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閑話 妹の婚期:カシュー視点

シアナの兄が暴走する話。特に本編と関係ないので閑話としました。

カシューはシアナの二番目の兄です。


 俺はカシュー・スクリッド、23歳。家は建築業を営んでいる。

 結婚適齢期な俺だけど、最近恋人に振られてしまった。俺より気になる男が出来たそうだ。まあ、男は女ほど婚期がどうだとか気にしなくてもいいから、またいい人を探そうと思う。今は仕事が楽しいから、そっちに集中したいしな。


 男の俺はまぁいいとしても、俺の妹、シアナも今年22歳だ。そろそろ結婚しないと行き遅れと言われるようになってしまうので、兄としては少し心配している。

 見合いから始まった交際も順調みたいだし、そろそろ結婚を決めてもいい時期だと思うのだが、相手のニックは何を考えているのか。


 シアナの交際相手のニックとは一度だけ挨拶をした事がある。

 黒髪黒目のかなりのイケメンで、対応も丁寧で紳士的。今まで散々モテまくっていたんだろうなーと思ったが、同時にシアナでいいのかと疑問にも思った。

 シアナは、俺やザック兄にとっては可愛い奴だけど、背も高くて肩幅も広め、言動も女らしさの欠片も無い奴だ。どちらかというと弟のようだと思っている。


 そんなシアナはニックの事を好きになったようで、ニックの事を語るシアナは幸せそうに頬を染めていて、ついからかってしまうのが最近の俺とザック兄だ。


「シアナはそろそろニックと結婚しないのか?」


 ニックの家の喫茶店アルバイトから帰ったシアナにザック兄が聞いていた。


 お!俺も気になってたんだよな!


 交際が始まってぼちぼち経ったし、そろそろ結婚が決まって、来年辺りに挙式になってもいい頃だ。シアナの年齢的にも急いだ方がいいだろう。


 だけど、シアナはキョトンとすると「いや?」と首を傾げた。


「ニックさんの家は来年ティアちゃんの結婚が控えているから、ニックさんが結婚するのはまだ先になると思う」

「え?!」

「は?!」


 ザック兄と俺が同時に驚きの声を上げる。

 ティアちゃんというのはニックの妹だ。俺は会った事は無いが、魔術学園に通っていて、幼い頃から婚約している相手がいるらしい。


「アタラード家も一気に二人も結婚するのは経済的に厳しいだろう?」


 いや、そうだろうけどさ。普通、順番的にニックが先だろ?

 ティアちゃんは確かまだ18歳のはずだ。成人したばかりだし、結婚を焦らないといけない訳ではないだろう。

 それよりもシアナが、ティアちゃんの結婚が終わるのを待っている間にせっかく受け入れてくれているニックに愛想をつかされて捨てられてしまわないかが心配だ。そんで、そうこうしているうちに行き遅れになるシアナが目に浮かぶ。


 俺はザック兄と目配せをする。どうやらザック兄も同じ考えのようだ。


「よし、じゃあ、俺たちがニックとティアちゃんを説得して、シアナを先に結婚させてもらうように言ってやるよ!」

「任せろ、シアナ!」


「は?!いや、わたしは構わないのだからやめてくれ!」


 気合いを入れて立ち上がったザック兄と俺は制止するシアナの声は聞こえない振りをした。









「えっと、ザックさんとカシューさんは今日はどうしてうちに?」


 アタラード家に突撃訪問をかました俺達は通されたリビングでニックの入れた紅茶を飲む。

 困ったような笑顔で向かいのソファーに座るニックは相変わらずイケメンだ。富豪向け喫茶店で働いているからか所作も丁寧で気品がある。ソファーにドカッと座った俺達とは大違いだ。


