プロローグ:カイン視点
僕の名前はカイン・ファロム、8歳。
僕の家、ファロム家は代々明るい黄緑色の目を持っている。父や兄はそれは美しい黄緑色の目だ。
しかし、僕の目は暗い緑色で、両親からは目の色も性格も陰気で暗いと言われ、目の色も性格も明るい兄といつも比べられている。人に目の色を見られたくなくて、普段は前髪で目を隠してあまり見えないようにしているのが暗く見えるのに拍車をかけているのかもしれないが。
まあ、おかげで僕は兄に比べて両親から放置されがちで、課題さえ終われば自由に過ごせるという点では感謝している。
今日も護衛を1人だけ連れて街へと出かける。今日は先日街中で倒れた友達、ティアのお見舞いだ。
ティアはこの国では珍しい黒髪黒目で、整った顔立ちをしている、コロコロと表情が変わる可愛い女の子だ。
ティアの目は不思議だ。僕の緑色よりもずっと暗い色のはずなのに、いつもキラキラと輝いて見えるんだ。僕の目を初めて見た時も「綺麗ね。エメラルドみたい」と言ってキラキラした目をしていて、誰かにそんな風に言われたのは初めてで、嬉しくて、それからティアは僕の特別な女の子になった。
そんなティアが数日前に街で倒れたのだ。
実は僕も、両親の監視が厳しい兄と一緒にこっそりと街に出ていて、偶然現場に居合わせた。ティアの兄が必死に呼びかけても全く反応しないティアを見て血の気が引いた。
幸い、ティアの家のご近所さんが近くにいたらしく、ティアを家まで運んでくれて、無事に目を覚ましたらしい。僕は兄に名前を呼ばれて揺さぶられるまで呆然としたままだった。
本当はそのままティアの無事を確認しに行きたかったのだけど、兄を探しに来た家の者に一緒に連れ帰られてしまった。その後、無断で兄を連れ出した事で外出禁止令が出され、数日経って、やっとお見舞いに来れたのだ。
コンコンとドアノッカーを叩く。
「こんにちは」
ドアを開けて出迎えてくれたのはティアの兄のニックだ。
「お、カイン、いらっしゃい。ティアの見舞いか?」
「うん。ティアの具合はどう?」
僕は護衛を玄関外に置いて家の中に入る。
「うーん、熱は下がったんだけどな・・・」
ニックが言うには、ティアは倒れてから言動がおかしくなったそうだ。いきなり勉強を始めたり、ブツブツと妙な言葉を呟きながら考え事をしたり。
でも、元々ティアは普通の子よりちょっと変わった子だったし、そんなに大した事ないんじゃない?と思ったがそれは口には出さなかった。
「それは心配だね。僕も注意して見てみるよ」
「おう。ティアもお前にならいろいろ話すかもしれないし、よろしくな!」
ニックはそう言ってティアと同じ黒目を細めて笑った。
コンコンとティアの部屋のドアをノックする。
「はーい」
「ティア?カインだけど、入ってもいいかな?」
「あ、カイン!どうぞー」
具合はだいぶん良くなっているのかな。声は元気そうだ。部屋に入ると、ベッドの上でティアがニコニコと座っていた。
「ティア、具合はどう?街で倒れたみたいだけど?」
「最初は熱が出たんだけど、もうすっかり元気だよ!病み上がりに色々調べ物をしてたら家族に『ティアが自ら勉強するなんて、頭がおかしくなった!』ってベッドに放り込まれただけだよ。酷くない?」
そう言ってティアがぷくっと頬を膨らます。
不満を表すその仕草も可愛い。
「私だって勉強ぐらいするもん。あ、カイン待ってて、お茶を入れてくるね」
「いや、」
お気遣いなく―――――と言う間もなくティアは部屋を出てキッチンへ駆けて行った。
僕は部屋の主がいなくなった部屋でクスリと笑みを零す。
あの調子なら身体の具合は大丈夫そうだ。
ティアが戻って来てから、紅茶を飲みながら少し話す。ちなみに、一応お見舞いに来たのだから病人らしくして欲しい、とティアはベッドに入れた。
ティアは、倒れてから両親が過保護になったとか、ニックがキャンディを買ってきてくれたとか他愛もない話をしていたが、ふと何かを考えるように黙ってしまった。
ニックが言っていたのはこれかな?
確かにティアにしては珍しいな。と考えながら紅茶を口にすると、『いい事思いついた』みたいな顔をしたティアからとんでもない発言が飛び出して来た。
「という訳で、私と結婚してください!」
「ふぐッ!!」
いきなりの爆弾発言に飲みかけの紅茶を吹き出さなかっただけ誰か僕を褒めて欲しい。
ゲホッゴホッとむせつつも頭の中では先程のティアの発言について考える。
何が「という訳」なのかはサッパリ分からないがきっとティアの頭の中では繋がっているのだろう。
それにしても、ティアは今『結婚』と言ったのか?『決闘』とかじゃなくて?いや、友達の僕にいきなり決闘を挑むのも意味わかんないけど。
「えっと、結婚?ティアと僕が?」
「うん。結婚、と言うか婚約をして欲しいの」
なるほど。よくわからないがティアは『婚約者』というものが欲しいのかな。
ティアの考えは謎だが今はそれを気にしている場合ではない。こんな千載一遇のチャンスを逃すものか。
「うん。いいよ!」
「私とカインも魔術学園の入学が決まってるし、お互い貴族に変に目を付けられないようにーって・・・いいの?」
ティアはキョトンとした目で見つめてくるが僕がティアの求婚を断るはずがないのだ。僕は、初めて会った時からティアの事が好きなんだから。もちろん、友達としてじゃなくて。
「もちろんだよ。ティアのご両親にも挨拶をしておくから、成人したら結婚しようね?」
「え、うん。・・・あっ、カインのご両親にも挨拶に行くね!」
「僕の両親には僕から言っておくから、挨拶は結婚直前でいいよー」
正直、僕の両親にはティアを会わせたくはない。ティアに会わせずに婚約を認めてもらえるようにしなければ。
ニコッと笑顔で誤魔化せばティアもその事には触れずに笑顔を返してくれる。
「じゃあ、これから婚約者としてよろしくね!カイン!」
「こちらこそ。僕の婚約者のティア」
ティアの差し出した手を握り返し、僕とティアの契約が成立した。
絶対に逃がさないからね、ティア。