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結婚式2

シアナ視点→シヴァン視点になります。


「ティア、カイン、結婚おめでとう」

「おめでとう」

「ありがとう。お兄ちゃん、シアナさん」


 式の厳かな雰囲気で愛を誓う二人も素敵だったけれど、こうして明るい太陽の下で仲良く笑い合う二人も素敵だ。


 ティアちゃんとカイン様の結婚式は貴族も平民も両方が参加している。王宮で一目置かれる文官のカイン様と王宮魔術師であるティアちゃんの結婚祝いには王太子殿下や公爵令息、他国の王族も招待されているらしい。しかし、わたし達を平民だからと蔑む貴族はおらず、とても和やかな雰囲気だ。

 だからといって緊張しない訳ではないが。


「ニックさんはティアちゃんがいなくなると寂しくなるんじゃないか?」


 隣のニックさんに問いかけると、ニックさんは少し言葉を詰まらせた。


「う、まぁ、世話の焼ける妹がいなくなるのは手持ち無沙汰になるかもしれませんね」

「お兄ちゃんは未だに私を小さい子みたいに思っているのね・・・」

「兄にとって妹はいつまでも妹なんだよ」


 ペチッとティアちゃんにデコピンをするニックさん。本当に二人は仲のいい兄妹だな。


「ああ、でもカインにはたぶん必要ないんだけど、一回言ってみたかった事があるんだよな」

「ん?何?ニック」


 カイン様がキョトンとニックさんの方を見る。

 ニックさんは少し緊張した面持ちで、一つ咳払いをした。


「絶対にティアを幸せにしろよな!」


 そう言って、ニカッと笑うとカイン様も嬉しそうに目を細めた。


「もちろん!約束するよ」


 言ってみたかったのはそれかと、見ていたわたしとティアちゃんは目を合わせて笑う。


「次はシアナさんの結婚式ですね。楽しみにしています」

「ぅ・・・ま、まだ確定じゃないから」


 わたしとニックさんは交際しているけれど、求婚とかはまだされていない。でも結婚も考えてくれているって言っていたからそのうち・・・と思う気持ちはあるが。


「ティア、カイン、結婚おめでとう」


 そんなわたし達の中に入ってきたのは、カイン様の兄、シヴァン様だ。

 ファロム侯爵家の跡取りで、今は領地運営をしているらしい。顔立ちはカイン様にそっくりでかなりのイケメンだ。


「兄様、ありがとう」

「シヴァンさん、私もカインを絶対に幸せにしますからね!」


 先程のニックさんとカイン様のやり取りが羨ましかったのだろうか、ティアちゃんがシヴァン様に笑顔で宣言した。


「ああ、任せたよ。ティア」


 ふわっと笑うシヴァン様の笑顔は破壊力がすごい。この方貴族の中でもとても女性人気高そうだ。ちなみに、カイン様はティアちゃんの言葉で嬉しそうに照れていた。


「ニックとシアナもこれから身内になるんだ、よろしくね」

「こちらこそ」

「よろしくお願いいたします」


 丁寧に頭を下げる。やっぱり貴族だと思うと緊張する。



 その時――――


「ティア様っ」


 可愛らしい声がティアちゃんを呼んだと思ったらドーン!とティアちゃんに突撃してきていて、よろけたティアちゃんがカイン様に支えられていた。


「シャルロッテ王女」

「ティア様っ!今日のティア様はなんてお美しいのでしょうか!全ての女神の祝福を受けた花の精のように可憐で素敵ですわね。このままネルラント王国へ持って帰りたいですわ」

「あ、ありがとう存じます、シャルロッテ王女」

「持って帰るのはおやめ下さいね」


 ・・・シャルロッテ王女?!

 あれ?あの方学園祭で一度ご挨拶させてもらったけれど、平民に差別意識のある方で、蔑まれた覚えがあるのだけれど・・・どうした?!


 ティアちゃんを蕩けた瞳で見てピッタリと寄り添うシャルロッテ王女はまるで別人のようだ。いや、むしろ別人だと言われた方が納得できる。


 シャルロッテ王女は困惑するわたしとニックさんに気づいたのか、「まあ!」と目を見開く。


「ティア様のご家族の方、でしたわね。学園祭では大変失礼いたしました。あたくし、今はティア様をとても慕っておりますの。仲良くしてくださると嬉しいですわ」

「えと、こちらこそよろしくお願いいたします」


 ニックさんと共にシャルロッテ王女に礼をする。

 うーん、よくわからないけれど、仲良く出来るのはいい事だと思う。・・・一国の王女様だけど。


「ティアは本当にすごいな」


 シャルロッテ王女がティアちゃんの方へ戻るとニックさんがボソリと言った。


「ふふ、ニックさんの方が妹離れ出来ていない感じだな」

「・・・その通りです」

「おや」


 てっきり『そんな事ない』と返してくるかと思った。


「でも、ティアのいなくなった穴はシアナさんが埋めてくれるんですよね?」

「・・・へ」


 ぎゅっと手を握られて顔が熱くなる。


「この話はまた今度、ゆっくりとしようか。・・・シアナ」

「え?!」


 頬を赤くして微笑んだニックさんはそれ以上何も言ってくれなかったけれど、わたしの心臓はドキドキとうるさくなるばかりだった。






 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 僕がティアとカインの元を離れると、招待客の挨拶回りをしていた父様と母様が、なにやら魔術具を手に盛り上がっているのが見えた。


