表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/201

ファロム領へ9:カイン視点

カインがひたすら悶々とするだけの話。

 ティアとベッドに横になる。


 手を繋ぐ事を所望されているので、僕自身はベッドの端で寝て、ティアの方に腕をピンと伸ばして手を差し出す。なるべくティアと距離を取る為だ。


 貴族である僕のベッドは広い。二人で寝てもまだスペースが余る程だ。僕は昔、平民のティアの部屋のベッドを見てから自分のベッドの大きさは大きすぎる気がしていたけれど、その大きさに感謝する日が来るとは思わなかった。


 僕の伸ばした手をティアの柔らかく滑らかな手が握る。

 ・・・ティアって細身なのに、どこ触っても柔らかいんだよね。不思議だ。


 ティアは僕の手を両手で握ったと思ったら、愛おしそうに頬に擦り寄せた。


「〜〜〜っ」


 胸がきゅんっとして、思わず手を引きそうになったが、どうにか堪えた。


「おやすみ、カイン」

「・・・おやすみ、ティア」


 幸せそうに目を閉じるティア。

 可愛すぎる・・・。


『おやすみ』って同じベッドの中で言い合うのすごいな。夫婦みたいだ。1年後にはこれが日常になるのか・・・幸せすぎて死んじゃうかもしれない。


 それにしても・・・そんな簡単に眠っちゃうなんて、ティアは僕を信用し過ぎじゃないかな?

 いや、信用されないのも困るけれど、無防備すぎるのも困るのだ。


 すー、すーっと規則正しい寝息を立て始めたティアを観察する。


 眠っている時の緩んだ顔のティアも可愛い。


 緩いウェーブの綺麗な黒髪が重力に従ってベッドに落ちる。薄く開いた桃色の唇から規則正しい寝息が漏れる。あの白い首筋に赤い痕を付けた事もあったなぁ・・・


「・・・っ!」


 ティアから視線を外し、天井を仰ぎ見る。・・・寝衣の隙間から柔らかそうな胸のふくらみが覗いていた。


 昨日腕に感じた柔らかな感覚を思い出して顔に熱が集まる。


 ティアは普段から胸の大きさを気にしているようだが、確かにこの国の女性平均よりは小さいのかもしれないけど、僕には十分過ぎるほど魅力的で。僕はティアがどんな大きさでも欲情するのだろうから気にしなくていいのに、とは思う。・・・そんな事、ティアには言えないけれど。


 ふと、ファロム領に到着した日、温泉でのアリアの言葉を思い出した。


『胸は男性に揉まれると成長すると言いますわ。ティアちゃんはカインくんに揉んで頂いては?』


 ・・・本当にアリアは何言ってんだよ!

 あの時はすごい想像をしてしまって、頭がいっぱいになってのぼせちゃったじゃないか!


 僕は基本的にティアに対してはチキンなんだよ。

 ティアに告白紛いの事を言われて逃げ出したあの時から根本は変わっていない。

 ティアの前世の物語を知って、ティアを誰かに取られてしまうかもしれない危機感から、誰が見ても婚約者に見えるようにティアに触れられるようにした。幸い僕は嫉妬や独占欲の感情が入るとタガが外れたように触れる事が出来た。・・・やりすぎる事もあったけど。


 ただ、最近は、ティアを愛しく思う気持ちでタガが外れてしまう事が多くなったと思う。無性にティアに触れたくなるんだ。


 ・・・今だって、ティアの白く滑らかな肌に触れて、キスをして、僕の所有印をたくさん付けて、ティアの全てを僕のものにしたいとか考えてしまう。


「・・・!」


 無意識にティアに向かって伸ばしかけていた手を慌てて下ろす。


 ダメだ。今夜はこれ以上ティアに触れないって決めたんだ。じゃないと、ティアを傷つけてしまいそうだ。


 もっとこう、他の事を考えよう。

 ・・・あのやたらと豪華な天井についてとか。


 貴族の館は天井まで豪華だ。大きなシャンデリアがあったりとか、細部までこだわった誰かの意匠だとか、天井が壁画になっている部屋もある。僕はもう少しシンプルでもいいんじゃないかと思うけれど、貴族には見栄とかプライドとか、そんなのがあるからめんどくさい。

