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卒業1

 いろいろな事があった魔術学園も今日で卒業する。


 そう、今日は卒業式だ。


 卒業式は講堂で厳かに行われた。

 父と母が私の学校行事に初めて来てくれた。二人ともすごく緊張していたけれど、特に何事もなく時間は過ぎた。


 ただ、父とこんな会話をした。


「そういえば、父さんは魔術学園の卒業生だよね?懐かしいとかある?」


 父は祖母の血を受け継いでいるので魔力も多く、魔術学園に通ったそうだ。その時はAクラスだったと聞いている。私のように測定の魔術具を壊したりはせずにAクラスの中では平均だったらしいが。


「うーん、あの頃は貴族の方々に目をつけられないよう存在を消す事に必死だったからな・・・ティアにもおばあちゃんの血で苦労させたな」


 ポンと父が私の頭を優しく撫でる。

 父も母も貴族の中に放り込まれる私をずっと心配してくれていたのだと知った。


「ううん。私はカインとかアーサーとか他にもだけど、私の味方がたくさんいてくれたから、学園生活も楽しかったよ」


 そりゃ、辛いことも思い通りに行かない事もあったけれど、私はこの3年間で友人や慕ってくれる後輩、頼りになる先輩、いろんな人に囲まれて、とても楽しかったと思う。


「そうか。ティアはぼんやりしているかと思えば、カインくんとの婚約も公に認められて、いつの間にか逞しく育ったな」


 少し寂しそうに笑った父の顔が印象に残った。




 卒業式が終われば次は卒業記念パーティーだ。

 この卒業記念パーティーが、ゲーム内の最後のイベントだ。


 結ばれた攻略対象と穏やかな時間を過ごし、改めて愛の告白をされて、エンディングを迎えて結婚する。


 ただ、私が結ばれたのは攻略対象ではないカインだ。今日も今まで通りにパーティーを楽しむ予定だ。


 卒業記念パーティーはカインの贈ってくれたドレスで出席する。


 このドレスは緑色のサクレン生地に白色のレース生地が重ねられたふんわりとしたフィッシュテールドレスで、真珠の飾りがあしらわれている。

 お気づきかと思うが、カインの目の色と同じエメラルドの色で、フラゾール裁縫店で真っ先に気に入った生地だ。


 ノアが学園に置いてきたと言った私のペンダントはカインが回収してくれていて、また私の首に付けてくれた。

 今日は髪飾りもカインが贈ってくれた物だし、カインの贈り物尽くしだ。・・・貰いすぎじゃないかな?


「卒業生、入場!」


 卒業記念パーティーはエスコートなしなので、私は一人で豪奢な扉から足を踏み出した。


 幻想的な灯りの中ゆったりとした曲が流れ、私達卒業生は入場していく。


 私が会場入りすると、


「ティア様よ、なんてお美しい」

「カイン様がお贈りになったドレスかしら、素敵ね」

「在学中にもっとお近付きになれれば良かったのだが」


 とか聞こえてきた。入学当初と随分と変わったものだと、自分でも不思議に思う。


 全員が会場入りしたところで国王陛下の挨拶があり、パーティーは始まった。


「ティア」


 さて、どうしようかと思っていたら、まずカインがやって来た。


「・・・後輩の挨拶、受けなくていいの?」


 卒業記念パーティーでは、在校生と卒業生が別れを惜しみ挨拶をし、花束を贈る場所でもあるだが。

 キリアのようにカインに憧れるという後輩も多いらしく、カインはチラチラと様子を窺われている気がする。

 学園内の貴族は私に危害を加えたりしないし、私は一人でも大丈夫だよと言うと、カインは首を横に振った。


「今日のティアは特別可愛いんだから、一人で置いておくなんて出来るわけないよ!片時も離れないからね!」


 どうやら私を心配してくれているらしい。私の婚約者は相変わらず優しい人だ。


「僕の贈ったドレス、似合ってるね。可愛いよ」

「ありがとう。カインも今日は新しい礼服だね。かっこいい」


 カインは黒色メインの礼服だが、ジャケットに緑色の刺繍がされている。私のドレスにも同じデザインの刺繍がされていて、婚約者らしくお揃いになっている。


 ・・・カインとお揃いって思うとさらにこのドレスが好きになる。




「カイン様、ティア様、ご卒業おめでとうございます」

「キリア」


 キリアが私とカインに花束を贈ってくれた。


「カイン様達が卒業してしまうと寂しいです」


 泣きそうな顔で言われたので、また卒業後もお茶会を開催しましょうと約束した。

 ルピアの生誕祭では結局あまり一緒に過ごせなかったので、ルピアも一緒にどうかとお誘いすると、キリアは嬉しそうに頷いてくれた。




「お、ティア!カイン!」

「アーサー、ミーナ!」


 キリアの他にも後輩の挨拶を受けていると、アーサーとミーナがやって来た。


「ティアとカインはいつも一緒だな!」

「当然でしょ」

「ティア、そのドレスとても素敵ね。似合っているわ。カイン様がお贈りになったドレスかしら?」

「うん。カインが贈ってくれたんだ。可愛いでしょう?」


 ミーナにドレスが褒められたのが嬉しくて、くるっと一回転してスカートを摘む。


「ええ、とても。ティアにはその色が似合うわね」


 この色が似合うって言われた・・・!

 カインの瞳のような綺麗な緑色は私の一番好きな色。この色に包まれていると、まるでカインに包まれているようで幸せな気持ちになる。


「・・・カインの独占欲がそのまま現れたようなドレスだな。いや、可愛いけどさ」

「言っとくけど、生地を選んだのはティアだからね」



 カインとアーサーが何やら言っていたが、「ティア様!」という明るい声に遮られた。


「ご卒業おめでとうございます、ティア様。あたくしも国に帰らなくてはなりませんが、絶対に戻ってまいりますわ!」


 ぎゅうっと抱きついてくるシャルロッテ。


 シャルロッテは、ノアに協力していた事もあり、留学期間が終わり次第国外退去命令が出されるそうだ。ただ、彼女の場合は被害者である私が特に害を感じていない事と、私に素直に謝罪した事、彼女に反省が見られる事でだいぶん罪は軽く、その後入国禁止などにはならないそうだ。

 ・・・シャルロッテが国に帰るのは知っているけれど、戻ってくるの?


「つきましては、ティア様とカイン様の結婚式に招待してくださいませ」


 ・・・えっ、来るの?いや、いいんだけど・・・いいの?ネルラント王国の王女様呼んじゃっていいの?


「えっと、シャルロッテ王女・・・」


 どうしようかとカインを見上げると、私の視線を受けてコクリと頷いたカインがベリっと私とシャルロッテを引き剥がした。


「シャルロッテ王女、ここは公式の場になりますので他人の婚約者に抱きつく等品のない行動はお控えいただければと存じます」

「あら、あたくしったら。ティア様と離れると思うと寂しくて、つい。気をつけますわ」


 あ、うん。別に『シャルロッテを引き剥がして』って意味ではなかったんだけど、カインの言葉も間違ってないし、これはこれで良かったのかな?



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