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結婚式3

レイビス視点→ミーナ視点になります。

 

 右を見て、左を見て。もう一度右を見る。


「・・・よし」


「あれ、レイビス?どうした?そんな所で」


 ビクッ!


「で、殿下。・・・私の名前をそんな大きな声で言わないでください」

「えっ、すみません。・・・じゃなかった、すまない」


 声をかけてきたニコラス殿下は、最近は臣下に敬語を使われる事は減ったが、やはりとっさに出る言葉は敬語だ。敬語を使うとカインに怒られるらしく、言い直した。


「あ、いや、申し訳ありません、殿下。今はカインとティアさんにいつ挨拶に行こうかタイミングをみていた所でして・・・」

「そんな陰から?」

「うっ・・・」


 確かに私は陰から様子を窺っており、怪しかったかもしれないが、これには深い事情がある。


「あの、シャルロッテ王女に見つからないうちにと・・・」

「・・・ああ」


 しぶしぶシャルロッテ王女の名前を出すと、殿下は納得の顔をされた。


 卒業式が終わってからというもの、私はシャルロッテ王女から口説かれている。・・・というか、ティアさんに会いに来たいからその足掛かりとして私の正妻の座を狙われている。


 ネルラント王国と我がロサルタン領が縁を結ぶ事自体は悪い話ではないが、彼女はこの間までニコラス殿下の婚約者候補でもあったし、ティアさんに嫌がらせを行っていた事もあった。正直、私はどうも彼女が苦手だ。


「レイビスは随分と気に入られたようだ――――」

「そんな事ありません」


 殿下が楽しそうに言うのでちょっとかぶせ気味に返事をしてしまった。


「彼女はティアさんの事が好きなだけで、私の事は何とも思っておりませんよ」

「口説かれているんじゃ?」


 シャルロッテ王女はいつ聞きつけたのか、私がティアさんに会う用事があるとどこからともなく現れて一緒に行く事が多い。道中も彼女はティアさんの話しかしないのだ。


「いいえ。シャルロッテ王女はティアさんの話しかしませんし、在学中にカインや殿下にやっていたような媚び売りもまったくありません」


 なんというか、そう――――雑なのだ。

 ティアさんのついでに私を口説いている感じが酷いのだ。


「・・・つまり、レイビスは、シャルロッテ王女にちゃんと口説いて欲しいし、自分の事もちゃんと見て欲しいと?」

「違います!」


 どうしてそのような解釈になったのですか、殿下!

 私は、彼女に自分を見て欲しいとか、甘えたりしてきて欲しいとか、でも以前の男に媚びる彼女より今のサッパリとした彼女の方が好ましいとか、そんな事は考えておりません!


「・・・殿下こそ、ルピア様とはどうなのですか?」


 自分の話題はダメだと、殿下の話題に変える。

 シャルロッテ王女が婚約者候補から外されたので、殿下の婚約者候補はルピア様だけになったはずだが。


「僕は今度正式にルピアに婚約者になってもらう予定だよ。お妃教育も受けてもらわないといけないしね」

「そうですか。・・・支えてあげてください」


 私は幼い頃から第一王子の婚約者としてお妃教育を受けてきた妹、リリアーナを思い出す。


 リリアーナは婚約者との仲は良好ではなかったし、厳しいお妃教育にめげそうになっていた時期もあった。それでもリリアーナはやり抜いていた。


 婚約者が支えてくれるのとくれないのでは、心構えも大きく変わるだろう。


「ああ。・・・でも、今のルピアの心の支えもティアなんだよね・・・」

「・・・ああ。そんな感じですね」


 前にルピア様にお会いした時は、『ティア様は教室内ではどんな感じですか?』とか『レイビス様はティア様と旅行に行かれた事もあるのだとか、その時の事を詳しく聞かせてくださいませ』とか『シャルロッテ王女ばかりティア様とベタベタしてずるいですわ!』とか言っておられた。


