学園祭(3年生)3
今日は学園祭2日目のガーデンパーティーだ。
「シアナさん、綺麗です!」
「そうかな・・・ありがとう」
今日のシアナの服装はスカートだ。
ガーデンパーティーは、正装ではなくとも貴族の中に行くのでそれなりの格好をしなくてはならない。
今日のシアナは、紺色のマーメイドスカートに白のブラウス、ラベンダー色のカーディガンを羽織っている。髪形も兄が上手く編み込みをしていて、百合の花を模した髪飾りがついていて可愛らしい。
いつものパンツスタイルのかっこいいシアナも素敵だが、この女の子らしさを取り入れたシアナも可愛くて素敵だ。
「ティアちゃんもとても可愛らしいな。髪飾りもキラキラ輝いていて素敵だね」
「ありがとうございます。これは婚約者が贈ってくれたのです」
私も今日は、カインが以前デートの時にファニールで買ってくれた髪飾りを付けている。大きな宝石から雫が伝うように小さな宝石が付いているので、動く度にキラキラと揺れる。
ハーフアップにした髪に花の髪飾りと一緒に付けてもらった。
『婚約者』という単語にシアナは少し顔を強ばらせた。
「ティアちゃんの婚約者は貴族なんだよな・・・緊張するな」
「大丈夫ですよ、カインはすごく優しい人だから。ね、お兄ちゃん?」
「ああ。カインは良い奴だから大丈夫ですよ、シアナさん」
シアナは私に既に婚約者がいるという時点で驚いていたが、学園祭で挨拶する事になると思うと言ったら「・・・貴族って事?!」とさらに驚いていた。
カインは貴族だけど、貴族然としたふしが無いから仲良くなれると思う。
「ティア、ニック」
「あ、カイン」
そんな話をしていると、当人のカインがやって来た。
シアナがビクッと身体を強ばらせる。
「カイン、紹介するね。お兄ちゃんの交際相手のシアナさんだよ。仲良くしてね」
私がシアナを紹介するとシアナはぎこちない動きで礼をした。
「お初にお目にかかります。シアナ・スクリッドと申しゃ、申します・・・」
・・・噛んだ!
「初めまして。ティアの婚約者のファロム侯爵家次男、カイン・ファロムです。よろしくお願いします、シアナさん」
カインは柔らかく微笑むと右手を胸に当てシアナに礼をする。
対するシアナは、「こ、侯爵・・・?!よろしくお願いいたします・・・」と引きつった笑顔を浮かべていた。・・・頑張れ、シアナさん!
「ところでカイン、侯爵夫妻は一緒じゃないのか?来てるんだろ?」
「あの人達は勝手に楽しむと思うから放置でいいよ。僕はティアのエスコートをする為に来たんだよ。・・・そのうち挨拶には来るかもしれないけれど」
「・・・そうか」
今度は兄の顔が緊張で強ばった。
私もファロム侯爵夫妻とまともに会ったのは1年生の学園祭以来なので、緊張するな。
「ティア、今日は僕が贈った髪飾りをつけてくれてるんだね。とても可愛いよ、似合ってる」
チャリ、と髪飾りの宝石に触れて揺らすと、そのまま髪をひと房とって髪に口付けを落とすカイン。
・・・ふぁ?!
「あ、ありがとう・・・」
かぁぁと頬を染めるとカインの視線がさらに柔らかく慈しむものに変わる。
「あの人達の為にティアが緊張する必要なんて無いからね。ティアはいつも通りの笑顔で僕の隣にいてくれればいいよ」
どうやら私の緊張を解すためにしてくれたらしい。カインは優しいな。
「シアナさん、カインはあの通りティア至上主義なので緊張しなくても大丈夫です。シアナさんがティアの敵に回らない限り、カインは蔑んだり見下したりしませんよ」
「そうか・・・お二人は仲が良くて微笑ましいな」
「そうですね」
そして、ガーデンパーティーが始まった。
始まると同時に昨年と同様に私とカインは貴族達に囲まれてしまった。
ただ、昨年と違うのは、貴族達の目当てがカインだけでなく私にもあるという事だろうか。王宮に魔術具を依頼された事がかなり広まっているらしく、それについての話題が多かった。
しばらくカインと二人で寄ってくる貴族の対応をしていると、そういえば兄とシアナは大丈夫かなと思い、辺りを見回す。
・・・げ!絡まれてる!
