それはまるで鎖のように
甘々注意
シャルロッテからノアの事で忠告があったとカインに相談し、私とカインはノア対策を考えているところだ。
考えているところなのだが・・・
「えっと、カイン?・・・この体勢は?」
私は今、ベッドに腰掛けるカインの膝に横抱きで乗せられている。
密着度高いし、カインの顔が近くにあってドキドキするのだが。
「ん?だって最近のティア、忙しそうであんまり構ってくれないから、寂しい」
「え?そうかな・・・?」
私は最近、王宮魔術師見習いとして契約を交わした。契約は卒業後かと思っていたら、できれば早めにとの事だったので、王宮魔術師見習いとなる契約を結んだのだ。
なので、禁書庫の閲覧権を手に入れた私は書庫の本を読んで魔術具を作るのにハマっている。昔の人が考えた多量の魔力を使う魔術具なんかは私の魔力量だったら作れたりするので、それを改良したりするのが楽しい。
禁書庫の本も申請をし、鍵のかかる箱に入れるなどして本人しか閲覧出来ないように出来るならば持ち出し可能らしく、私はケータイに本をコピーさせてもらってしょっちゅう読んではいるが、カインを寂しくさせるほどだったかな?
「えっと、ごめんね?」
「それに、シャルロッテ王女ばかりティアとイチャイチャしてるでしょう。ティアは僕の婚約者なのに、ずるい」
「『ずるい』って・・・」
こっちの方が本音っぽいなぁ・・・。どうやら、学園にいる時はシャルロッテが私にベッタリひっついて来る事と、私が魔術具研究している事が多くなったのでカインに寂しい思いをさせてしまったらしい。
シャルロッテに関しては私もしたくてイチャイチャしているわけではないのだが。ただ、シャルロッテは私を慕ってくれているだけで、冷たく突き放す事も出来ずに私も困っている。
「だから、今日は僕がティアを独り占めするんだ。・・・シャルロッテ王女には許されない方法で」
「許されない方法・・・?」
「うん。例えば・・・」
ちゅっ
「これとか」
「〜〜〜っ」
・・・キスされたっ!
かぁっと顔に熱が集まった私を見て、カインは目を細める。
「・・・可愛い。・・・・・・このまま、誰の目にも触れない所へ連れ去ってしまいたいよ。そうしたら、誰にもティアを攫われずに済む」
ぎゅっと抱きしめる腕に力を込めながらそう言うカインの声は少し震えている。・・・カインはたまに、こんな風に不安げな顔をする。
「カイン・・・?」
「――――なんてね。冗談だよ。そうすれば誘拐事件は起きないのになーって思っただけだよ」
腕を緩めてニコッとカインが笑顔を作る。そう言えばノア対策を考えていたんだった。
「それにしても、彼には困ったね。ティアと関わらせない事が逆に仇になったかも――――」
「いいよ」
「え?」
私の言葉にカインの動きが止まる。何を言ったのか理解出来ない、という顔だ。
「カインになら攫われても、いいよ」
カインのエメラルド色の目がまん丸になる。綺麗だなーと思いながら、言葉を続ける。
「私ね、カインが私の結婚の申し込み受けてくれたあの時から、カインを絶対に幸せにするーって決めてるの。・・・カインが望むなら、攫ってくれてもいいよ」
「〜〜〜っ」
カインは私の事を想ってくれていたから婚約を受けてくれたんだろうけれど、私がカインをゲームのシナリオ回避に利用しているというのは変わらない。
前世の話なんて突拍子のない話をしても、疑わずに信じてくれて、協力してくれるカイン。
私は、そんなカインを幸せにしたい。私を選んでくれた事を後悔なんてさせたくない。私はカインが大好きなのだから。
カインが私を攫いたいと言うのなら、私は喜んで攫われる。
・・・だから、そんな不安げな顔をしないで。
「ティアは、僕に、甘すぎるよ・・・」
「そう?カインになら何をされてもいいから」
カインの首に抱きつくと、カインも抱きしめ返してくれた。
赤くなった耳が可愛いくて、思わずカプリと甘噛みすれば、突如、私の視界は天井になった。
「?!」
ベッドに押し倒されたのだと理解したのは、カインのエメラルド色の目が目の前に来て、その中に籠る熱を見つけてから。
「・・・あんまり、誘惑しないでっ」
「んっ・・・」
唇をぴったり合わせるように重ねられる。何度も何度も角度を変えて行われる口づけに、呼吸をするのも苦しくなってきた。
「・・・ふ、!」
一瞬離れた隙に酸素を取り込もうと口を開けば、より深く口づけられた。カインが私を求めてくるのがわかって、それに拙く応えていく。
生理的な涙が一筋伝うと、ゆっくりと唇が離された。
「はっ、っ、・・・カイン?」
そのままの距離で、お互い荒れた呼吸を整える。
「・・・ティアのお誘いは魅力的だけど、僕は誘拐犯じゃなくて、ティアの夫になりたいんだ。僕だけが幸せになるんじゃなくて、ティアと一緒に幸せになりたい。だから、正攻法でティアを手に入れるよ」
すっと伝った涙の跡をなぞるカインは何かを決意したような顔をしていた。
「正攻法・・・?」
「みんなが僕達の事を認めて、みんなからお祝いしてもらって、僕とティアは神様の前で堂々と愛を誓うんだ・・・素敵でしょう?」
カインが起き上がり、私に手を差し出してくれる。
「うん・・・素敵」
まるで、ゲームのハッピーエンドみたいな素敵な展開。
「だから、一緒にノア対策考えようね。ティアの協力が必要なんだ」
「私に出来ることがあるなら、なんでもするよ」
私もカインの手を取り起き上がった。
カインとだったら何があっても乗り越えていける。・・・いや、カインと乗り越えていきたい。これからもずっと。
しかし、ゲームの強制力というのはなかなか強力で、まだ私を解放してくれないらしい。まるで鎖のように絡みついて、逃れようとしても逃れられない。
1ヶ月後、卒業式も目前にゲームのシナリオ通りにノアが動いた。
「・・・」
ガタガタと地面が揺れている。酷い頭痛がしながらも、ゆっくりと目を開ける。
身体は怠くて動かない。目から入る情報では、今は夜でここは馬車の中のようだ。そして、悪路をガタガタと進んでいる。
私が寝かされているのは座席の上。頭の下にはクッションがあり、縛られたりもしていない。
「おや、目が覚めましたか」
ああ、やっぱり――――――
「まだ薬が抜けきらないでしょう?貴女の黒曜石のような美しい瞳を眺めるのはもう少し我慢しますので、まだ眠っていてください」
前方から声がした。その声の主は私の頬をひと撫ですると、視界を塞ぐ。
酷い頭痛もあり、私はそのまま眠りの世界へと誘われていった。
――――――私は、ノアに誘拐されてしまったらしい。
「もう少しで貴女と僕の楽園に着きますよ。もう二度と逃がしませんからね」
・・・ごめんね、カイン。