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ニコラスのプレゼン

 ツバキもリオレナール王国に帰り、冬の気配が濃くなってきた今日この頃。


「ティア、王宮魔術師見習いになりませんか?」

「・・・王宮魔術師見習い?」


 突然のニコラスの提案にオウム返しをした私は首を傾げた。


 ニコラスは私の家に遊びに来ていて、今はカインと兄と一緒にお茶を嗜んでいるところだ。ニコラスとカインが同時にうちにいるのは珍しい。


「見習いってそんなのあった?」


 私が今魔術師長から何度も勧誘を受けているのが王宮魔術師だが、その見習いというのは初めて聞いた。


「魔術師長がティアの為に作ろうとしています」

「えぇ?!」


 魔術師長はなんとか私を王宮魔術師に引き込みたいようだ。悪い人ではないんだけど、かなり粘着質である。


「ティアが卒業後すぐに働き始めない事はわかっています。しかし、王宮としてはこれからもティアに魔術具作成の依頼をしたいと考えています。なのでティアの意向に沿う形で雇用出来たらと思っています」

「意向に?」

「はい。まず、ティアの利点は三つあります」

「・・・うん」


 ピッとニコラスが三本指を立てた。

 ・・・なんだかプレゼンみたいだな。


「まず一つ、依頼した魔術具納品時の手続き、検査の簡略化です。身分が王宮の者となるので、今のような面倒なやり取りはしなくて良くなります」


 王宮の魔術具は王宮魔術師が作るのが普通だ。なので、外部の私が魔術具を納品する時は魔術具の検査から始まり、魔術具の効果について口外しないとの契約、害意や敵意が無いかの検査まで受ける。


 必要なのはわかるがこれが毎回あるので非常にめんどくさい。

 それをしなくていいのは楽かもしれない。



「二つ目に、見習いなので、毎日王宮に出仕する必要はありません。特別な行事と、ティアが魔術具を作る時、呼び出しに応じて来てもらえばいいです」


 魔術具を作る時に研究室として使ってもらえばいいという事かな。それだったら、家の事とも両立出来るかも?


「そして三つ目、これは現時点で平民のティアが、正式な王宮魔術師になりやすいように、との措置なのです」

「・・・?」


 ニコラスが言うには、王宮魔術師には高位な貴族が多い。魔力が多いとはいえ、この前まで平民だった私を簡単に受け入れは出来ないだろう。

 なので、平民だから『見習い』という期間を挟んで見極めてから正式な王宮魔術師にする、という事にした方が他の魔術師達も受け入れやすいのだと言う。


 なるほど。平民は簡単には王宮魔術師になれないっていうイメージは貴族のプライドを刺激しない為には必要だよね。


「随分とこちらの意向に沿ってくれるんだね」


 私を王宮魔術師にする為にしては破格の対応すぎやしないだろうか。


「それだけティアは王宮に引き込みたいと思える人物なのですよ。こちら側にも利点は多いですし」


 王宮側としては、魔力も多く変わった魔術具を作成する私はどうしても欲しいらしい。


「あと・・・魔術師長が『ティアを王宮魔術師に』としつこく僕の元へ言って来なくなります・・・」


 あっ、最後のがすごく本音っぽい!

 魔術師長は私に対してもしつこかったけど、私と接点が多いニコラスに対してもしつこかったらしい。今のプレゼンもここ数日毎日聞かされていたのだとか。


「どうしようかな・・・カインはどう思う?」


 黙って話を聞いていたカインに尋ねる。卒業後はカインと結婚という予定の私はカインの意思が一番重要だ。


「そうだね・・・。その条件なら悪くないと思う。ティアは魔術具作るの楽しそうだし、負担にならない程度にならすればいいよ」


 カインは王宮魔術師見習いに賛成してくれた。カインがいいならあとは私の意思かな・・・。


「お兄ちゃんは、どう思う?」


 私はまだ迷っているので、他の人の意見も聞いてみようと、兄にも尋ねる。


「俺か?俺は・・・魔術師についてはよくわかんねぇけど、なれるんならなればいいんじゃないかと思う」

「なれるんなら・・・?」

「ああ。正直、うちの喫茶店の従業員はいつでもなれるだろ。魔術具研究所で働くのも、ティア程の魔力があればいつでもなれると思うんだ。だけど王宮魔術師は違うだろ?魔術師長がティアを気に入ってくれていて、ティアの実力が王宮に認められているからこそなれるんだと思う。身分もあるし、簡単になれるものじゃない。だから、やってみて、嫌だったら辞めればいいんじゃないか?」

「なるほど・・・」


 その考えも一理あるな。とりあえずやってみればいいのだ。やり直しは幾らでもきく。


「じゃあ、受けさせてもらおうかな」

「ありがとうございますっ!魔術師長にも伝えておきますね!」


 詳細はまた後日お伝えしますね、とニコラスはとても嬉しそうにしてくれた。


 カインと兄の後押しを受けて、私は卒業後は王宮魔術師見習いになることに決めた。・・・なんだか今日のカインは機嫌が良かったな。












「カイン、思ったよりあっさり賛成してくれたね」

「そう?僕はティアが家にいて僕の帰りを待っていてくれるのも素敵だと思うけれど、一緒の職場で一緒に過ごせるのも素敵だと思ってね」

「あ、そっか。カインと同じ職場にはなるのか。・・・文官と魔術師は一緒に働けない気がするけど」

「同じ場所にティアがいるってだけで僕のモチベーションがかなり変わるよ!」

「そうなの?」

「そうなの。それに、近くにいてくれた方が余計な虫を落としやすいでしょう?」

「・・・ほどほどにね」


 

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