「ニックさん、ごめん。兄を止められなかったんだ・・・」


 シアナが頭を抱えて申し訳なさそうにしているが、そんな事は気にしない。


「ニック、今日はティアちゃんはいるのか?」

「へ?ティアですか?・・・ティアは今日は婚約者と一緒で、今は出かけています。もう少しで帰ってくるとは思いますが・・・」


 突然の質問に訳がわからないという顔をしながらもニックは答えてくれる。

 残念ながらティアちゃんは不在のようだ。しかし、婚約者が一緒だというのは幸運かもしれない。説得がしやすい。


「じゃあ、それまで待たせてもらうぞ。・・・ところでニックはシアナとの事はどう考えている?」

「・・・へ?」

「ザック兄!」


 突然の質問にニックはポカンとした顔をして、シアナは顔を赤らめて慌てふためく。


「俺は・・・シアナさんは理想的な女性だと思っていますよ。勤勉で努力家ですし、うちの家業の喫茶店も積極的に手伝ってくれていますし」


 ニックもシアナの事を気に入ってくれているようだ。シアナの努力が認められているようで嬉しくは思う。


「シアナは22歳だが、結婚については?」

「カシュー兄!」


 直接的過ぎる!みたいな視線をシアナに向けられたが、そんな事は気にしない。


「もちろん、結婚も視野に入れていますよ。ただ、少し待って欲しいとは思いますが」


『結婚も視野に入れている』の段階でシアナがすごく嬉しそうな顔をした。


「待って欲しいというのは?」

「このままではシアナは行き遅れになってしまうんだが?」


 ザック兄と俺は同時にニックに問う。今日の本題だ。


「えっと、うちの都合で申し訳ないのですが、ティアが来年結婚予定なのです。俺とティアの二人同時に挙式するのは厳しいので少しずらしてもらいたいのです」

「ティアちゃんはまだ18だろ?」

「ニックが先に結婚するのが普通じゃないか?」


「いや、ティアは8歳で婚約をして、18歳で結婚する約束を相手としていたので、俺の都合で延期して欲しいとは言えません」

「8歳から?!」


 随分と幼い頃に婚約を決めたのだな。いや、普通の平民が婚約をしている時点で珍しいのだが、まるで貴族の婚約のようだ。




「ただいまー」


 玄関の開く音と可愛らしい声が聞こえた。


 お、ティアちゃんが帰って来たのか?

 ちょうどいい。ニックが言えないのなら、俺達が直接言えば考え直してくれるかもしれない。


「ティアちゃんとも直接話がしたい。呼んでもらってもいいか?」

「・・・わかりました」



 ニックが部屋を出て話しに行くと、すぐに二人が戻ってきた。


「――――っ!」


 入ってきた黒髪の少女は、ニックと似た整った顔立ちにクリっとした黒い目、外が寒かったのか赤みがかった頬に、可愛い笑顔を浮かべて、俺達に礼をした。


「初めまして。ニックの妹、ティアと申します。よろしくお願いします」

「どうも、シアナの兄のザックだ」

「・・・」


 ・・・可愛い。

 雷に打たれたような衝撃に固まる。


「・・・おい、カシュー?えっと、こっちは次男のカシューだ。よろしくな」


 何も言わない俺に変わってザック兄が俺も紹介してくれた。


「えっと、それで私に話とは・・・?」


 コテンと首を傾げるその仕草も可愛い。


「ああ、ティアちゃんの結婚の事なんだけれど、再来年以降に延期する事は出来ないか?このままだとシアナが行き遅れてしまうんだ」

「ザック兄!・・・ティアちゃん、わたしは気にしていないから、そのまま結婚して貰えればいいから!」


 シアナがザック兄を咎める声を出してティアちゃんにフォローする。


 ・・・ああ?!ティアちゃんには既に結婚相手がいたんだった!俺の出る幕ねぇじゃん!


 あ、でも結婚延期になったら可能性あるか?あるかも?

 是非、延期の方向でお願いしたい!


「ティアちゃんはまだ若いから焦って結婚しなくても大丈夫だと思うんだ。シアナに譲っては貰えないか?」

「うーん・・・でもカインとの約束だし・・・」


 ティアちゃんの結婚相手はカインという名前なのか。

 よし、じゃあカインを説得出来ればティアちゃんは結婚を延期してくれるかもしれないな。


「じゃあ、そのカインに――――」

「――――僕が何か?」


 会わせてくれと言おうとしたら、あちらから来てくれたようだ。焦げ茶色の髪をした長身の青年が湯気の立つ紅茶を運んできた。


「ティア、外は冷えたでしょう?温かい紅茶を入れたから、飲んでね」

「ありがとう、カイン」


 ふわりと微笑み紅茶をテーブルに置くと、ティアちゃんの隣に座る青年。


 俺とザック兄はさぞかしマヌケな顔をしていた事だろう。

 シアナが何も言わない俺達を変な者を見る目で見ていたが、今はそれを気にする余裕はない。


 だって俺らはこの青年を――――いや、この方を知っている。


「ファロム侯爵令息・・・?」


 ファロム侯爵令息は、俺達が今仕事で手掛けている貴族の邸宅の依頼主の息子で、邸宅に住む予定の方だ。たまに現場に来て親父と話すのは見た事がある。が、もし不興を買ってしまった場合を考えて俺達はなるべく近寄らないようにと言われていた。この美青年を見間違えるはずがない。そういえば、名前はカインだったな、なんて思ったが、今はそんな事よりも・・・


 そんな方が何故目の前に?!ティアちゃんの婚約者がこの方なのか?!