 といっても、ファロム家は父様が品の良い高級感を好むので、貴族の中ではまだマシな方で、他の貴族の館はもっとごちゃごちゃと煌びやかに輝いていてすごいのだけれど。


 僕のような貴族の次男が結婚する時は、両親が邸宅を与えるのが普通だ。なので今僕らが住む為の邸宅を建設してくれているそうだ。


 両親は1年生の学園祭でティアに会ってからというもの、僕らへの対応が柔らかくなったように思う。結婚もお祝いしてくれるつもりらしいし、邸宅も準備してくれるのだという。ティアとの婚約がバレた当初は『勝手にしろ』くらいの雰囲気だったのに、随分とティアを気に入ったらしい。


 でも、今建設中の邸宅も見栄とプライドで豪華なものになりそうだ。お金を出すのは両親だけど、ティアが気おくれせずに安心して住める家になるように、僕も少し口を出しに行こうかな。




「ん・・・」

「・・・っ!」


 ゴロゴロと寝返りをうっていたティアだけど、いつの間にか僕のすぐ近くまで来ていたようで。

 ティアにぎゅうっと抱きしめられた。


 ・・・ちょっ、ティア?!


 ヤバい、ヤバい、ヤバい。

 落ち着きかけてた心臓がドクドクと早くなり始める。


 ティアの甘くいい匂いが・・・

 うぅ、またふくらみが僕の腕に当たってるよ!

 ・・・っ、足を絡めてこないで・・・!


 僕の理性がガリガリ削られていく。


「カイン・・・」

「〜〜〜っ」


 寝言なのだろう、舌足らずに呟かれた僕の名前に、僕はティアを思いっきり抱きしめ返した。


 先に触れてきたのはティアなんだから、なんて言い訳をしながら。













 コンコンコン


「カイン様、起床のお時間でございます」


「・・・ん」


 扉越しに聞こえる使用人の声にゆっくりと目を開ける。


 頭が重い。睡眠が足りていない。

 もっと寝ていたいと思うが、今日は王都に帰る日だ。惰眠を貪る時間は無いだろう。


「カイン様?入ってもよろしいでしょうか?」


 彼は王都から連れてきている僕専属の使用人だ。いつも通り着替えやモーニングティーを準備してくれているのだろう。

 僕はいつも彼が来る前に目覚めるので、すぐに返事がなかった事に疑問を感じたのだろう。改めて声をかけてくる使用人に返事をする。


「ああ、かまわな・・・ちょっと待って!」

「え?あ、はい」


 使用人の戸惑った声と開きかけた扉が閉じる音が聞こえるが、今はそんな事を気にしている場合ではない。


 そうだ、昨夜僕はティアと一緒のベッドで眠ったのだった。僕の腕の中で眠るティアがいて、昨夜の出来事を思い出す。


 あの後、僕はティアを抱きしめたままひたすら悶々とした時間を過ごし、結局僕が眠れたのは明け方だったと思う。

 どうりで頭が重いはずだ。


「ティア、起きて」

「んー、・・・やだ」


 トントンとティアの肩を叩くも、プイッと拒否されてしまった。


 ・・・か、可愛い。


 ティアってもしかして寝起きが悪いのかな?

 モゾモゾと布団に潜り込み、また寝息を立て始めたティアをこのまま寝かせてあげたい気分になるが、今は起きてもらわねば困るのだ。


「起きてよ、ティア。起きないと・・・襲っちゃうよ?」


 ちゅ、とティアのおでこにキスをする。それから瞼、頬、首筋、鎖骨とどんどんとキスを落としていく。


「ん・・・、ひゃあ!カイン?!」


 寝衣の乱れた胸元へキスを落とそうとした所でティアが目覚めてくれた。

 僕から飛び退くティアに苦笑し、服を整えるように言う。寝起きのティアは、まだポヤンとしながらも僕の言うことに従ってくれた。


 ・・・危なかった。ティアは寝衣も乱れてめくりあがっているし、はねた髪も開かれたぼんやりとした黒い瞳も、可愛すぎて刺激が強いのだ。

 入ってきた使用人がティアの可愛さに陥落したらどうするのさ。


 仕上げにティアの肌を少しでも隠す為に僕の上着を着せると、僕は使用人に入室の許可を出した。


「失礼いたします。カイン様、ご報告が――――・・・」


 部屋に入ってきた使用人は、ベッドの上でまだぼんやりとしているティアを見て目を丸くする。そして、キリッと目を細めたと思うと・・・


「湯浴みの準備をしてまいりますね」


 と踵を返す。


「違う、待って!湯浴みは要らないから!」


 何その『全てわかってますから』感!

 違うからね!湯浴みが必要な事はしていないよ!


 その後、僕は使用人の誤解を解くのに数分間の時間を要した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