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侯爵家のお茶会1:アリア視点

「アリア!貴女いったい何をしたの!」


 バンッと扉を開けるお母様はいつも礼儀作法に厳しいお母様の行動とは思えないぐらい慌てています。そんなに慌ててどうしたのでしょう。


「どうしたのですか。お母様」

「ファロム侯爵家から手紙が来たのよ!貴女宛に!」

「え?!」


 ファロム侯爵家?!

 わたくしは貴族御用達のフラゾール裁縫店の娘ですが、まだ正式に見習いにもなっていないので貴族と関わりを持った事はありません。あ、アーサーくんは別ですけれど。

関わりのないファロム侯爵家からわたくし宛に手紙など、いったいどういう事なのでしょう。


 お母様から手紙を受け取り、丁寧に開きます。

 それは、5日後ファロム侯爵邸で行われる茶会への招待状でした。


「なんだったの?!」


 ソワソワとこちらを見ていたお母様が焦れるように問い詰めて来ます。


「お母様・・・ファロム侯爵邸での茶会への招待状でした・・・」

「アリア、貴女ファロム侯爵家と何か繋がりがあったの?」

「ありませんわっ」


 わたくしが聞きたいぐらいです。ファロム侯爵家と言えば、当主がこの国の宰相を務めていて、上から5本の指には入る上級貴族です。11歳平民のわたくしとは縁もゆかりも無いのです。

それにこれはただ平民を呼び出して話をする召喚状ではなく、共に席に着いて話をする招待状です。


 何故?!いったい何をお話するというのでしょう?!


「差出人はカイン・ファロム侯爵令息・・・確かファロム侯爵家次男でアリアと同い歳のはずよ。覚えは無いかしら?」

「ありませんわっ」


 お母様はとうとうわたくしの手紙を覗き込んで来ました。礼儀作法は何処へ行ったのでしょう。


 カイン・ファロム侯爵令息、聞いた事ありませんわ。同い歳なのは話すのに少し気が楽な気がいたしますけれど・・・いえ、いたしませんね。気のせいでした。貴族と話すのに気を楽にしていい訳無いですわね。


 でも、わたくしのやらなければならない事はハッキリしました。


「お母様。5日でわたくしを侯爵令息と共にお茶が出来るよう、指導してくださいませ」


 決意を込めてお母様を見上げると、お母様も表情を引き締めます。


「そうね。招待状が来ている事実は変えられないものね。当日の服と手土産についても一緒に考えましょう。忙しくなるわよ!」

「はいっ!」



 そして、お茶会当日。

 ファロム侯爵邸に着いたわたくしは、使用人の方に案内され、応接室の扉の前まで来ています。

流石は侯爵家使用人。歩く姿も指先まで整っていて、気品を感じます。

わたくしもここまで変な言動はしていないと思いますが、絶対にやらかしてはならないと思うと、心臓がドクドクと早鐘を打ちます。


「では、こちらで少々お待ちください」


 ギィ、と開かれた扉の中には――――


「テオくんとアーサーくん!?」


 はっ!しまった!思わず大きな声を出してしまいました。はしたないですわ。


 ソロっと使用人さんの方を見ると、さして気にした様子もなく、「では、失礼いたします」と出て行ってしまわれました。


「アリア、お前も呼ばれたんだな」


 この部屋にはテオくんとアーサーくんとわたくしだけになったので、一先ずホッと息を吐き、テオくんの隣に腰掛けます。


「ええ、テオくんとアーサーくんも一緒でしたのね。という事は、ティアちゃんも招待されているのかしら」


 招待主のカイン・ファロム侯爵令息と何の繋がりがあるのかはわかりませんが、このメンバーならティアちゃんも来るのでしょう。そう思い問いかけるとアーサーくんが首を横に振ります。


「いや、今日はティアは招待されてないぞ」

「まあ、そうでしたの?その口振りだとアーサーくんはこのお茶会の開催理由を知っていそうですわね?」


 わたくしが問うとアーサーくんはグッと言葉に詰まり、オロオロと視線をさ迷わせます。


「いや、姉御、それは招待主のカインに聞いてくれ」


 カイン、ですか。忘れがちですがアーサーくんはこの中で唯一の貴族ですものね。同じ貴族であるカイン・ファロム侯爵令息と知り合いでもおかしくありません。成程、アーサーくんと繋がっていたのですわね。