「父様、母様、挨拶回りは終わったのですか?」


 父様や母様は今まで招待客に挨拶回りをしていて、主役のカインやティアと話しに行こうとすらしていない。


 ・・・当然か。

 この人達は、見栄や世間体でこの結婚式を挙げさせただけで、カインやティアの事は『物』や『駒』のようにしか考えていないのだから。

 カインもあまりこの人達をティアに近づけさせたくないみたいだし、僕もそれがいいと思う。ティアを利用されたくはない。


「ああ、シヴァン。これを見てくれ」


 そう言って父様が嬉しそうに差し出したのが、ティアが作って、もうすぐ市場に出回る予定の『デジカメ』だった。


「これは・・・デジカメですか?まだ市場には出回っていなかったと思いますが」

「ああ、今日のために早めに手に入れたのだ。色つきで鮮やかな写真が撮れるぞ」

「そんな事よりもこの写真を見てちょうだい、綺麗に撮れているわよ」


 そう言って父様と母様が見せてくれたのは、今日のカインとティアの写真。

 白い正装と白のドレスに身を包んだ二人が幸せそうに笑っている写真。そんな写真が何枚も何枚も撮られている。いつの間に撮っていたのだろうか、結婚式序盤から今までの分がずっと写真に収められていた。


 ――――驚いた。


「ほら、これなんかはティアさんの後ろ姿がすごく綺麗だろう?」

「ええ。隣のカインも素敵な紳士で、本当にお似合いね」


 デジカメを覗き込みながら、楽しそうに感想を言い合う父様と母様。それは、普通の、子どもの結婚を祝う親のようで――――


「父様と母様は、カインとティアを大切に思っていたのですね・・・」


 僕は、父様も母様も変わらず、カインやティアを『物』のようにしか思っていないのだと思っていた。なんの愛情も無いものだと思っていた。


 思わず漏れた本音に、二人は目を丸くして固まった。


「・・・私は、ティアさんを歓迎すると宣言したはずだが?」

「・・・魔力が多く、王宮魔術師になる程の実力の持ち主だからかと」


「邸宅も与えたし、盛大な結婚式も挙げさせたのよ?」

「・・・世間体と見栄の為かと」


 父様と母様は呆然としている。これは、もしかして・・・


「シ、シヴァンは領地に行っていたから、知らないのだな!私達とカインは最近は仲が良いのだぞ」

「そうよ、最近はわたくし達の前でもたまに微笑んでくれるもの!」

「・・・いえ、カインは父様と母様は何も変わっていないと言っておりましたが。昨日」

「・・・」

「・・・」

「・・・」


 ――――父様達なりに愛情を伝えているつもりが、全く伝わっていないというやつか・・・?


「くっ、ははっ・・・」


 なんて――――不器用な人達なんだ。


 優秀な宰相と、それを支える優秀な妻であるはずなのに。

 僕に対しては、ちゃんと愛情を注いでくれて育ててくれたはずなのに。


 自分の子どもとの拗れてしまった絆の直し方もわからないのか。


「・・・笑わないでくれ。私達なりにやっていたつもりだったんだ」

「今思えば、カインが話してくれたのは結婚式の話題だけだし、微笑んでくれたのはティアさんの話題だけだったわね・・・」


 ため息をつき、今まできちんと接して来なかった分カインとの接し方がわからないという二人。


 ・・・本当は、ティアにこの人達を近づけないようにカインに協力しようと思っていたけれど。


「・・・カインは、今更、父様と母様に何の期待もしていないと思います。カインはファロム侯爵家の名などなくとも十分過ぎる評価を得ています」

「・・・そうだな」


 今でも家ではカインは感情を出さない。まるで感情なんて無いかのように無表情で過ごしている。

 だけど、ティアに関することではカインは表情豊かだ。笑ったり、怒ったり、困ったり。そんなカインが面白くて、感情を出してくれるのが嬉しくて、僕はつい、からかってしまうのだが。


 そんな風に気を緩める事ができて、愛してくれる人がいるカインには、今更親の愛情なんて必要ないのだと思う。

 王宮での地位も、ティアと共に在る為にカインが自分で掴んできた地位だ。ファロム侯爵家の名なんて使っていない。


「でも、もしも、父様と母様がやり直したいと思われるのでしたら、カインはきっと拒んだりはしないと思います」

「そうか・・・」


 父様と母様がホッとしたような顔をする。どうも今のやり方では伝わらなさそうなので、少しだけアドバイスしてあげようか。


「まずはティアを可愛がってはどうでしょう?カインはティアを大切にする人を蔑ろにはしませんよ」

「なるほど。そこから攻めるか」

「ティアさんとお茶会でも開きましょうか。わたくし、ずっと娘が欲しかったのです」


 頭脳派の父様と母様が何やら作戦を立て始めた。


 カインは、結婚したらティアと二人だけで穏やかに暮らすと言っていたけれど、そうもいかなくなるかもな。・・・なんてちょっと思ったけれど、僕も混ぜて欲しいしちょうどいいかな。


 ファロム侯爵家皆で穏やかな時間を過ごせるようになるのも悪くないなと思った。




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