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魔術具納品2

ティア視点→ニコラス視点になります。

 声をかけてきたのはキリアと・・・隣りの女の子はルピアかな?キリアの妹で、ニコラスの婚約者候補の。緑色の髪と空色の目が愛らしい少女だ。


「ごきげんよう、ニコラス殿下。と・・・」


 ルピアがニコラスに向けて挨拶をするが、隣の私に疑問符を浮かべる。


「ティア・アタラードと申します。お初にお目にかかります、ルピア・セディル様」


 淑女の礼をすると、ルピアはパッと顔を綻ばせた。


「『ティア』?もしかして、あのティア様ですかっ、お兄様?」


 ルピアがテンション高く隣のキリアの袖を引くと、キリアはうむ、と頷く。


「ああ、あのティア様だ。こんな所でお会い出来るとは光栄です」


 ・・・なんだ『あのティア様』って。さてはキリアがルピアに妙な事を吹き込んでいるな?嫌な予感しかしないのだが。

 キリアもルピアも公爵家貴族なので平民の私を様付けするのはやめて欲しい。


「ルピアにキリア、こんにちは。もうそんな時間でしたか・・・ティアを送って来るまで少し待っていて頂けますか」

「お約束があったのですか?ではわたくしはここで失礼いたしますので、お気遣いなく」


 ニコラスはどうやら私の魔術具設置の後にルピアとキリアと約束があったらしい。魔術師長との話が長引いたので予定が押してしまっていたのだろう。

 ここから正門まではそんなに遠くないので、私一人でも迷わず行けるだろうと思い、ここで失礼しようとするが、ニコラスに止められた。


「いえ、そういう訳にはいきません。ティアをちゃんと送り届けないとカインに怒られてしまいますので」

「ですが・・・」


「ティア様、我々の事はお気になさらず。殿下、応接室にてお待ちしております」

「それでは、ティア様ごきげんよう」


 キリアとルピアはニッコリ微笑むと歩いていってしまった。



「ティアはルピアに会うのは初めてですよね?彼女は僕の婚約者候補の方なのです。なので、たまにこうしてお話する時間を取っているのです」

「そうなのですね。可愛らしい方でしたね」


 シャルロッテとは学園で関わる時間があるけれど、まだ12歳のルピアとは学園では接点がないので別に時間を作っているのだろう。

 同じ婚約者候補として平等に扱わなければならないだろうから。


 ルピア様、ちゃんと会ったのは初めてだけれど、ふわふわした可愛らしい女の子だったなぁ。







 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 僕はティアを正門まで送った後に、キリアとルピアの待つ応接室に向かいました。


「お待たせしました」


 僕の婚約者候補の一人、ルピア・セディルはセディル公爵家の次女で、緑色の長い髪に空色の瞳が愛らしい今年12歳になる少女です。


 国内の僕の婚約者候補は、公爵家、侯爵家、伯爵家の婚約者のいない者、そして昔から僕を推す派閥の家という条件に当てはまる中の女性から選ばれています。

 更に僕の王太子就任式典の時に挨拶を交わし、他の候補の女性達が獲物を狙う狩人のような目をしていたのに対し、ルピアはなんだか澄んだ目をしていたので選ばせてもらったのです。

 ルピアの澄んだ目は純粋、というのでしょうか。目の色は全く違いますが、そこに宿る輝きはティアに似ていると思いました。


 年齢が多少ネックですが、僕も王太子として仕事が出来るようになるまでにルピアの成人を待つくらいの時間はかかるでしょうし、問題ないでしょう。


「そういえば、ティア様は本日どうして王宮へ?」


 近況報告など無難な話の後に、キリアが先程僕と一緒にいたティアを思い出し首を傾げます。


 キリアはルピアの兄で、ルピアと同じく緑色の髪に空色の目をしているキリッとした顔立ちの青年です。王宮に来るルピアにいつも付き添ってくれる真面目で妹思いな人なのです。

