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魔術具納品1

 テストも無事に終わり夏季休暇に入った。

 今回は誰も補講になる事はなくて、夏季休暇の旅行は予定通りに行けそうだ。


「ティア」

「ニコラス殿下、ごきげんよう」


 夏季休暇に入ったばかりだが、私は再び王宮を訪れている。

 先日依頼された王宮を取り囲むシールドが出来たので、納品と試運転の為に来たのだ。


 王宮に着くとニコラスが出迎えてくれたので、スカートを摘み、淑女の礼をして挨拶を交わす。


「休暇中にも関わらずありがとうございます。こちらへどうぞ」


 そう言ってニコラスに案内されたのは、この前も来た謁見の間のすぐ後ろの小部屋だ。

 シールドは魔術具を基点に円形に展開するので、王宮の中心に設置したいと言ったらここに案内された。


 実はこの小部屋、外から見ると部屋があるとは思えない造りになっていて、入口も登録された者の魔力でしか開かないらしい。一種の隠し部屋である。


「来たか」


 小部屋の中では魔術師長が待っていて、部屋を整えてくれていた。


「ごきげんよう、魔術師長」

「堅苦しい挨拶は良い、それで、それがシールドか?この前の物と形が違うな」


 魔術師長は変わらずマッドサイエンティストである。早く魔術具を見たくてたまらない、という顔をしている。


「はい。この前の物は狩猟大会用に小型化、軽量化を前提に作りましたが、王宮ではその必要は無いので機能を増やした分、少しかさばる物となっております」


 狩猟大会用は簡単に持ち運び出来る物だが、王宮を守るシールドが簡単に持ち運ばれたら困るので、少し大きめだ。

 といっても、デスク型パソコンの画面ぐらいの大きさ、形なのだが。


 私はニコラスと魔術師長に使い方等を説明しながら魔術具を起動させる。

 二人とも興味深々で聞いてくれ、質問に答えたりしているとあっという間に時間は過ぎていった。


「なるほど、理解しました。それにしても、これだけの事が出来るのにほとんど魔力を使わないとは、ティアの魔術具はすごいですね」


 ニコラスが関心したように魔術具を見ると、魔術師長も大きく頷いた。


「本当に。・・・ティア、卒業したら王宮魔術師にならないか」

「・・・へ?」


 魔術師長の突然のお誘いに呆けた声が出てしまった。


 王宮魔術師って・・・王宮で働く魔術師だよね?魔術師長の元で働くって事?


「王宮魔術師は国の為の魔術具を管理、作成する仕事だ。給金や与えられる地位も高くなる。何より、ごく一部の者にしか閲覧権が与えられない禁書庫を好きに閲覧出来るのはこの役職の特権だ」

「・・・禁書庫?」


 本好きにはワクワクするような単語が出たので食いつくと、好感触と捉えられたようだ。魔術師長が自慢げに語り出した。


「情勢に合わず出版されずに禁書とされたもの・・・魔術に関する物が多いな。大昔に作られたが今は作れない魔術具が載った本、禁止され隠蔽された術式、決して外部に漏らしてはならない物ばかりだが王宮魔術師になれば全てが閲覧可能になるのだ。興味が湧くであろう?」