シアナが深緑の髪の貴族に手首を掴まれて、シアナを助けたい兄とその貴族が問答しているように見える。
「カイン、私、お兄ちゃん達の方に行きたいんだけど・・・」
「ん?・・・ああ、わかったよ」
カインと共に集まってきていた貴族達を躱すと兄とシアナの元へ行く。
近づくと会話の内容が聞こえてきた。
「お前たち平民は俺たち貴族に大人しく従っていればいいんだ!」
「お言葉ですが、俺達も本日は招待を受けてこの場に来ておりますので、勝手に離れるわけにはまいりません。彼女の手を離していただけませんか?」
む、こういう貴族の立場を笠にきて平民を見下す貴族は嫌いだ。
自分ならばちょっと我慢すればいいけれど、私の大切な兄やシアナが言われていると思うと腹が立つ。
「――――失礼ですが、わたくしの兄と義姉に何か御用でしょうか?」
「おや、貴方は確か・・・僕と同じクラスのウェルダム男爵令嬢のお兄様、でしたね?僕の婚約者の御家族とお知り合いですか?」
「――――!」
私とカインが話しかけると深緑の髪の貴族はビクッと身体を揺らした。
「あ・・・ファロム侯爵令息のご婚約者様の御家族、ですか・・・?シアナが・・・?」
深緑の髪の貴族――――ウェルダム男爵令息はシアナと知り合いのようだ。もしかしたら、魔術学園に通っていた頃の知り合いかもしれない。あまり、良い知り合いでは無さそうだが。
顔色が悪くなって、ガタガタと震え出したウェルダム男爵令息に「あっ!お兄様!」と大きな声がかけられた。
やって来たご令嬢はウェルダム男爵令息と同じ深緑の髪をしていて、私も見たことがある。カインと同じCクラスの女子生徒だ。
その女子生徒は顔色を悪くするウェルダム男爵令息と黒オーラを纏う私とカイン、困り果てた顔の兄とシアナを見てパチパチと瞬きをすると、状況を把握したのか「ひっ」と小さく声を上げた。
「カイン様!ティア様!大変申し訳ございませんでした。何をしたのかはわかりませんが、この愚兄が何かやらかしたのでしょう。この通りですのでどうか許していただけませんか!」
そう言って頭を下げた女子生徒は兄のウェルダム男爵令息の頭も押さえて下げさせる。
「痛たたた、マチルダ、痛い!」
「痛いじゃない!心の底から謝れ、この愚兄が!カイン様とティア様のご機嫌を損ねるとウェルダム男爵家は破滅するのよっ!」
「も、申し訳ございませんでしたっ」
マチルダ様強いなー。てか、貴族の男爵家を破滅させるって、私とカイン何だと思われてるの・・・。カインに洗脳されているCクラスだからかな。うん。そういう事にしておこう。
「・・・彼、謝ってるけど許す?」
カインが兄とシアナに向かって聞くと、二人ともコクコクと頷く。兄もシアナも心が広いな。
「ティアも、いい?」
私もカインに聞かれ、頷きはするけれど、ウェルダム男爵令息の前に進みでる。また私の見ていない隙に兄やシアナに絡まれては堪らない。ちゃんと釘は刺しておかないと。
「・・・ウェルダム男爵令息、シアナさんは平民ですけれど、わたくしの大切な人です。わたくし、大切な人を身分だけで侮辱され、危害を加えられるのは好きじゃありませんの。・・・ゆめゆめお忘れなきよう」
身分を使うことは好きじゃないけれど、身分を使う事も必要だってカインも言ってたし。『私の婚約者は誰だと思ってるんだ。次シアナさんに何かしたら許さないからな』という視線をウェルダム男爵令息に向ける。
ウェルダム男爵令息は小さく息を呑むと、「ティ、ティア様、申し訳ございませんでしたっ」と頭を下げて去って行った。
ちなみに妹のマチルダ様は、何故か「ティア様、素敵っ」とキラキラした目で男爵家の兄が平民に脅される様子を見ていた。