「あれ?カインと知り合いでしたか?」


 ポツリと名前を呟いてしまった事で、ニックが俺達とファロム侯爵令息を見比べる。


 ニック!何でお前は侯爵令息を呼び捨ててんだ!


「ん?・・・ああ。僕とティアの住む邸宅を建築してくれてる職人さんですよね?」

「どうも・・・」

「ご無沙汰しております・・・」


 貴族への話し方などわからない俺達はとりあえず合っているかわからない返事をする。


 ・・・やべぇ、気づかれたよ。なんで一平民の俺たちの顔なんて覚えてんだ。


「あれ、そうなんだ。すごい偶然だねぇ。お二人はシアナさんのお兄さんなんだよ。ザックさんと、カシューさん」


 ティアちゃんが侯爵令息が入れたという紅茶を飲みながら俺達を紹介してくれる。


「へぇ。それはすごい偶然だ。よろしくお願いしますね。・・・それで?先程僕の名前が聞こえましたが、僕に何か御用でも?」


 ・・・しまった!

 シアナが婚期を逃さない為にティアちゃんとの結婚を延期してくださいなんて侯爵令息に言えるわけねぇ!


 てか、シアナ!侯爵令息登場にさほど驚いていないって事はティアちゃんの婚約者が侯爵令息だって知ってたな!先に言っておけよ!


「えっと・・・」

「私達の結婚、延期する事は出来ないかって。お兄ちゃんとシアナさんの結婚を先にする方がいいんじゃないかって、お二人は言ってるんだけど・・・」


 口ごもる俺達に代わりティアちゃんが説明する。


 ちょっ、待って!


「延期・・・?」


 ・・・ヤバい。侯爵令息の雰囲気が一気に冷たくなった。貴族の不興を買ってしまうのはとてもまずい。

 急激に冷え始めた空気をどうにかしなければと俺達は口を開く。


「いや、そう思ってたんですけど、やっぱりティアちゃんが先でいいと思います!」

「ザック兄の言う通り、シアナなんて多少行き遅れても問題ありません!」


 ザック兄と俺が慌てて弁明すると侯爵令息の雰囲気も和らぐ。


「そうですか?ならいいですけれど。・・・僕はティアとの結婚を遅らせる気はありませんからね」

「「もちろんです!」」


 姿勢を正して答えると、侯爵令息はニックやシアナにも目をやる。


「ニックやシアナさんもそれでいい?」

「俺は最初からそのつもりだし、カインがどれだけティアとの結婚待ち侘びてるか知ってるから、気にすんなよ」

「わたしも気にしておりません。むしろ兄が変な事を言い出してしまい申し訳ないです」


 ・・・とりあえず、やり過ごした、か?


 侯爵令息が笑顔に戻ったので、俺はそっと息を吐いた。


「・・・やっぱり根回しは大切だよね」

「え?カイン、何の話?」

「ん、こっちの話」


 ・・・やっぱり貴族は怖いっ!









「シアナ!何で言わなかったんだよ!」

「え?何が?」


 アタラード家から帰った俺達は早速シアナを問い詰めた。


「ティアちゃんの婚約者が侯爵令息だって事だよ!」

「知ってたら結婚延期にして欲しいとか言いに行かなかったぞ!」


 すげぇ焦ったじゃねぇか!死ぬかと思ったぞ!


「ん?言ってなかったか?でも、止めても聞いてくれなかったじゃないか」

「うっ」

「それに、ティアちゃんはカシュー兄好みな見た目だし、あんまり会わせたくなかったんだよ。ティアちゃんはカイン様とラブラブだから、手出すなよ?」

「出すわけないだろ!」


 確かにティアちゃんは俺好みの可愛い見た目だったが、侯爵令息の婚約者に手を出すとか命がいくつあっても足りない。俺は自殺志願者ではない。


「ザック兄とカシュー兄がわたしを心配してくれたのは嬉しく思っているが、結婚とか今後の事はわたし達のペースで進めるから気にしないでくれ」

「そうだな」

「わかった」


 まあ、アレだ。ニックも時折すげえ優しい眼差しをシアナに向けてたし、結構気に入ってくれているのだろう。もう少し様子を見ておいてやってもいいかもしれない。


 俺とザック兄とで頷き合って、仕事より疲れた身体をソファーに沈めた。

カシューもザックもなんだかんだ言って妹思いです。次回から最終局面に入ります。

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