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告白の返事

「俺、復活!」

「玄関で叫ばないでねー」


 学園祭後の休日、学園祭前日に魔獣を倒すため魔力を暴走させて倒れたツバキが家に押しかけてきた。


 ツバキをリビングに通してお茶を入れる。


「元気そうで良かった。もう熱も下がった?」

「ああ。昨日の夜には熱も下がったぞ。学園祭に出られなかった事は残念だが・・・」

「ツバキにとってはサクレスタ王国での最後の学校行事だったもんね」


 昨年の冬前にサクレスタ王国に留学に来たツバキは、あとひと月程で留学期間が終わるのだ。


「残念だが、仕方がないさ。ティアの体調は大丈夫だったか?」

「私は微熱が出たくらいで、翌朝には熱も引いたよ。・・・ツバキ。止めてくれて、マグオウルから守ってくれて、ありがとう」


 お礼を言うと、ツバキはへにゃりと笑った。


「ああ、ティアが無事でよかった。もう暴走させようとするなよ」

「うん。気をつける」


 お茶を飲んだツバキが「そうだ」と声を上げる。


「ニックとシアナさんは学園祭来てくれたんだろ?楽しんでくれたか?」

「んー・・・。楽しんではくれたかな?二人ともかなり緊張はしてたけど」


 兄もシアナも家に帰るとぐったりとしていた。慣れない場所だし、少しトラブルもあったし疲れたのだろう。

 ぐったりとした兄が元気そうな私を見て「ティアってすごかったんだな・・・」って言っていたから、「私は3回目だからね。お兄ちゃん達よりは慣れてるし」って返したら「やっぱりティアはティアだったわ」とか呆れた目をされたんだけど。なんか馬鹿にされてる気がした。


「そうか、少しでも楽しんでもらえたなら、よかったんじゃないか?」

「うん」


 ツバキと学園祭の事についていろいろと話していると、ふとツバキが押し黙った。



「ツバキ・・・?」

「なぁ、ティア」


 ツバキの表情が真剣なものになる。

 ・・・学園祭が終わったから、告白の返事をしなければならない。

 きっと、今日はその件でうちに来たのだろう。


「ティア、俺と結婚してくれないか。俺と一緒にリオレナール王国で暮らそう」


 昨年、告白してくれた時と同じ真剣な目、熱の籠った慈しむような目。


 だけど・・・


「・・・ごめん。私はツバキと結婚は出来ないの。私は、やっぱりツバキは身内としては好きだけど、それは恋愛感情じゃなくて・・・だから、ごめんなさい」


 私はそんなツバキの目は真っ直ぐに見る事が出来なかった。


「・・・そっか。うん、ちゃんと考えてくれてありがとうな」


 断って、ツバキがどんな表情をしていたのかはわからなかったけれど、わしゃわしゃと頭を撫でてくれて、顔を上げた時のツバキは寂しそうながらも、笑ってくれていた。


「あー・・・でも悔しいなー」


 ソファーの背もたれに身体を預けて上を向くツバキ。


「・・・ごめんね」

「いいさ、ティアが謝らなくても。・・・でも、カインが嫌になったら俺の所に来いよ!いつでも大歓迎だからな!」

「嫌にならないよ!」


「わかんねぇぞ」と笑うツバキはいつも通りの笑顔でホッとする。


「ツバキ、好きになってくれて・・・ありがとう」


 気持ちには応えられないけれど、私を好きになってくれて、守ろうとしてくれて、いっぱい気にかけてくれて。今も、傷ついただろうに、笑ってくれてる。真っ直ぐで、優しい。ツバキは物語の王子様みたいな人だった。実際王子様なんだけど・・・私がお姫様にはなれないだけで。


 身内の枠を超えたツバキの気持ちには戸惑う事が多かったけれど、好意を寄せられる事自体は嬉しく思った。だから、私の自己満足かもしれないけれど、『ごめん』じゃなくて、『ありがとう』で終わらせたかった。


「ありがとう、ツバキ」


 ツバキはぐっと目をつむると、


「ティアってやっぱりずるいよな」


 と笑顔を作るのに失敗したような顔をしていた。














「なぁ、俺の留学期間が終わった後も学部別授業はあるんだろ?」

「うん?そうだね。就職活動時間が増えるから授業時間は減るけどね」


 学園祭が終われば私達3年生は本格的に就職活動に入る。カインやアーサーは王宮の文官と騎士になる事がほぼ確定しているので、授業の無い時は王宮で少しずつ働き始めるらしいし、ミーナは教師資格試験があるので、試験に向けての勉強をする予定だ。

 ちなみに私は卒業したらカインと結婚という予定なので、結婚準備をするくらいで、意外と暇になる。なので、先生とも交渉して、卒業するまで研究室を使わせてもらい、魔術具研究をしていようかと思っている。


「俺がいなくなった後に近づいて来る奴がいたら注意しろよ。出来れば関わるな」

「え?・・・うん」


 ふと、ノア・クラシスの顔が浮かんだ。

 彼とは今まで一切関わりが無かった。だけど、学園祭で助手のツバキがいないからと手伝いを申し出てきた。

 最近は他の貴族も私に対して好意的な人が多いから、特別おかしくはないんだけど・・・


「たぶん、カインが何かしらの対策は取ると思うが、ティアも気をつけろよ」

「うん。わかった」

「・・・俺、1年間ティアとカイン見ててさ、カインは腹黒いし、冷酷だし、何考えてるかわかんねぇ時も多い。けどさ、ティアの事は絶対に守ってくれるし、真っ直ぐに愛してるんだと思った。だから、何かあったらカインに相談しろよ。きっと、ティアを守ってくれるから」

「・・・ツバキ」


 ツバキは、カインを認めてくれたんだ。

 カインとは対立したり、嫌味を言い合ったりしている事が多かったツバキだけど、ちゃんとカインを見て、認めてくれた。

 留学初日にカインを見極めるって言われたのはもう無効だと思うけれど、認めてくれた事自体は嬉しく思う。


「ツバキって、いい男だよね」

「今更気づいたのかよ」


 ははっとツバキと笑い合う。


 私はもう一度小さく「ありがとう」と呟いた。

 



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