 カインとアーサーを尊敬しているらしく、そのカインの婚約者であるティアに対しても尊敬の念を抱いているようです。

 狩猟大会でカイン、アーサー、ティアと同じチームに入れてもらったキリアは、周囲に喜びを熱く語っていたそうですね。


「ティアは、陛下ご依頼の魔術具を届けに来てくれたのですよ」

「陛下ご依頼の魔術具ですか?!・・・ティア様の作る魔術具は素晴らしいですからね。さすがはティア様です」


 陛下依頼の魔術具に驚いたキリアでしたが、すぐに納得してティアを讃えていました。


「陛下に魔術具を依頼されるというのは、それほど素晴らしい事なのですか・・・?」


 頷くキリアにルピアの控えめな声がかけられます。


「ああ、王宮には王宮魔術師がいらっしゃるだろう?信用の問題もあるし、陛下が外部に魔術具作成依頼をするなど滅多にないのだぞ」

「ええ。ティアの作る術式が難しすぎる事、多量の魔力が必要な事、ティアは陛下が信用に足ると判断した事をふまえて、魔術具作成依頼をしたのですよ」


 最初は魔術師長がティアの魔術具の術式を見て作る気だったそうですが、ティアの魔術具の術式は複雑過ぎて魔術師長にも解読が不可能だったそうです。

 後で魔術師長がとても悔しがっていました。


 僕の言葉にルピアが空色の目を輝かせました。


「ティア様は本当に素晴らしい方なのですね。お兄様の言う通りです。わたくしも年齢が近ければもっと接点がありましたのに・・・」

「ルピアもティアを尊敬しているのですか?」


 そう言えば、先程からルピアはティアを様付けで呼んでいます。

 学園内には平民のティアを様付けする貴族は多少いますが、珍しいのは珍しいです。キリアの影響でしょうか。


「はいっ。お兄様からいろいろとお話を聞かせて頂いておりました。お目にかかったのは今日が初めてですが、黒く艶やかながらも柔らかそうな髪に、黒曜石のように輝く瞳に籠ったまるで慈愛の女神のような眼差し。美しく整ったお顔立ちも素敵ですが、ティア様の一挙手一投足で花が舞うような立ち居振る舞い。お兄様のお話以上に素敵で、わたくし緊張してしまって、あまり話せなかった事が悔やまれますわ」


 本当に悔しそうに唇を噛むルピア。どれだけティアの事が好きなのですか。


 でもこの反応は、僕も嬉しいです。もう一人の婚約者候補であるシャルロッテ王女は、平民に差別意識のある方のようです。ティアを平民だからと蔑む言動が多く見られます。

 自分が守るべき民を嘲る態度は僕は好きではありません。


「ルピアは平民だからと蔑んだりはしないのですね」


 思わず本音が漏れると、ルピアはキョトンと瞬きをしました。


「身分で蔑むのはよくわかりません。お父様・・・セディル公爵は『平民と貴族はそれぞれの役目があり、お互いがいなければ成り立たない、相互に協力する事が大切だ』と言っております。それに、ティア様は陛下も認める実力の持ち主で、立ち居振る舞いもその辺の貴族よりも上等ですわ。どこに蔑む要素があるのでしょうか」


 心底わからないと言うように首を傾げるルピアに、僕も頷きます。

 ルピアは真っ直ぐ人を見て判断する子なのですね。


「僕もそう思います。僕はルピアの純粋で真っ直ぐな所、好きですよ」


 ニッコリと微笑むと、ルピアがほんのり顔を赤くして俯きました。


 その仕草が可愛くて、思わず声に出して笑うと、ルピアがムーっとした表情を向けてきました。


 ルピアは、最初に会った時は緊張していたのか、貼り付けた笑みを浮かべているだけだったので、最近はいろんな表情を見せてくれるようになって嬉しく思います。



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