「ちなみに僕は今日、ティアの写真をたくさん撮ってくるという使命を仰せつかったよ」


 チャ、とデジカメを取り出す殿下。殿下が既に尻に敷かれている。


 今日はセディル公爵領にて外せない催しがあるらしく、ルピア様や兄のキリア様は結婚式に来られないのだとか。

 お二人共が大いに気落ちしておられ、ティアさんに頼んで市場に出回る前にデジカメを手に入れ、写真を撮ってくるからそれで我慢して欲しいと宥めたらしい。


「・・・大変ですね」

「お互いにね」


 はぁ、とため息をついた私と殿下は、なんとなく握手を交わした。



 ・・・あっ、しまった。いつの間にかシャルロッテ王女がティアさんに抱きついて迷惑をかけている。


「殿下すみません。ちょっと引き剥がしてきますので!」


 まったく、彼女は。ティアさんの事が好きなのはわかるが、ずっと抱きつかれるのは迷惑だろう。主役の二人には他にも挨拶をしたい人がたくさんいるんだ。


 私は早足でティアさんに抱きつくシャルロッテ王女の元へ行ったので、その後の殿下の呟きは聞こえていなかった。


「・・・王女に見つかりたくないんじゃなかったのかな。あれだけよく世話をやいているんじゃ、そのうち絆されそうだなぁ」









 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆









「ティアとカイン様、とっても素敵でしたね・・・」

「そうですね」


 ガタガタと揺れる馬車の中、幸せそうに笑う二人を思い出してほうっと息を吐きます。


 結婚式が終わり、わたくしはストデルム商会の馬車で邸まで送って頂いているところです。

 本当はアリアさんも同じ馬車で帰る予定だったのですが、何故かアーサー様に捕まっておりましたので、今はわたくしとテオさんだけが乗っております。


 今日の美しく着飾ったティアを愛おしそうに見つめるカイン様の眼差しは、わたくしが最初にカイン様に抱いていた恐ろしいイメージとはまるで違います。

 ティアもカイン様もお互い想いあって、愛し合っていて、他の人が入る隙なんてなくて。


 お二人が物語のように素敵な恋をしているので、わたくしはつい、ペンを手に取ってしまいました。


 今、わたくしは恋物語を執筆しています。ティアをモデルにした様々な形態の恋物語なのです。

 実は、魔術学園のわたくしのクラスで流行り始め、今は貴族のご婦人方にも受け入れられています。早く続きを、というお声を多く頂いておりますが、これはわたくしの趣味で書いているものですので、今は先にお仕事を頑張る予定です。


 教師資格を取ったわたくしは、まずは実習生として教師の方に付いて補助を行っています。まだまだ学ぶべき事がたくさんあり、勉強漬けの毎日です。

 でも、末端男爵三女であるわたくしはその内貴族ではいられなくなりますので、教師として一人で生きていく為にも頑張らなければ!


「あの、ミーナ様」

「テオさん、どうされましたか?」


 わたくしが一人気合いを入れていると、前方に座るテオさんが声をかけてきました。


 思いを告げる前に一方的にテオさんに振られたわたくしですが、今は友人くらいには仲良くして頂いております。


「あの、ミーナ様にこれを・・・」


 そう言ってテオさんは綺麗な箱を取り出してわたくしに差し出します。


「・・・? 開けてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」


 少し視線を彷徨わせたテオさんに了承の返事をもらい、箱を開きます。


「これは・・・」


 箱の中には、淡い赤色の生地に白い花の刺繍が施してある――――ファロム領でテオさんがわたくしに似合うだろうと勧めてくれた生地が入っておりました。


「やはり、ミーナ様に贈りたいと思って・・・出来ればドレスの形で贈りたいのですが・・・受け取って頂けますか?」

「え・・・」


 男性が女性にドレスを贈るのには別の意味も付随されます。もちろん、恋人や婚約者でしたら何の問題もありませんし、最近では告白の意味で使われる事もあります。


 ・・・これは、どういう意味が含まれているのでしょうか。


「友人として、贈りたいと思っています。・・・今はまだ」


『今はまだ』と言うことは、そのうち友人としてではなく、別の意味も入ってくるのでしょうか。・・・そんな事を言われたら期待してしまいますよ。

 テオさんの真意を知りたくて、顔をじーっと見つめます。


「好きな人の事は吹っ切れたのでしょうか?」


 テオさんは好きな人を諦めきれないと言っていたはずですが。


「・・・吹っ切るつもりです。でも、最近ではその人の事よりも、ミーナ様の事の方がよく思い浮かんで・・・自分でもかなり戸惑っています」


 本当に戸惑った顔をしたテオさんにわたくしは胸が締めつけられました。


 物語を書いたり、仕事に気合いを入れたりして吹っ切れたと思っていましたが、やはり、わたくしはテオさんの事が好きなようです。頬が緩むのがわかります。


「では、待たせてもらってもいいでしょうか?ドレスも、テオさんが吹っ切れたその時に頂いてもよろしいですか?」


 そう言うとテオさんは目を丸くしました。


「・・・よろしいのですか?」

「ええ。どうせ、わたくしに縁談なんて来ませんもの。テオさんを待つのも待たないのも大して変わりませんわ」

「・・・ミーナ様はお優しいですね」

「そんな事はありませんわ。あまり遅いと、わたくしは一人で生きていけるようになってしまいますので、それまでにお願いしますね」


 悪戯っぽく言うと、テオさんの緊張していた顔が緩みました。

 その笑顔にまた胸がきゅうっとなります。


「なるほど。それは早くしないといけませんね」


 物語のような素敵な恋愛ではないかもしれませんが、わたくしも自分の恋物語を少しは進められたのでしょうか。

 その答えは、もう少し後でわかるのでしょう。



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