 おお。確かに面白そうだ。

 もしかしたら、私の他にも転生者がいて、日本語で術式を作って今は作れなくなった、とかもあるのかもしれない。とても興味ある。


 だけど・・・自慢気に語ってくれる魔術師長には申し訳ないが、私は卒業後すぐに働き始める訳ではない。


「申し訳ございませんが、以前も申し上げましたが、わたくしは卒業後は結婚いたしますので、働き口については追々考えていこうと思っております」

「・・・そうか。では今は魔術具作成を依頼するという形にさせてもらおう。・・・気が変わったらいつでも言ってくれ」


 禁書庫は面白そうだけど、私はカインの意思が優先だ。カインが女主人として家の事をして欲しいというのならそちらを優先したい。


 そう言うと魔術師長はとても残念そうな顔をした。




 王宮魔術師の件は丁重にお断りし、門まで送ってくれるというニコラスと共に王宮の廊下を歩く。


「先程は魔術師長が失礼いたしました。あの方は悪い人ではないのですが、魔術の事となると歯止めが効かないようでして・・・今はティアの魔術具に興味津々らしいのです」


 ニコラスが申し訳なさそうに眉を下げる。


「いいえ。わたくしの魔術具を評価して頂いていること自体は嬉しく存じます」


 魔術師長は魔術研究大好きっぷりがエリクと似ていると思う。多大な権力を持っている王宮魔術師のトップとは思えないくらい研究馬鹿っぽい。


「禁書庫の件も・・・魔術師長は禁書庫を閲覧したいが為だけに王宮魔術師になった人らしくて、ティアも自分と同じく禁書庫には興味あるだろうと考えているようなのです」


 禁書庫を閲覧したいが為だけって・・・。確かに、魔術師長のようなタイプは国の為に魔術具を作る王宮魔術師よりも、自分の好きな魔術具を作る魔術具研究者の方が合っていそうだ。


「わたくしも、禁書庫には興味がございますが、それだけで王宮魔術師になろうとは思えませんので・・・」

「あ、良いのですよ!こちらも無理は言いませんので」


 確かに王宮魔術師も働き口の選択肢の一つとしては良いのかも知れないが、それは追々考えていこう。





 それにしても・・・


 ニコラスと共に王宮の廊下を歩くと、使用人さんは端に寄って礼をするし、貴族も頭を下げる。

 それを当たり前の事として受け取っているニコラスはやはり王子なのだと実感する。私の家に平民の格好で遊びに来るニコルとは違うのだ。


「ティア?どうかしましたか?」

「いえ、王宮にいる殿下はなんだか知らない人に見えるな、と思いまして・・・こちらが本当の殿下なのに、変ですよね」


 私が正直に話すとニコラスは「そうですか?」と考える。


「・・・王太子ニコラスも、ただのニコルもどちらも本当の僕だと思いますよ。王族は公僕であるべきだとは思いますが、僕にも人格はありますしね。ただのニコルでいる時間も僕にとっては大切なのです」


 ニコラスは王太子として背負わなくてはならない物もたくさんあるのだろう。その責務を放り出すつもりはないが、少し息抜きが出来る場所がニコルでいる時間なのだという。


「ティアやニックにはこれからも仲良くして欲しいです。もちろん、アーサーやカインにも。・・・カインにはあまり好かれていないかもしれませんが」

「え?」

「・・・え?」


 意外なニコラスの言葉に思わず聞き返すと、ニコラスからも驚いた声が返ってきた。


「・・・カインは殿下にそれなりに心を許してると思いますよ?」


 友人、とまではいかないが、それなりに信頼に値すると思っていると思う。


「えっ?とてもそうは見えません!」


 ニコラスはブンブンと首を横に振って否定した。若干顔が引きつっているので、ニコラスはカインに苦手意識があるのかもしれない。

 でも・・・


「カインは信用の無い人を私とふたりきりにしたりしませんから。現時点で私と殿下はふたりきりじゃないですか。これが元第一王子だったらあらゆる手を使って阻止してきますよ」


 カインは私に対して過保護過ぎるくらいだ。私が安全だと思わない限り、誰かとふたりきりにしたりはしないだろう。身分の高い人は特に。


「兄上はとてもカインに嫌われていますね・・・そう考えると僕はマシ、ですかね」


 うーん、とニコラスは首を捻るが、今日だって、王宮ではニコラスが案内してくれると言ったら「気をつけてね」ぐらいだったので自信を持って良いと思うのだが。



「ニコラス殿下」


 更にフォローを入れようとすると、前方から歩いてきた男女に声をかけられた。




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