ファロム領へ1
夏季休暇の一番のイベント、ファロム領へ旅行にやって来た。
ファロム領はリオレナール王国との国境にある領地で、リオレナール王国との交易が盛んな領地だ。更に私の今回の一番の目的、温泉がある。日頃の疲れをここで癒す予定だ。ふふん。
メンバーは、カイン、アーサー、テオ、アリア、ミーナと私だ。領地運営を任されているシヴァンが出迎えてくれて、領主の館に部屋を準備してくれる事になった。
ファロム領の領主の館に着いた時は昼過ぎで、荷物を置くために各々部屋に案内された。
ロサルタン公爵家の館も大きく豪華だったけれど、ファロム侯爵家の館も負けじと大きく豪華だ。雰囲気は少し違うけれど。
ロサルタン公爵家の館は豪華絢爛って感じだったけれど、ファロム侯爵家の館は品の良い高級感がある。王都のファロム侯爵邸の雰囲気に似ている。
「あれ?私は一人部屋ですか?」
私が案内された部屋はベッドが一つしかない。アリアやミーナと三人部屋になると思っていたので、不思議に思い案内してくれたシヴァンを見上げる。
「二人部屋までしか準備出来なかったからね。ティアはカインの婚約者だから、特別扱いにさせてもらったよ」
ファロム領の領主の館はカインの第二の家になる。そのカインの婚約者という事で特別に一人部屋を準備してくれたらしい。
「お気遣い、ありがとうございます」
「ちなみに、カインの部屋はここのすぐ近くなんだけど・・・夜中に襲いに来たりしたらダメだよ、カイン?」
くるっとカインを振り返り、意地悪な笑顔を見せるシヴァンに、カインが猛烈に動揺し始めた。
「はぁ?!いいいい行くわけないでしょ!何言ってるのさ?!」
からかわれてるなー。
紳士のカインがそんな事するはずないのはわかっているのだが、顔を赤くして狼狽える、そんなカインが可愛くて、シヴァンと共にニマニマしてしまう。
「もー!兄様もティアも、僕をからかって遊ばないでよ・・・」
「ごめん、ごめん」
「カインの反応が可愛くてつい」
拗ねるその反応も可愛いくて愛おしい。
それぞれ荷物を置いて談話室に集まると、今日は移動の疲れもあるし、温泉に入ってゆっくり休み、明日から街に繰り出そうという話になった。
なんと、この領主の館にも温泉があるらしい。家に温泉があるとか羨ましすぎる。
お風呂場は男女別になっているので、カイン達と別れてお風呂場に入る。
「おお、広いねぇ」
「さすがはファロム侯爵家ね」
「大きなお風呂に皆で入るなんて、楽しみですわね」
私とミーナ、アリアは温泉にそれぞれ感嘆の声をあげる。
領主の館の温泉は荘厳な石造りで、ライオン装飾の口から常に温泉が流れ出ている。イメージ的にはローマの温泉という感じだ。
日本の岩風呂のような露天風呂を想像していた私は、「あ、こっちだったか」と思った。
サクレスタ王国は西洋文化に近いので、よく考えたら当然だよね。
「はふぅ、気持ちいいねぇ」
「普通のお湯と違って肌が滑らかになるわね」
「美容の効果もありますのね」
温泉に浸かると体がポカポカしてきて気持ちいい。夏場だし、浸かりすぎるとのぼせてしまうので注意が必要だけど。
というか・・・
「アリアちゃんもミーナも胸大きすぎじゃない?!」
服を脱いで改めてわかる二人の胸の大きさと、私の小ささだ。
「そうかしら?アリアさん程ではないわよ?」
首を傾げるミーナだけど、大きいよ!普段はそこまで思っていなかったので、ミーナは着痩せするタイプなのだと思う。
「これはこれで邪魔なのですよ?肩こりも酷いですし」
アリアはこの三人の中で一番の巨乳だ。メロンでも入ってんの?ってぐらいだ。そういえば、シャルロッテもアリアくらいはあったかな。
「その台詞私も言ってみたいよ・・・」
前世含めて胸の大きさで肩こりに悩んだ事がない私は、ガックリと肩を落とす。
「わたくしは、ティアの小ぶりな胸の方が素敵だと思うわよ。形も整っているし、ティアは細身でスタイルも良いのだから、とても綺麗よ?」
「そうかな・・・」
ミーナが励ましてくれるけれど、やっぱり女性として大きな胸には憧れがあるというか・・・身近に例がいると余計に。
しゅんとしながら自分の小ぶりな胸を見下ろしていると、アリアがニマリと唇の端を上げた。
「あら、胸は男性に揉まれると成長すると言いますわ。ティアちゃんはカインくんに揉んで頂いては?」
「なっ、揉っ?!む、無理っ」
一瞬すごい想像をしてしまい、動揺して周りのお湯が跳ねる。
かぁぁと顔が赤くなるのは温泉のせいではない。
「あら、そうですか?・・・では、代わりにわたくしが揉んであげましょうか」
楽しそうにニマリと笑ったアリアが、私に向けてワキワキと指を動かす。
「えっ、ちょっ、何その手つきっ!きゃっ、くすぐったい!」
「わたくしも混ぜてくださいませっ!」
「きゃー!ミーナまで!やっ、・・・もう、お返しだー!」
「ひゃっ、ティアちゃんくすぐったいですわ!」
きゃあきゃあと騒ぎまくって温泉を堪能した私達が談話室に戻ると、カインとアーサーが湯あたりしたらしく、ソファーでぐったりとしていた。
温泉、慣れないから浸かりすぎたのかもしれないな。
「大丈夫?」
声をかけながらカインの顔を覗き込むと、まだ赤い顔をフイっと逸らされてしまった。何故。