 わたくしがそう結論付けている間、テオくんは何故かブツブツと「まさかな、そんな訳ないよな、無い無い」と遠い目をしながら呟いています。

いつものテオくんらしくありません。どうしたのでしょうか。


 そうしていると、扉をノックする音が聞こえ、わたくしは背筋を伸ばします。


 入って来たのは、わたくし達と同い歳くらいの焦げ茶色の髪色で前髪を整髪料でサイドに固め、濃い緑色の目をした整った顔立ちの男の子。着ている服は一級品で立ち居振る舞いも完璧。あの方が招待主のカイン・ファロム侯爵令息だと気がつきました。


「皆さん、急に呼び立てして申し訳ない。今、紅茶を入れさせるね」


 ニッコリと笑うその目は、いつもティアちゃんが大切そうに付けているペンダントの薔薇と同じエメラルドグリーンでした。




 立ち上がり、侯爵令息に向かって礼をします。


「お初にお目にかかります。アリア・フラゾールと申します。本日はご招待頂きありがとう存じます」


 お母様に教わったように、一つ一つの動作をゆっくりと丁寧に行い、お辞儀をします。


「初めまして、アリア。僕はカイン・ファロム、このファロム侯爵家の次男だ。よろしくね」


 侯爵令息はニコッと笑って挨拶を返してくれます。

と、隣のテオくんもわたくしに続いて頭を下げます。


「テオ・ストデルムと申します。ファロム侯爵令息、この間は侯爵令息とはつゆ知らず、大変失礼をいたしました。お詫び申し上げます」


 流石はストデルム商会の跡取り息子。テオくんは普段の態度とは打って変わって丁寧なお辞儀をします。テオくんはわたくしと違い、丁寧な対応と普段との切り替えが出来るのです。


「ああ、テオ。この間は僕もお忍びだったからね。身分を明かさなかったのはこちらだ。だから頭を上げてくれ。それから『ファロム侯爵令息』なんて他人行儀な呼び方は止めてくれ。この間みたいに『カイン』と呼んでくれると嬉しい」


 なるほど、テオくんはお忍び中の侯爵令息にお会いした事があったのですわね。だから先程まで「まさかな」と呟いていたのでしょう。


「では『カイン様』とお呼びいたします」

「うーん、出来れば『様』とその言葉遣いも止めてほしいんだけど・・・今はしょうがないか。それでお願いするよ。アリアもね」

「――――っ!わたくしも、ですか、かしこまりました。カイン様」


 突然わたくしに話が飛んで来て少し返答に詰まってしまいました。


 それにしても、どうしてこのような事を仰るのでしょう。

平民と砕けて話したいなど、貴族としては変わったお方です。


 そんな会話をしているうちにお茶の準備が整ったようです。カイン様が使用人に声をかけます。


「ありがとう。君たちはフェルナンだけ残して退席してもらえるかな。何かあったらベルで呼ぶから」


 使用人達はお辞儀をして、1人の護衛を残して部屋から出ていきます。その統一された動きに感動を覚えます。


「さて、本題に入る前にまずはお茶にしようか」


 わたくし達の前には芳しい香りのする紅茶とチョコレートケーキが並べられています。


「どうぞ。アリアには甘めの、テオには甘さ控えめの、アーサーには適当な甘さの物を準備したから」


 そう言ってカイン様はお茶に口を付けます。ホストがお茶に口を付けてからがお茶会開始になるのです。

 それにしても、初対面なのに好みまで把握されているなんて、貴族は恐ろしいですわね。

 あ、美味しい。


「ちょっと待てよ、何で俺だけ適当なんだよ!」


 うがー!とアーサーくんがカイン様に抗議しています。

カイン様はアーサーくんをチラッとだけ一瞥し、


「アーサーは甘ければ何でもいいんでしょ」


と素っ気なく答えます。わたくし達への対応と随分違う気がしますが、こちらが素なのでしょうか。仲は良いように見えますが。


「そうだけど!てか、甘ければ何でもいいのは俺もティアも同じだからな!」

「ティアの好みだったら徹底的に研究するけど、君の好みは大して興味無いんだ」

「俺の扱いが酷い!俺の好みも研究しろよ!」

「嫌だよ。時間が勿体ない」


 アーサーくんは貴族の間でもこんな扱いなのですわね。可哀想に。


 でも、気になる言葉がありました。やはり、このお茶会はティアちゃんが関係しているのですわね。

どう切り出そうかと考えていると隣のテオくんがカタン、とカップを置きます。


「カイン様、本題をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?・・・ティアに関わる事なんですよね?」


 カイン様は見定めるように目を細めてテオくんを見ます。そして、


「ああ。流石はテオ。では本題に入ろうか」


と胡散臭い笑顔で笑いました。

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