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ファロム領へ8:カイン視点

「ふぅ・・・」


 就寝の準備を整えた僕は、自室のソファーで一息つく。


 ファロム領での旅行も明日で終了だ。

 ティアや皆と領内をまわったのは楽しかったし、久しぶりに兄様に会っていろいろと話せて嬉しかった。昨年の夏はティアと一緒に旅行に行けなかったし、それもあってか今年はとても楽しかった。


 ・・・それにしても、今日のティアは可愛かった。

 今日の観劇は、前にニックとツバキ王子が、ティアは幽霊とかホラーが苦手っぽい事を言っていたから選んでみた。

 僕と一緒に観劇を観に行っても、ティアがホラーを観たいと言う事は無かったし、僕の知らないティアをツバキ王子が知っているというのが悔しかったのだ。


 結果は知っての通り。

 観劇中のティアは隣の僕の腕をギュッと掴んできて、終わってからも、涙目になって少し震えながら僕にすがり付いてくるティアが可愛すぎて・・・


『こんなにも苦手だったのか、申し訳ないな』と思う気持ちと『この可愛いティアを見れて得をした』と思う気持ちがせめぎ合った。人目が無かったら思いっきり抱きしめて慰めたかった。



 早くティアと結婚したいな・・・


 卒業したら結婚式を挙げて、二人で一緒に住み始める。

 毎日家に帰ってもティアと一緒にいられるとか、幸せすぎじゃないかな。


 結婚後は、しばらくの間はティアは家にいてもらって、まずは貴族の生活に慣れてもらう。その間は僕がティアを独り占めするんだ。


 ・・・もちろん、監禁とかそういうのじゃないよ?

 ティアと一緒にいる時間を一番長くして、ティアをたくさん甘やかして、僕も甘やかしてもらって。そんな穏やかで幸せな時間をたくさん作りたいんだ。


 ・・・その為にも邪魔者の排除は必須だけれど。でも、ツバキ王子はティアに選ばれない事がわかったし、彼は放置でも良さそうだ。

 問題はシャルロッテ王女とそれに協力する『彼』かな。ティアを害する危険人物達。種は蒔いたけれど、上手くいくかな。





 コンコン


 そんな事をつらつらと考えていると、部屋にノック音が響いた。


「・・・?」


 誰だろう。使用人はもう下がらせたし、毎夜の如く「遊ぼうぜー」と言ってくるアーサーとかテオ辺りかな。


 扉を開けると、予想外の人物に僕は固まった。


「・・・ティア?」

「夜遅くにごめんね、カイン」


 扉の前に立つティアは、薄手の寝衣のまま枕を抱えて、動揺する僕を目をうるませて上目遣いで見てきたのだった。










「とりあえず、どうぞ・・・?」

「ありがとう・・・」


 ティアを部屋に入れてソファーに座らせる。夏場とはいえ夜は冷えるので、僕の上着をティアに羽織ってもらうと、僕もティアの隣に腰掛けた。


「それで、どうしたの?」


 扉を開けた時からずっとティアの顔色が悪い、何かあったのだろう。落ち着くようにホットミルクを入れてあげた方がいいかな?


「あの、風が強くて・・・」

「うん・・・?」


 風?確かに今晩は風が強いらしく、たまに窓枠がガタガタと鳴っているが、それがどうしたのだろうか。


「今日の観劇の、ヒロイン攫われるシーンを思い出しちゃって、こ、怖くなって・・・」

「ああ、なるほど」


 そういえば今日の観劇に、窓枠がガタガタと鳴って暗闇から亡霊とゾンビが出てくる。そしてヒロインを連れ去るというシーンがあったな。それを思い出して怖くなったティアは、誰かと一緒にいたくて僕の部屋に来たのか。


 今日の観劇を思い出したのだろう、ティアは少し震えて自分の枕を抱きしめる。


「ごめんね、子供っぽいよね・・・先にアリアちゃんとミーナの部屋に行ったんだけど、寝ちゃったのか、出てきてくれなくて・・・」

「謝らなくていいよ。あれを選んだ僕も悪いから、落ち着くまでここにいればいいからね」


 よしよし、とティアの頭を撫でる。


 怖がるティアはとても可愛いけれど、今は夜中でここは僕の部屋でふたりきりだ。僕の理性が保つ内にティアが落ち着いてくれるといいけれど。


 やっぱりホットミルクでも入れてこようかな、そう思って立ち上がろうとした僕の袖をティアが引いた。


「あの、今日、カインと一緒に寝てもいい?」


 ズガンっと胸と頭を同時に打たれたような感覚がした。


 ティアと僕が一緒に寝る・・・?

 それ、意味わかって言ってる?・・・いや、わかっていないな。絶対。


 フルフルと震えるティアはただ怖くて、誰かと一緒にいたいのだろう。


「〜〜〜っ、じゃあ、僕はソファーで寝るからティアはベッドで・・・」


 僕は紳士だと頭の中で繰り返し、僕の理性がギリギリ保ちそうな案を提案するも、ティアは首を横に振った。


「同じベッドで、出来れば手を繋いで欲しい・・・ダメ?」


 ・・・ダメでしょ!

 同じベッドで手を繋いだまま寝るとか・・・眠れないし、僕の理性が保つ気がしない!


「・・・」

「やっぱり、ダメ、かな・・・」


 僕からの返事が無いことにティアが悲しそうに俯く。


「っ、ティア」

「!」


 ティアの柔らかな前髪に触れて、おでこにキスをする。


「いいよ。今日は一緒に寝ようか。・・・手を繋ぐだけだからね?」

「うんっ」


 ティアが嬉しそうに笑ってくれた。キスをしたからか頬に赤みがさしたし、やっぱりティアには笑顔が似合う。



 ・・・そして僕は心の中で誓った。今夜はこれ以上ティアに触れないと。




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