたくしも『恋』してみたいですわぁ」とか言ってお茶を啜った。
というか、もしかしてカインは私の事を恋愛対象として好きでいてくれてたりするのかな?
大切にされているとは思っていたけれど、普通に考えると婚約を了承してくれているんだからそうだよね?
うわぁぁぁ・・・
自分の気持ちに気づいた瞬間、両思いの婚約者ってすごいな。
カインの事を考えるとドキドキがおさまらないよ・・・。
数分後、私が回復してきた頃合いでアリアに「そう言えば、ピクニックの時カインくんと抱き合っておりましたね」と言われ、あんな事があったとはいえ、公衆の面前でカインと抱き合っていた事を思い出し、私はまた顔を赤くしてテーブルに突っ伏した。
アリアはとても楽しそうに笑っていた。




